変化の術とタキスの説明
「お待たせいたしました」
ルークとレイも一緒に皆の待つ部屋に戻ってきたところでにっこりと笑って一礼したタキスの言葉に、竜騎士達とバルテン子爵、それから少女達は揃って顔を上げた。
「内緒の話は終わりましたか?」
これまたにっこりと笑ったマイリーの言葉にタキスも笑顔で頷く。
「はい。それで、実は皆様がおそらくご存じないであろう古い光の精霊魔法の術を一つお見せしようかと思いましてね」
「ほう、光の精霊魔法で我らが知らない術、ですか? どのようなものでしょうか?」
興味津々なアルス皇子の言葉に、もう一度タキスが笑顔で頷く。
「はい、光の精霊魔法の変化の術の中でも、これは最上位の術になります。竜人の中でもこの術を使える者はごく限られていましたが、竜騎士様ならばどうでしょうね? ですがまあ、知識と技術はどれだけあっても邪魔にはなりませんからね。せっかくですので、是非とも覚えてください。ちなみにこの術は、見かけだけでなく実際に触った感じや対象の大きさや重さそのものまで変えてしまいますから、人にかけた場合には完全に別人になりますよ」
「そ、それは……そんな事が可能なのですか?」
「出来ます。ですが術を施した者よりも上位の術者が見れば簡単に見破る事が出来ますので、実際の使い所は、かなり限られると思いますね」
その説明を竜騎士達だけでなく、クラウディアをはじめとする少女達もそれはそれは真剣な様子で聞いていたのだった。
ここからは、急遽連絡を受けて駆けつけてきたティミーも加わり、更にはそれぞれの竜の使いのシルフ達まで参加したタキスによる変化の術の説明になったのだが、現在の比較的簡略化された魔法陣と違い、術をかける対象者を限定した特殊で複雑極まりない魔法陣の描き方の時点で、レイを含めてほぼ全員が悲鳴を上げる事になったのだった。
「これは絶対に無理〜〜!」
「俺も無理〜〜〜!」
ロベリオとユージンの情けない悲鳴に、若干苦労はしたもののほぼ完璧に教えられた魔法陣を描き終えたアルス皇子とマイリーが呆れたようなため息を吐く。
「お前らなあ……これくらいで根を上げてどうする。見ろ。ティミーは、苦労はしたが見事に描き上げたぞ」
「うわっ! 本当だ!」
「ティミー凄い!」
大きな紙に細かく描かれた魔法陣を見て、二人が揃って目を見張る。
「お前らには先輩としての矜持は無いのか!」
苦労しつつも見事に描いた魔法陣の紙を持つ真顔なルークに横からそう言われて、揃って誤魔化すように笑うロベリオとユージンだった。
「うう、自分にかけてもらう為の変化の術の魔法陣なのに、全然描けない……」
「レイ、こことここが間違っていますよ。こっちと繋いで、その内側にもう一段階、円陣があるんです」
一方、途中までは描けたものの何故か線が繋がらずに大混乱になっているレイが、そう呟いて頭を抱えながら机に突っ伏す。
それを見て苦笑いしたタキスがレイの描いた魔法陣を確認して間違った箇所を指摘してくれる。その言葉に慌ててペンを持ち直して、魔法陣を確認するレイだった。
「こんな複雑な魔法陣は、私も初めて見ます」
「私もだわ。精霊魔法訓練所で教えてもらったのとは全く違うわね」
「難しい! 二人が手伝ってくれなかったら絶対最初の円陣で全滅していると思うわ」
こちらも頭を抱えたニーカの叫びに、クラウディアとジャスミンは苦笑いしていた。
少女達は協力して魔法陣を見事に描き終え、あとはもうただただ感心したように呆然と魔法陣を見つめていた。
「皆様無事に描けたようですね。いきなり実技で成功させるのは無理でしょうから、ここからは私が術を行使します。対象者はレイ。ニコスとギードも供物の歌は知っていますから二人にも参加してもらいます。レイ、ペンダントの中の光の精霊達を呼んでもらえますか」
「うん、分かった。光の精霊、出てきてくれますか?」
頷いたレイが胸元からペンダントを取り出して話しかけると、ペンダントから次々に光の精霊達が飛び出してきた。
『おやおやこれは懐かしき魔法陣』
『もしやまた変化の術を行使するのか?』
レイが持っていた魔法陣の紙を見て、ペンダントから出てきた光の精霊達が嬉しそうにそう言ってレイの周りを飛び回る。
「はい、こちらの皆様方にこの術をお見せしようと思いまして、今、魔法陣の描き方の説明を終えたところです。これから、私がレイに術を行使しますので、どうぞお手伝いをよろしくお願いします」
『心得た』
『しかしここでは無理だぞ?』
『歌声が跳ね返って乱れてしまうぞ』
別の光の精霊達が、家具の置かれた部屋を見回して困ったようにそう言って首を振る。
「はい、もちろん分かっております。魔法陣の説明をしている間に、術を行使する為の何も置かれていない部屋の準備をお願いしております」
『ならばよし』
『ならばよし』
『では参ろうか』
嬉しそうな光の精霊達の様子に、タキスも笑顔で頷く。
ちょうどその時、戻ってきた執事から部屋の準備が出来たと告げられ、一同は揃って部屋を移動したのだった。




