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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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タキスの子育て?

「待たせたな。ああ、皆楽にして良いぞ。これはあくまでも身内での夕食会だからな」

 マティルダ様と共に現れた笑顔の皇王様の言葉に、慌てて立ち上がったタキス達は困ったように顔を見合わせている。

 レイの叙任式に参加する事が決まった時から、ニコス指導によるタキスとギードへの礼儀作法とテーブルマナーの講習会が毎晩のように行われて、元々勉強していた事もあって一応それなりに最低限の作法は覚えた二人だったが、いきなり皇王様ご夫妻との同席はちょっと想定外だ。

「ま、まあそうおっしゃってくださっているんだから……頑張れ」

 苦笑いするニコスの言葉に、揃って密かにため息を吐いた二人だった。

「大丈夫だよ。何かあったら僕が教えてあげるからね!」

「そうですね。頼りにしていますよ」

 胸を張ったレイの言葉にタキスが苦笑いしつつそう答え、部屋は暖かな笑いに包まれたのだった。



 予想以上の豪華な料理を前にタキス達は、戸惑いつつも時折レイやニコスに助けてもらい何とか大きな失敗もなく無事に食事を終える事が出来た。

 まあ、緊張しすぎて料理を味わう余裕がなかったのは仕方がない事だろう。

 食後に改めて用意されたブランデーを飲みながら、レイのここでの普段の様子や竜騎士の務めについて詳しい話を聞いた。

 話題は尽きず、ようやく少し落ち着いたタキス達も時折蒼の森での生活について話をして、そういった下々の者達の生活について実際にはほぼ知らない皇王様やマティルダ様を大層喜ばせたのだった。



「カウリ様のところにも、姫君がお生まれになったと伺いました。おめでとうございます」

 話題がティア妃殿下の懐妊から子育ての話になったところで、タキスがそう言ってカウリを見た。

「ありがとうございます。いやあ、何しろもう毎日もの凄い泣き声で、本気で耳栓が欲しくなりますよ」

 耳を押さえてカタカタと震えて見せるカウリの言葉に、タキスが思わずと言った風に吹き出す。

「年が明けてすぐにお生まれになったとの事ですから、もうお体もかなりしっかりしてきているのでしょうね。ううん。生後半年にもならぬ赤子など、見たのも触れたのもいつ以来でしょうかね」

 両手で何かを抱く振りをしながらタキスが目を細めて愛おしそうにそう呟く。

「瑠璃の館へお戻りになる際に、どうぞいつでも我が家にお越しください。泣き声さえ気になさらなければ、どうぞオリヴィエを抱いてやってください」

「よろしいのですか!」

 嬉しそうなタキスの言葉に、カウリも笑顔で頷く。

「大歓迎ですよ。よろしければ、エイベル様のお父上からオリヴィエに祝福をいただけると光栄です」

「私のようなものでよければいくらでも。では、お伺い出来るのを楽しみにしていますね」

 嬉しそうなタキスの言葉に皆も笑顔になり、レイは初めてオリヴィエ嬢にお目にかかったお披露目会の時の話や、二度目に伺った時の、第六班の皆との楽しかった話をしたのだった。



「そう言えば、エイベル様も赤子の頃の泣き声は大きくて大変じゃったな」

 オリヴィエ嬢の泣き声がとにかく凄いんだと言う話の後、笑ったガンディの言葉にタキスも苦笑いしつつ頷く。

「確かにそうでしたね。その際は、職場の皆様にも大層なご迷惑をおかけしましたね」

 二人の会話に、皆が驚いた顔になる。

「エイベルの母、私の妻のアンブローシアはエイベルを産んで間も無く亡くなりました。酷い出血だったと聞きました。正直に申し上げて、まさかそんな事になるなんて微塵も考えもしていませんでしたからね……しかも私にも、それから彼女にも頼れる身内がおりませんでしたから……もう、目の前の赤子を死なせない為に、毎日必死でした」

「そうであったな。当時の医局には託児所など無く、ましてや首も座らぬ乳飲子を預かってくれる先など無く、タキスは乳飲子を抱えて医局に出勤しておったな」

「そ、それは大変だったのでは?」

「ええ、それはさすがに無茶なのでは?」

 この中で子育て経験のあるヴィゴと、今絶賛子育て中のカウリが揃って驚きの声を上げる。

「無茶でもなんでも、それしか方法が無いのですから仕方がありません。唯一の救いだったのは、当時の私はアンブローシアとの結婚を機に、外来の患者を診る診療科から薬学の研究室に移動になっていた事ですね。診療科ではさすがに子連れ出勤は許可されなかったでしょうからねえ」

 驚きのあまり言葉もない一同を見て、タキスはそう言って笑った。

「当時の私は、狭かったですが一応研究室を与えられておりましたので、普段は赤子用の籠にエイベルを入れてそれを抱えて出勤し、研究室に無理矢理置いた赤子用のベッドに寝かせてその横で仕事をしていました。さすがに実験や薬の調合の際には同じ部屋に置くわけにはいかないので、その際には同僚に頼んで面倒を見てもらったりもしましたね」

「儂は、エイベル様に乳を飲ませただけでなく、おむつを変えた事も何度もあるぞ」

 笑ったガンディの言葉に、タキスも笑って頭を下げる。

「そうでしたね。その節は本当に世話になりました。師匠ともう一人、当時の医局にいた竜人のオレオルという医師が親身になってエイベルの面倒を見てくれました。特にオレオルは高齢ではありましたが子育ての経験があって、本当に色々と教えていただきました。何しろ当時の私は、赤子への乳のあげ方どころか汚れたおむつの替え方すら知らなかったのですから」

 何でもない事のように笑っているが、当時の大変さを思って皆真顔になる。

「乳はどうしていたのですか?」

 真顔のアルス皇子の質問に、タキスは困ったように笑って首を振った。

「乳母を雇う事も考えたのですが当てもなく、本当に最初の頃はエイベルを産科の入院棟へ連れて行き、乳の出が良い女性にお願いして何度も乳を分けていただきました。皆、事情を話すと喜んで協力してくださいましたよ。そのあとは、主にヤギの乳を飲ませていましたね」

 今でも、出産の際に母親が亡くなった場合には、緊急措置としてそのような方法が取られる事もある。納得した皆を見て、タキスは小さくため息を吐いた。

「懐かしいですね。あの頃の事が、本当につい昨日の事のように思い出されます。本当に小さかった……特に、エイベルは産まれた時の体重が平均よりもかなり少なくて、体も小さくて心配したんです。まあ特にどこかが悪いというわけではなかったのですが、立ち上がるのも、言葉を話すのもかなり遅くて毎日心配ばかりでしたね」

「ええ、そうだったのですか。実はオリヴィエもかなり平均よりも小さくてちょっと心配だったんです」

「おや、それは……大丈夫なのですか?」

 いくら手を尽くしても、赤子の一年未満の死亡率はかなり高い。三歳まで生きられれば、神殿に参って精霊王に無事に三歳になりましたと報告に行くくらいなのだ。

「体は小さいですが、大丈夫だとガンディからは言われていますので、今ではもう個性だと思っています」

 笑ったカウリの言葉にタキスも安心したように笑った。

「それならばよかった。姫君の健やかな成長を祈らせていただきます」

 笑顔で手にしていたグラスを掲げるタキスを見て、カウリも笑顔でグラスを掲げた。

「精霊王の感謝と祝福を。そして全ての赤子の健やかな成長を願います」

 笑ったタキスの言葉に、皆も笑顔で手にしていたグラスを掲げたのだった。

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