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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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空の彼方へ

「もう、もう俺如きが心配するのもおこがましいくらいに、本当に立派になったんだな……素晴らしいよ、レイ……もうこれで、何の心配もなく森の家へ帰れるよ」

 感極まってそう呟いたニコスは、とうとう堪えきれずにその場に膝をついた。

「よかった……彼をここに預けたのは、間違っていなかったんだな。よかった、よかった……」

 壁にすがるように手をついて、俯いたままのニコスは何度も小さな声でそう呟いてはしゃくりあげる。

「ニコス。ほら、演奏が始まりますよ」

 隣の覗き窓を見ていたタキスが、そんなニコスの様子に気付いてそっと近付いて来て、何でも無い事のようにそう言って腕を引いて立たせる。

「あ、ああ、そうだな。すまない」

 少し恥ずかしそうに俯いたままそう言ったニコスは、袖口で涙を拭ってからまた慌てたように覗き窓を覗き込んだ。

 それを見て笑顔で頷いたタキスも、背後にいる執事達に軽く一礼してからまた覗き窓を覗き込んだ。

 横目でそんな二人を見ていたギードは、特に何も言わずに黙ったまま一度だけ大きく頷き、また覗き窓から会場を覗き込んでいたのだった。



「お待たせ」

 曲が一段落したところでルークの声が聞こえて、レイは和音を大きく鳴らしてから演奏を止める。

 沸き上がる拍手に一礼してから、レイは笑顔で背後を振り返った。

 ルークの弾くハンマーダルシマーがレイのすぐ横に運ばれてきていて、その横にはヴィゴが弾く大きなコントラバスが置かれている。

 そしてその横にはヴィオラを持ったマイリーとロベリオとユージン、笛を手にタドラとカウリも並んでいる。

 今回はアルス皇子は参加されていないので、これで全員だ。

「よろしくお願いします!」

 満面の笑みになったレイの言葉に、皆苦笑いしつつ頷いてくれた。

 マイリーが、構えたヴィオラの音を軽く鳴らしヴィゴ達がそれに続いて音合わせを終える。

 頷いたマイリーの合図でレイとルークが前奏部分を奏で始めた。

 この顔ぶれで演奏すると、レイは伴奏部分を主に担当する事になる。

 しかしヴィオラと笛を弾いている人達は歌えないので、歌はこの顔ぶれだとルークとヴィゴ、それからレイしか歌える人がいない。

 もちろん、今回はエントの会とハーモニーの輪の方々が参加してくれているので見事なハーモニーとなるが、当然のように主旋律はレイ達三人が担当する事になる。

 頷き合ったレイとルーク、それからヴィゴの三人が歌い始める。



「煌めく初春の蒼天の下」

「舞い立つその姿の美しきこと」

「大いなる翼のその下に」

「我らを守りし偉大なる竜よ」

「願わくばその先の遥か彼方へ」

「我ともに連れて行きなむ」



 ゆっくりと歌い始めた優しいその歌声はちょうど高音をレイが、中音をルークが、そして低音をヴィゴが歌い見事なハーモニーとなった。それを聴いて、舞台近くに集まっていた人達から小さなため息がこぼれる。



「凍れる初冬の曇天の下」

「舞い降りるその姿美しきこと」

「大いなる翼のその下に」

「我らを守りし偉大なる竜よ」

「願わくばその先の遥か彼方へ」

「我ともに連れて行きなむ」



 ここで間奏が入り、流れるような風を表す音の上下が続く。ここは主にルークとレイが担当して、ヴィオラと笛はゆっくりと和音を響かせて伴奏してくれる。

 会場はすっかり静まり返り、ほぼ全員が彼らの見事な演奏に注目している。



「我が幼き日の無垢なる憧れ」

「かの空の彼方へと飛び行く竜よ」

「願わくば我ともに行きなむ」

「なれど我が背に翼無く」

「独り地に在りてただ天を仰ぐのみ」


「願わくばその蒼天の遥か彼方へ」

「我ともに連れて行きなむ」

「願わくばその青空の遥か彼方へ」

「我ともに連れて行きなむ」



 最後の歌い上げる部分は、レイも顔を上げて朗々と歌った。

 そして最後の伴奏部分を終えて大きく和音を響かせて演奏は終了した。

「見事な演奏だったよ。素晴らしかった!」

 笑顔のゲルハルト公爵の言葉の後、会場は拍手大喝采となったのだった。



 裏方では、その見事な演奏と歌を聴いていたニコスだけでなく、タキスとギードも揃って手を取り合って感動に打ち震えていたのだった。

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