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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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オルダムのお墓事情

「じゃあ、僕はもう行くからね。タキス達も気をつけて行ってきてね」

 ラスティから剣を受け取ったレイが、剣帯に装着しながらそう言って笑顔で振り返る。

「はい、いってらっしゃい。しっかりルーク様の説明を聞いてくるんですよ。明日の叙任式での貴方の立派な姿を見るのを楽しみにここまで来たんですからね」

 笑ったタキスに背中を叩かれ、情けない悲鳴をあげるレイ。

「うう、頑張って聞いてきます。明日の事を考えると、お腹が痛くなってきたかも……」

 わざとらしくお腹を押さえつつ、だがその顔はどう見ても笑っている。

「そりゃあ大変だ。今すぐ休んだ方がいいんじゃあないか?」

「そうだな。安静にしておくべきだぞ」

「休みたいのは山々だけど〜〜明日の式典にぶっつけ本番でする勇気は僕にはありませ〜〜ん!」

 笑いながらのレイの叫びに、タキス達は揃って吹き出したのだった。



「じゃあ、いってきま〜〜す」

 ラスティとアルベルトと一緒に、笑顔のレイが手を振って部屋を出て行くのを見送った三人は、扉が閉まったところで笑顔で顔を見合わせた。

「では、我らも準備をして出掛けるとするか。ここから水の神殿ならば、それなりの距離があるからな」

 オルダムの街はそれなりに知っているギードの言葉に、タキスとニコスも笑顔で頷く。

 そのまま一旦それぞれの部屋に戻って外出着に着替えた三人は、廊下で集合してから執事の案内で屋敷の外に出た。

 そこには、彼らが蒼の森から乗ってきたドワーフギルドから借りたラプトル達が、すでに準備万端で待っていた。



「本日、護衛兼案内役を務めさせていただきます、オリサーと申します」

 そのラプトル達の横には同じくラプトルの手綱を引いた三人の男女がいて、先頭にいたやや大柄な男性がそう言って一礼する。

「同じく、護衛を務めさせていただきますベルスと申します」

 やや細身の男性がそう言って一礼する。

「同じく、護衛を務めさせていただきますフェルナと申します」

 笑顔の女性もそう言って一礼した。彼女はタキスよりも背が高く、女性としてはかなりしっかりとした体格だ。

 三人とも腰には剣を装着しているし、この時期にしては着ている服装がやや厚手だ。恐らく専用の防具を身につけているのだと、そんな三人を見たニコスはすぐにそう理解した。

「よろしくお願いします。どうぞタキスとお呼びください」

「ニコスです。お世話をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」

「ギードです。お世話をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」

 平然としているニコスと違い、タキスとギードはやや緊張気味だ。



 一通りの挨拶を交わしたところでそれぞれラプトルに乗り、オリサーを先頭にその後ろにタキスとギードが並び、その後ろにニコス、その後ろにあとの二人がついて出発した。

「まずは水の神殿でよろしいですね」

「はい、それでお願いします」

 ゆっくりとラプトルを進ませながらのオリサーの声にタキスがそう答えたが、不意に何か思いついたように黙って俯き考え込んでしまった。

「ん? いかがした?」

 すぐにその様子に気がついたギードが、少し心配そうにそう言って鞍上からタキスを覗き込む。

「いえ、今気がついたのですが、もうあれから五十年を余裕で過ぎていますね。もしかして、もう撤去されてしまったでしょうか?」

 タキスのその言葉にニコスは首を傾げ、残りの全員が驚いたように目を見開いた。

「そ、それは……いきなり有無を言わさず撤去する事はないでしょうが、警告文が貼られている可能性はありますね。到着次第確認いたしましょう」

 慌てたようなオリサーの言葉にもう一度首を傾げたニコスを見て、ギードが苦笑いしながら地面を指差した。

「ここオルダムは、竜の鱗山を背に残り三方は小高い丘になっている。そのためオルベラートとは違って街の広さが有限なのだよ。だから各神殿の墓地に土地を買って代々の家の墓を作るような貴族や一部の大商人以外は、公共の墓地に葬られる事になるんだ」

「ああ、成る程。で、その五十年ってのは何なんだ? 撤去って、まさか墓を撤去するわけはなかろう?」

 ニコスの言葉にギードは笑って首を振った。

「そのまさかだよ。オルダムでは土葬が基本だが、言ったように土地は有限だ。その為に公共の墓地の場合は基本五十年しかその場を使えないんだ」

 驚くニコスに、護衛の者達は困ったように笑っている。

「五十年を過ぎたら、まず遺族のもとに神殿から連絡が入りそのお墓をどうするかを決めます。まず、追加のお金を払ってそのままお墓を引き続き残す方法。これは結構な金額になりますので、余程資金に余裕がある人でないと選べない方法ですね。なので大抵の人の場合は神官立ち会いのもとでお墓を撤去してもらい、そこの土を入れた壺を神殿内にある専用の墓所に納めてもらいます。こうしておけば、その神殿がある限り継続して定期的な浄化処置と弔いの祈りが捧げられる事になりますので安心です。家族は、その神殿に参ればお墓に参ったのと同じ扱いになるわけです」

「成る程。それで、その撤去した場所には、また別の方が葬られるわけですか」

 オリサーの丁寧な説明に納得したニコスの言葉に、護衛の者達が苦笑いしつつ頷く。

「構いませんよ。もしも本当に撤去されてしまっていたとしても、長い間何もせずに引きこもっていた私が悪いのですから、その時は祭壇に正式に参って彼女に謝ります」

 そう言って笑うタキスを、ニコス達は困ったように見つめていた。

「タキス様。近年のものであれば、いつどの墓所を撤去したのかは記録が残っていますので、収められた壺を回収する事は可能かと思います。万一の場合は早急に手配いたします」

「そうなのですか? それは知りませんでした。では、万一の場合はそれでお願いします。でも私達、すでに彼女のお墓が撤去されている前提で話をしていますね。警告文が貼られている事を期待しましょう」

 オリサーの言葉に笑ったタキスは、軽い口調でそう言って一つため息を吐いたのだった。

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― 新着の感想 ―
神様と祀られてる人の母親の墓を知らずに撤去or警告文して その人の夫が今から墓参りに来て 後日には竜騎士たちが墓参りに来て… 神殿のお偉いさんの胃の無事を祈ろう
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