お疲れ様の帰宅
「いやあ、素晴らしい演奏と歌だったよ。至福の時間だったね」
演奏を終えて会場に戻った竜騎士達を、満面の笑みのゲルハルト公爵が出迎えてくれる。
「お気に召していただけてよかったです。ああ、ありがとうございます」
レイも笑顔でそう言った直後、ゲルハルト公爵がワイングラスを渡してくれる。
「これは、私が個人的に援助しているワイナリーで作った、今年の新作の貴腐ワインだよ。私は気に入ったんだけれどもこれはちょっと好みが分かれるかとも思うのでね。貴腐ワイン好きなレイルズ君に飲んでもらって、是非とも忌憚のない感想を聞かせてくれたまえ」
「そうなんですね。えっと……香りはとてもいいと思います。ちょっと燻製っぽい深い香りがしますね」
ルーク達もグラスを受け取っているのを見て笑顔になったレイは、軽くワイングラスを揺らして香りを楽しんでからまずはそう言い、深呼吸をしてからゆっくりとワインを口に含んだ。
「とても美味しいですね。思ったほど甘くはないし、この鼻に抜ける香りが素晴らしいです。僕は好きだけど、でも確かにこの強い香りはちょっと好みは分かれそうですね。ねえ、ルークはどうですか?」
「ん? ああ、確かにちょっと好みは分かれそうなワインだな。俺はいいと思うけどな」
「俺も、これは好きだな」
振り返ったルークの答えに、その隣で飲んでいたマイリーも空になったグラスを見ながら笑顔でそう言っている。
「確かに俺達は平気だけど、この意外に残る強い香りは、好みに合わない方もおられるだろうな」
ロベリオの言葉に、ユージンとタドラも苦笑いしつつ頷いている。
「とりあえず、竜騎士隊の皆の好みには合ったようだね。では、後ほど本部へこれを届けておくとしよう。妻には、このワインはどうにも不評でね。私は美味しいと思うのだが、残念ながら家ではあまり飲む機会は無さそうだよ」
少し残念そうなその言葉に、皆揃って苦笑いしていたのだった。
「ありがとうございました。思っていなかったほどのレイの立派な様子が見れて大満足の時間でした」
裏方の通路を抜けて別室に案内されたところで、満面の笑みのタキスは控えていたグラントリーに何度もお礼を言っていた。
「喜んでいただけたようで何よりです。では、このまま馬車で瑠璃の館へご案内いたします。この後、懇親会がございますので、レイルズ様のお戻りはもう少し遅くなるとの事です」
「ああ、それは必要な事ですね。では我らは一足先に瑠璃の館へ戻らせてもらうとしよう」
笑ったニコスの言葉に、タキスとギードも笑顔で頷く。
「では、瑠璃の館に戻ったら、ワイン片手に今夜の感想でも話すとしようか」
「それはいい考えだな。レイの好きな貴腐ワインで乾杯するとしよう」
「それは良いですね。是非やりましょう」
ギードの提案にニコスとタキスも揃って頷き、馬車の用意が出来たと言われるまでの間、待ちきれなかった三人は飽きもせずに先ほど見たレイの立派だった様子を飽きもせずにずっと話していたのだった。
「ただいま戻りました。もう皆は休んだかな?」
懇親会を終えて、少し赤い顔をしたレイがラスティと一緒に馬車に乗って瑠璃の館へ戻ってきたのは、夜も更けてかなり遅い時間になってからの事だった。
「おかえりなさいませ。皆様、まだ起きていらっしゃいます。歓談室にてワインを片手にお寛ぎのようです」
笑顔のアルベルトの言葉に、馬車を降りたレイは嬉しそうな笑顔になる。
「そうなんだね、じゃあ顔を見てこようっと」
「ああ、レイルズ様! 足元にお気をつけを!」
馬車を降りたところでご機嫌でそう言って屋敷に入ろうとするも、ふらふらと足元がおぼつかないレイを見て、馬車の後ろから飛び降りたラスティがそう言って慌てたように駆け寄ってきてレイの腕を支えた。
「あはは、大丈夫で〜す。でも、助けてくれてありがとうね!」
半ばラスティに抱きつくようにして笑ったレイを見て、周りにいた大柄な執事が慌てて駆け寄りラスティの背後から彼ごと支える。それと同時に別の執事がアルベルトと共に、レイをラスティから何とか引き離して支えた。
何しろラスティは咄嗟に足を踏ん張って後ろに倒れるのは避けたが、自分よりも大きくて重いレイに寄っかかられて倒れそうになっていたのだ。
「ああ、ありがとうございます。なんとか倒れずにすみましたね」
解放されたところで、背後を支えてくれた大柄な執事にラスティが振り返ってお礼を言う。
「間に合って良うございました。それにしても、完全に脱力しているレイルズ様に抱きつかれて倒れないとは、さすがですね」
苦笑いした執事の言葉に、ラスティが堪えきれずに小さく吹き出す。
「一応、こんな時の為に鍛えておりますから」
得意そうにそう言って胸元を叩いたラスティは、執事と顔を見合わせてもう一度揃って吹き出したのだった。




