今日の事と明日の予定
「ただいま戻りました〜〜〜!」
若干フラフラしながら歓談室に入って来たレイを見て、タキス達が揃って笑顔になる。
「おかえりなさい。おやおや、ずいぶんとご機嫌なようですねえ」
タキスにそう言われて、赤い顔をしたレイがへにゃりと笑う。
「えへへ、夜会の後に談話室で懇親会があったんだよ。えっとね、そこでね、ゲルハルト公爵閣下が支援しておられるワイナリーの、おすすめのワインを色々教えてもらって、いっぱい飲みました!」
「はいはい、分かったからとにかく座って。そんなフラフラで倒れたらどうするんだ」
立ち上がったニコスが、苦笑いしつつそう言ってレイを支えてソファーに座らせる。
「ありがとうね。えっと、ウィンディーネ、良き水をお願いします!」
側のワゴンに置いてあったグラスを手にしたレイが、そう言ってグラスを掲げる。
即座にグラスの縁にウィンディーネが現れ、ニコニコと笑っているレイをチラリと見てから呆れたように笑ってグラスを叩いた。
一瞬で、水がグラスの中に湧き出して適量で止まる。
「えへへ、ありがとうね」
手を振りながら消えていくウィンディーネを見てから、出してくれた良き水を一息に飲み干す。
「はあ、美味しい。もう一杯お願いします!」
「確かに、飲んだ後の良き水って本当に美味しく感じるよな」
機嫌の良い竜のように目を細めて笑ったレイが、即座に用意してくれた二杯目の良き水も一息で飲み干すのを見て笑ったギードがそう呟き、タキスとニコスも笑いながら頷いていたのだった。
「はあ、ちょっと落ち着いたかな」
「ほら、剣帯も剣もそのままじゃあないか。まずは立って、剣を外す!」
グラスをワゴンに戻して、ため息を吐いてそう言いながらソファーの背もたれに体を預けるレイを見て、隣に座ったニコスが呆れたようにそう言ってレイの腕を叩く。
「えへへ、ニコスに叱られちゃった。はあい! では身軽になります!」
笑って立ち上がったレイが、剣ごと剣帯を外して控えていたラスティを振り返る。
「はい、お預かりします」
差し出された両手に剣ごと剣帯を預け、そのまま上着も脱いで預ける。
「はあ、疲れました〜〜」
改めてソファーに座ったレイは、そう言いながら隣に座ったニコスにもたれかかる。
「重いって。全く、こんなに大きくなっても相変わらず子供みたいだなあ」
もたれかかってくるレイを文字通り全身で抱きしめるようにして支えてやりつつ、呆れたように笑ったニコスはそれでもとても良い笑顔だ。
「えっとね、夜会で竪琴の演奏をしたんだよ。エントの会とハーモニーの輪っていう、すっごく上手な合唱の倶楽部の方々が一緒に歌ってくれたんだよ。えっと、演奏した曲は、地下迷宮への誘いとさざなみの調べ、それからえっと、何だっけ……」
「三曲目は古き子守唄だったな」
「そうそう。古き子守唄! えっと、それから……何だっけ?」
「その後、ゲルハルト公爵閣下のご希望で、竜騎士隊の皆様と一緒に、空の彼方へ、だったな。見事な演奏と歌だったよ」
「最後の曲の準備の間に、良い子のお手伝いも即興で演奏していましたね」
反対側に座ったタキスの言葉に笑顔で頷いたレイが、不意に目を見開いてタキスとニコスを交互に見る。
「ええ、どうしてそんな事まで知ってるの?」
驚くレイの叫ぶようなその問いに、タキス達が揃って吹き出す。
「実は、グラントリーの案内でお城まで行って、夜会での貴方の様子を裏の控え室からこっそり覗き見させてもらっていたんです。本当に立派になりましたね。レイ。堂々としていて生粋の貴族の若君様のようでしたよ」
目を細めたタキスの嬉しそうな言葉に、レイは照れたように笑いながらソファーに置かれていた大きなクッションに抱きついて顔を埋めた。
「うう、恥ずかしいけど、タキス達が喜んでくれたならよかったです。でもやっぱり恥ずかしいよ〜〜〜!」
情けないその叫び声に、とうとう我慢出来なくなったタキス達が揃って吹き出し、部屋は笑いに包まれたのだった。
それから後も、レイの夜会での様子をタキス達が話しては真っ赤になったレイが叫び声をあげ、揃って何度も笑い合っていたのだった。
「えっと、明日の朝はゆっくりしてもいいみたいだよ。それで、午後からは叙任式直前の最後の打ち合わせがあるんだって。僕は昼前に本部へ行けばいいんだって。タキス達はどうする?」
帰ってくる間の馬車の中でラスティから聞いた明日の予定を思い出して、クッションを抱えたレイがそう言ってタキス達を見る。
「おや、そうなんですね。それでは私達は明日はもうここにいたほうが良さそうですね。明後日は叙任式当日ですから、皆様方もお忙しいでしょうからね」
タキスの言葉に、ニコスとギードも苦笑いしつつ頷く。
「本当にあっという間だったなあ。まだ夢を見てるみたいだ」
「しっかりなさい、レイ。当日の貴方の立派な姿を見るのを楽しみにしていますからね」
笑ったタキスに頭を叩かれて、クッションに抱きついたままもう一度情けない悲鳴を上げたのだった。