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雪玉とお土産

「へえ、本当に色々あるんだな」

 棚に列ごとに綺麗に並んだ様々な種類の雪玉を見て、ニコスが感心したようにそう言って楽しそうに笑った。

「しかも、チョコレートやいろんな果物味みたいな甘いものだけじゃあなくて、黒胡椒やチーズ味なんかもあるのか。ううん、こっちはお茶よりもワインに合いそうだな」

 それぞれのお菓子の前に貼られている、味の説明が書かれたカードを見たニコスの呟きにギードとタキスが揃って吹き出す。

「さすがはニコスですね。まさにその通りですよ。特に黒胡椒はワインの友と別名がついているくらいには合いますよ」

「素晴らしい。それはぜひ土産に買って帰ろう」

 笑ったタキスの説明にニコスが大真面目な顔でそう言い、顔を見合わせてもう一度揃って吹き出した。

「それで、ニコスはどれにする? 決まれば後ろから取ってくれるからな」

 笑ったギードの言葉に驚いたニコスが顔を上げると、棚の向こう側にトングとトレーを持った店員が笑顔で控えてくれているのに気づいて納得したように頷く。

「成る程。さて、どれにしようかなあ。雪玉をいただくのは初めてなのですが、おすすめはありますか?」

 少し考えたニコスは、そう言って素直に棚の向こう側で控えている店員に尋ねた。

「こちらの粉砂糖がかかっているものが、最初に作られた今でも定番で人気の雪玉になります。サクサクとした食感です。こちらの果物のシロップがかかったものは、シロップが染みて柔らかくなっていますので、先ほどのこちらとは食感が違いますから食べ比べていただくのも面白いですよ。特にキリル味は当店の一番人気ですね。通常のキリルのジャムの場合、加熱すると酸味がほぼ無くなるのですが、当店のキリルのシロップは特別な方法で加工していますので、独特の酸味が残っていて後味が良いのが特徴です」

「へえ、それは美味しそうだ。じゃあ俺はその定番の粉砂糖のとキリル味のを頂くよ」

「ワシは、チョコナッツとベリーをもらおうか」

「では、私はこのオレンジチョコとレモンハチミツをいただきます。師匠はどれにしますか?」

「そうだな。では、シナモンとキリルを頼む」

 棚にある種類を見もせずにそう言うガンディを、タキスが驚きに目を見開いて振り返る。

 しかし、店員は平然とガンディが言った雪玉をトレーに取った。

「成る程。師匠は店に並ぶ定番の種類を暗記するくらいに、ここに通っておられるわけですね」

 呆れたようなタキスの呟きに同じ事を思っていたニコスとギードが揃って吹き出し、ガンディも笑っていたのだった。



「どうする? せっかくだから色々食べてみるか?」

 笑ったガンディの言葉にタキス達も笑顔で頷くと、それを見た店員が即座に小さなナイフとフォークをトレーと一緒に持って来てくれた。

「じゃあ、せっかくだから四分割して皆で食べるとしようか」

 何故か嬉しそうにそう言ったガンディが、手早くそれぞれの雪玉を四分割してお皿に並べ直してくれた。

 キリルは二個あったので、半分に切ったものが並べられている。

 まさかのガンディのその手慣れた様子に、見ていたタキス達は、もう揃って必死になって笑いを堪えていたのだった。



「へえ、どれも美味しいな。確かに聞いた通りでこっちはサクサクだし、逆にこっちはシロップが沁みていて柔らかい。どれもとても美味しいよ」

 笑顔のニコスの言葉に、タキス達も笑っている。

「すまんが土産に全種類五個ずつ包んでもらえるか。それと全種類二個ずつ。竜騎士隊の本部に儂の名前で届けてやってくれ」

「かしこまりました、すぐに準備いたします。いつもありがとうございます」

 笑顔の店員が一礼して下がるのを見たガンディは、タキスを振り返った。

「其方達の土産はどうする? そちらも全種類二個ずつあればいいか?」

「さすがに全種類二個ずつは多いのでは。ああ、そうですね。お屋敷の皆様にも食べていただくなら、それくらいは要りそうですね。ではそれでお願いします」

「了解だ。おおい、あと全種類二個ずつも別に包んでくれるか」

「かしこまりました!」

 返ってきた返事に、笑顔のガンディが頷く。

「では、土産を用意してもらっている間に、残りをいただくとしようか」

「そうですね。では、次はどれを食べましょうかね」

 嬉しそうなタキスの言葉にニコスとギードもそれぞれのお皿を見て、もう一度顔を見合わせて揃って好きな味を摘んで口に放り込んだのだった。



「ありがとうございました!」

 それぞれ土産の包みを受け取り、笑顔の店員に見送られて店を後にしたタキス達は、そのままのんびりと円形市場の中を歩き、タキスが見覚えのある店を見つけては立ち止まり、また初めて見る店でも足を止めてはその度に楽しそうに店主と話をしたり買い物をしたりしていた。

「どうやら久し振りの街歩きは、お楽しみいただけていているようだな」

 周囲を警戒にあたっている年配の護衛の一人が、楽しそうな彼らの様子を遠目に見て笑顔でそう呟く。

「五十年前と今では、そんなに違うものですか?」

 年若い護衛の一人が、そんな彼らを見て不思議そうにそう尋ねた。

「どうだろうなあ。主だった建物はさすがに変わらないだろうが、水路や路地はかなり改修されていると聞くから、かなり変わっているだろう。城壁自体の位置は変わらないが、周囲の建物や路地も再開発で作り自体が変わっている部分もかなりあると聞くからな」

「逆に、記憶にあるのと同じ店などを見つけたら、そりゃあ嬉しかろう」

 雑貨屋の年配の店主と何やら楽しそうに話し始めたタキスを見て、護衛の者達も笑顔になるのだった。

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