朝の一幕
『らんらんら〜〜〜ん』
『らんらんら〜〜〜ん』
『いつもとちょっと違うけど〜〜』
『サラサラ髪も素敵なの〜〜』
『あっちとこっちを引っ張って〜〜』
『くるくる編み編み楽しいな〜〜』
『あっちとこっちを引っ張って〜〜』
『もぎゅもぎゅするのも良い感じ〜〜』
『あっちとこっちを引っ張って〜〜』
『もぎゅもぎゅクルクル楽しいな〜〜!』
『最後はギュギュッと結んでおわり〜』
翌朝、いつもの時間を少し過ぎた頃、静まり返ったレイの部屋には、いつもの歌詞とはちょっと違う歌を楽しそうに歌うシルフ達がいた。
彼女達は当然のように歌いながら、熟睡するレイの髪で嬉々として遊んでいたのだった。
だが、普段のレイの髪とは違いサラサラと流れるような髪質のそれは、なかなか上手く三つ編みが出来ない。
そこでシルフ達はいつもティミーやタドラにするように、まずは数人単位でチームを組んで髪の毛を押さえる子と三つ編みを作る子に分かれ、せっせと細い三つ編みを作っていた。
そして最後は三つ編みが解けてこないように、裏庭から摘んで持ってきた細い雑草を使ってリボンのように結んでいるのだ。もちろん、綺麗な蝶結びなどシルフ達には出来ないので、これも普段の色とは違うやや赤みがかった黒髪の先は、若干歪な真結びの緑の細いリボンが無理矢理括り付けられているような状態になってる。
『成る程。普段と違いサラサラでまとまらぬ髪はどうするのかと思って見ていたら、細い草を使って結んだのか。これはなかなか上手いやり方を考えたものよの』
笑ったブルーの使いのシルフが感心したようにそう呟く。
『これは〜』
『ティミーやタドラの髪にするやり方なの〜〜』
『あっちの髪は主様と違ってサラサラだからね〜〜』
『なので今回は真似させてもらいました〜〜』
『結び方も教えてもらったよ〜〜』
『喜んで教えてくれたもんね〜〜』
『ね〜〜〜〜!』
ブルーの使いのシルフ使いの呟きが聞こえたらしいシルフ達が、一斉に振り返って胸を張ってそう言って笑う。
『あはは、そういう事か。それは良かったな。新たな技を覚えたではないか』
納得したブルーの使いのシルフ使いの言葉に、周りで見ていた三つ編みに参加出来ていないシルフ達も一斉に笑う。
『もっと遊びたいのに〜〜』
『髪は全員分は無いの〜〜』
『だから交代で遊ぶんだよ〜〜』
『早く早く〜〜』
『や〜だ〜〜〜』
頭上のシルフ達の催促に、三つ編みを編んでいたシルフ達が一斉に首を振る。
我慢しきれなくなった子達が次々に降りてきて、おしくらまんじゅうをしながら三つ編みを編むのを手伝い始める。
新たな遊びを見つけたシルフ達は、レイが目を覚ますまで大はしゃぎで遊んでいたのだった。
「レイルズ様、そろそろ起きてください」
いつもよりも少し遅い時間に、軽いノックの音がしてラスティの声が聞こえた。
しかし、まだ熟睡しているレイは無反応だ。
『すまぬがまだ熟睡しておるようだ』
いつもと違い返事が無いので一瞬心配そうな顔になったラスティの腕の上に、大きな伝言のシルフが座ってそう答えた。
「おはようございます。ラピス様ですね」
驚いたラスティだったが、その声にすぐに気づいてまずは挨拶をする。
『ああ、おはよう。中身はいつものレイだが、小さくなった体に合わせて体力の方はかなり無くなっているようだな。そのせいなのか、いつもよりもぐっすり眠っているようだ』
「おや、そうなのですね。今朝はあのお体ですから、朝練はお休みいただきます。ではもう少しゆっくりお休みいただきましょうか」
『良いのか?』
「元々、午前中は事務仕事の予定でしたので、問題ありません。午後からは奥殿にお招きいただいておりますので、その頃までに起きてくだされば大丈夫です」
『さすがにその頃には起きているだろうさ。では、もうしばらくゆっくり休ませてやってくれ』
笑ったブルーの使いのシルフは、嬉しそうにそう言ってラスティの腕を軽く叩くとそのままくるりと回って消えてしまった。
こうなっては、精霊を見る事が出来ないラスティはもうブルーの使いのシルフがどこにいるのか見えない。
「ではお目覚めになるまで、レイルズ様のお見守りをよろしくお願いします」
にっこりと笑ったラスティは、そのまま扉に向かって軽く一礼してそう言うと、そのまま控えの部屋に一旦戻って行ったのだった。




