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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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奥殿への到着

「分かった。じゃあ向こうで待ってるね!」

 笑顔でそう言って木箱の中に座るレイを見て、タキス達が揃って吹き出す。

「では、レイは向こうに着くまでそこで大人しくしていてくださいね。さっきみたいに、立ち上がったりしてはいけませんからね」

 笑いを堪えたタキスの大真面目な言葉に、今度は竜騎士達が吹き出す。

「はあい、じゃあ大人しく美術品になってま〜〜す」

「だから荷物がしゃべるな」

 蓋をされた箱の中から元気な声が聞こえ、笑いながら箱を軽く叩いたルークの言葉に部屋は笑いに包まれたのだった。



「それでは、先に行かせていただきます」

 笑いが落ち着いたところでそう言ったマイリーの言葉に、見送りの為に立ち上がったタキス達三人も笑顔で頷く。

 今回はあくまでの身内に昼食会への招待という事で、急遽バルテン子爵も一緒に招かれている。

 もちろん、バルテン子爵を招く建前としてはあの献上品に対する礼の意味が強い。なので、バルテン子爵は竜騎士達と共に奥殿まで移動する。

「はあ、それにしてもまさか、ワシが竜騎士様方と共に奥殿に招かれる日が来ようとはなあ。ほんに人生何があるか分からぬものよ」

「その服もよくお似合いですよ。では行きましょうか」

 襟元を整えたバルテン子爵の呟きにその気持ちが充分過ぎるほど分かるルークは、苦笑いしながらそう言って彼の背中を叩いた。

 ちなみに軍人ではないバルテン子爵は、竜騎士達とは違い剣携していない。これはタキス達も同様だ。

 そして今のバルテン子爵が身につけているのはドワーフの正装を少し簡略化した服で、これは彼が男爵位を拝領した際にドワーフの服飾職人達が考えて用意してくれたもののうちの一つで、主にブレンウッドに住む地方貴族の方々との面会や、ギルドマスターとして正式な場に立つ際に身につけているのだ。

 笑顔で手を振って部屋を出ていく竜騎士達とバルテン子爵を見送ったタキス達は、揃って顔を見合わせてから大きなため息を吐いた。

「では、我々も行きましょうか。はあ、気が重いですねえ」

 苦笑いしたタキスの言葉に、控えていた執事達が進み出てきた。

「では、ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」

 一礼してそう言われて、もう一度顔を見合わせた三人は揃って苦笑いしながら頷き合い、大人しく執事達の後について部屋を出て行ったのだった。



『荷物役ご苦労だな』

 木箱の中で膝を折って大人しく座っているレイの膝の上に、ふわりとブルーのシルフが現れて笑いながらそう言ってレイの鼻先を軽く叩いた。

「あ、ブルー。僕は美術品役だからじっとしてなきゃ駄目なんだよ」

 笑ったレイがごく小さな声でそう言ってブルーの使いのシルフをそっと撫でる。

 木箱の中は蓋がされているので暗いが、実は固定されていない蓋は運んでいる際のちょっとした衝撃でカタカタと小さな音を立てて動いているので、蓋の隙間からわずかながら光が入ってきているので何も見えないほどの真っ暗というわけではない。

『それはなかなかに高級な美術品のようだな。ちなみに、今しがた城に入ったところだから、到着まではもう少しかかるぞ』

「そうなんだね。じゃあ、さっき持ち上げられる感じがしたのが、渡り廊下の段差を移動したところだったのかな?」

 また小さな声でそう呟き、わずかに開いている蓋の隙間を見る。

「ううん、見えないとなると外を見たくなるね」

『美術品は大人しくしていなさい』

 完全に面白がる口調のブルーの使いのシルフにそう言われて、苦笑いしつつ頷いてちょっと座り直したレイだった。



「到着だ。もう出てもいいぞ〜〜」

 暗い箱の中で座っているだけなのがあまりに退屈すぎてちょっと眠りそうになった頃、ルークの声が聞こえて箱が叩かれる。そしてすぐに蓋が開けられた。

「うわっ、眩しい!」

 上を向いたところで急に明るくなって、慌てたレイがそう言って目を覆う。

「ああそうか。暗いところから急に明るいところに出ると、そりゃあそうなるか。ほら、出ておいで」

 笑ったルークがそう言って、軽々とレイを抱き上げて箱の外に出してくれる。

 すっかり見慣れた、いつもの庭が見える広い部屋を見て一つため息を吐いたレイは、お尻の辺りを不意に誰かに叩かれて驚いて振り返った。

「うなあ〜〜〜」

 そこには、明らかに、誰だお前? と言いたげな猫のレイが背後から頭突きをしていた。

「あ、レイ! ええ、ちょっと待って! レイが大きい!」

 普段と違う予想以上の猫のレイの大きさに、目を見張ったレイが驚きの声を上げる。

「それはお前が小さくなったからだよ」

「あはは、そうでした〜〜!」

 笑ったルークの言葉に、レイは笑って両手を広げて猫のレイに抱きつく。

 ここでようやくこの竜人の少年の正体に気付いたらしい猫のレイが、もの凄い音で喉を鳴らしながら抱きついてきたレイの腕や顔を舐め始めた。

「待って痛い!」

 ざらざらの舌に舐められて悲鳴をあげるレイを見て、側にいたルークは遠慮なく大笑いしていたのだった。

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