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オルダムの街と水の神殿

「水の神殿でしたら、ひとまず街の中へは入らず城壁横の道を迂回して行きましょう。その方が確実に早いですから」

「そうですね。是非それでお願いします。街の中を突っ切るのは至難の業ですからね」

 先頭を進むオリサーの提案に、笑ったタキスが大きく頷く。

「俺はオルダムの街へ行くのは初めてなんだが、そんなに大変なのか? 確かに、蒼竜様の背に乗ってここへ来た時に上空から街を見せてもらって、そのごちゃごちゃっぷりに驚いたけど……」

 ニコスの感覚では、王都の街は道も広くて綺麗に整っているものだ。貴族街は言うに及ばず、街の人々が住む一般の区画もとても綺麗に整備されていた。

 だが、彼らの話を聞くにオルダムの街の城壁はそれとは全く違うのは理解出来た。

「まあ、これこそ見れば分かるさ。では行くとしようか」

 ようやく見えてきた一の郭と街を区切る大きな城壁を見上げたギードの言葉に、ニコスも苦笑いしながら頷いたのだった。



「成る程。さっきタキスが言った、街の中を突っ切るのが至難の業だって言葉の意味が、城壁沿いの道から垣間見ただけでも心の底からよく分かった。あれは無い。冗談抜きでごちゃごちゃなんて言葉ですら甘いくらいだ」

 城壁横の道を進みながらのしみじみとしたニコスの呟きにタキスとギードが遠慮なく吹き出し、遅れて護衛の者達も困ったように笑った。

「アーシアのお墓参りが終われば、せっかく案内人の方がいるのですから少し街の中も見てみましょう。私の記憶とどれくらい変わっているのか、実はちょっと楽しみなんです」

 街の方を見ながらの嬉しそうなタキスの言葉に、皆も笑顔になる。

「もちろん何処へでもご案内いたしますよ。なんなら、各神殿巡りでもしてみますか?」

 笑ったオリサーの提案に、少し考えたタキスは笑って首を振った。

「それは楽しそうですが、さすがに今からでは回り切れませんよ。それに、神殿などの場所は変わっていないでしょうから、私は街の中の様子を見てみたいですね。ああ、久しぶりに雪玉が食べたくなりましたね。オリサーさんのおすすめのお店があれば教えてください。レイや、お屋敷の皆様にお土産を買って帰りましょう」

「それなら、私よりもフェルナが詳しいですよ。彼女は甘党なので」

 笑ったオリサーの言葉に、後ろにいた護衛の二人が同時に吹き出していた。



「おお、あれが水の神殿か。オルベラートの街にある水の神殿とはまた違うが……これも素晴らしいな」

 ようやく到着した水の神殿を見て、ニコスが感心したようにそう呟く。

 水の神殿は、女神オフィーリアの息子であり、十二神の中で唯一の未成年だ。

 出会った時にはまだ幼く小柄で小さかった精霊王の生まれ変わりの少年に寄り添い文字通り身を挺して助け続け親友となった少年だ。水の精霊魔法を使いこなし、戦いの日々の中でその才能が開花して最強の水の精霊魔法の使い手とまで呼ばれるようになったのだ。

 また、今では神となったエイベルと同じく、子供の守り神としての信仰を集めてもいる。

 そしてここは水の神殿の名の通り神殿前の広場には巨大な噴水があり、定刻になるとさまざまな形で噴水が噴き上がり人々を楽しませている。

 今はその時間ではないので、大きな円形に作られた噴水の中で、子供の背丈ほどの細い水が中心に向かって吹き出している程度だ。

 水の神殿の建物の東側には、格子状になった二重の壁が設けられていて、そこには絶えず綺麗な水が流れ落ちている。

 今は集まってきた鳥達が、楽しそうにその流れ落ちる水で水浴びをして周囲に飛沫を撒き散らかしていた。

「おやおや、鳥達も参拝に来ているようですね。では、まずはマルコット様にご挨拶を」

 楽しそうに水浴びをする鳥達を見たタキスの言葉に皆も笑顔で頷き、入り口でラプトルを預けてから神殿の中に入った。



「おお、祭壇の背後にも水が流れているのは、オルベラートの神殿と同じだな」

 中に入って、正面にある大きな祭壇を見たニコスが思わず呟く。

 祭壇の中心には、大人の背丈よりも大きなマルコット様の彫像が置かれ、背景には水平に溝をいくつも彫られた壁があり、ここも上部から出た水が壁に沿って流れ落ちていて、マルコット様の足元に池のようになって溜まっていた。

 もちろん流れる水の量は調節されているので参拝者達に跳ねないようになっているし、池になったマルコット様の足元の水も、あふれる事なく排水されるようになっている。

 お金を払ってやや大きめの蝋燭を買ったタキス達は、その蝋燭に火を灯して、祭壇前に用意されている専用の燭台に蝋燭を捧げてから、順番に祭壇に正式に参った。

 しばし祭壇を見上げて無言だったタキスは、一つ深呼吸をしてから待っていてくれた護衛の者達を振り返った。

「では、まだある事を願って墓地の方へ参りましょうか」

 タキスの言葉に護衛の者達は困ったように笑って頷き、全員揃って祭壇に改めて一礼してからその場を後にした。

 神殿前の広場には、お墓参りに来た人の為に花屋の屋台が並んでいる。

 タキス達はそれぞれ花を買ってから建物の裏手側にある墓地へ無言で向かう。なんとなく早足になったのは、全員の気持ちを表していた。

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