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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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瑠璃の館にて

長々とお休みを頂きましたが、本日より更新を再開させていただきますm(_ _)m


そして、皆様に嬉しい報告があります!

この度、TOブックス様にお声がけいただき、本作「蒼竜と少年」が書籍化の運びとなりました!

イラストレーター様もまだ決まっていない状態なので、今報告出来るのは書籍化決定だけなのですが、とにかく本が出ます!

また何か決まりましたら、こちらの活動報告やTwitter……じゃなくて、Xなどで順次報告していきますので、続報をお待ちください!

これからも「蒼竜と少年」をどうぞよろしくお願いします!



「ご苦労、どんなご様子だ?」

 書斎の横にある裏方専用の部屋に入ってきたアルベルトは、控えていた執事達にごく小さな声でそう尋ねる。

 頷いた担当の執事が進み出て、この後の予定表を見ながら顔を寄せてくる。

「今のところ、特に動きはない。レイルズ様もご一緒にずっと本を読んでおられる。時折お話もされているようだが、本の内容や薬学に関する話がほとんどだ」

「お寛ぎ頂いてはいるようだが、本当に何のお世話もせずにこんなままでいて良いのか心配になるな」

 隣に来たやや年配の執事の呟きに、他の者達も揃って苦笑いしている。

 通常の貴族の方々とのあまりの違いに、執事達も戸惑い気味だ。

 何しろ、御三方(おさんかた)をそれぞれにご用意した部屋に案内したが、荷物を置いたきり座りもせずにすぐに部屋を出て行ってしまわれたし、そのあとは、お茶も飲まずに書斎へ直行されてずっと本を読んでおられる。

 先ほどレイルズ様が、喉が渇いていないかないか確認をなさっておられたが、もうすぐ夕食だろうし構わないと御三方ともに揃ってそう言って笑っておられた。

 もちろん、隣室にはすぐにお出し出来るお茶やお菓子の用意はあるが、残念ながら今のところは必要ないようだ。



 この屋敷が竜騎士見習いのレイルズ様に下賜され、成人年齢となり正式に引き渡されお披露目会を行なって以降、ご友人方や竜騎士の皆様方がレイルズ様と共に何度かお泊りいただいた事もある。

 お披露目会の際には、精霊魔法訓練所でのご友人方が急に予定を変更して大勢でお泊まりになられた事もある。

 だが、ここまで緊張するお方々にお泊まりいただくのは、文字通りこの屋敷に勤める者達全てにとって初めての経験だ。

 これに際し竜騎士隊の本部からだけでなく、王妃様のご指示で城の奥殿から熟練の執事達を始め、様々な裏方を担当する者達が大勢派遣されて来ていて、それぞれの場所で働いてくれている。

 受け入れ体制を整える上でやる事は本当に山のようにあったので、有り難い限りである。

 様々な場を想定し、例えどんな無茶な要求であっても即座に当たり前のように対応出来ると、もう大丈夫だと思えるまでとことん打ち合わせを行い、表も裏も考えうる限りの様々な準備をしてきた。

 そして、ようやく待ちに待った今日の日を迎えた。

 馬車で到着なさったのは、この館の主人であるレイルズ様と普段は離れて暮らすご家族が三人。



 表向きの身分はただの平民ではあるが、それぞれに特別なお方だ。



 まず、長命種族である竜人のタキス様。

 今や神として兵士達をはじめ多くの人達からの信仰を集めるエイベル様の、実のお父上。

 皇族の方々さえ敬意を払う、まさに特別なお方だ。

 三年前、レイルズ様が竜熱症を発症して古竜と共にオルダムに来られた際に、同行していたのがタキス様だったと聞いている。

 竜騎士隊の本部や奥殿から今回応援に来てくれている執事達は、当然、そのほとんどの人達が当時の事を知っているし、実際にご本人のお世話をした者達もいる。

 その時の話を聞く限り、タキス様は周囲の者達にとても腰が低く、とても物静かでわがままなどは一切無く、それどころか身の回りの世話を人にされるのを嫌がり、何でもご自分でなさっていたのだと聞いた。

 ガンディ様のお話から、タキス様の亡くなられたご子息であるエイベル様の一件が判明して以降も態度は一切変わらず、世話をされた際には必ず礼を言ってくれたと皆嬉しそうに言っていた。



 そして、もう一人の竜人である隣国オルベラートの貴族の館で執事をしていたというニコス様は、今でもオルベラートの皇族の方々から厚い信頼を寄せられるほどのお方だ。

 また隣国より嫁いで来られたティア妃殿下が、今でも心から信頼しているお方でもあると聞いている。

 表向きの身分は元冒険者であるドワーフのギード様は、ブレンウッドのバルテン男爵のご友人でもあり、その管理区域内に産出量が桁違いの良質なミスリル鉱山を個人で所有する鉱山主でもある。

 どのお方一人とっても、国にとって文字通り特別なお方だ。

 その方々がレイルズ様のご家族だというのも驚きだが、古竜の主のご家族だからな、と、執事達の間で妙に納得もしたものだ。

 覗き窓から確認すると、医学書を手にしたレイルズ様が、タキス様の横に座って何やら真剣に話をされている。

 漏れ聞こえる声によると、どうやら今大学でレイルズ様が習っておられる薬学に関する質問のようだ。

 当然のように笑顔で的確に解りやすく答えるタキス様の豊富な知識にも、密かに感心している執事達だった。



 話が一段落したのを見計らい、アルベルトは一旦廊下へ出てから書斎の扉を軽くノックした。

 返事を聞いてから扉を開けて中に入る。

「読書をお楽しみのところを恐れ入りいます。そろそろ夕食のお時間となりますが、いかがいたしましょうか?」

 軽く一礼してから、こっちを振り返っているレイルズ様にそう尋ねる。

「準備をありがとうね。えっと、そろそろ夕食なんだってさ。一旦読書はお休みでいいですか? 気に入った本があれば、部屋に持っていってもらってもかまわないよ」

 タキスの前に積み上げられた様々な医学書や薬学に関する本を見て、レイが笑いながらそう言ってアルベルトをもう一度振り返る。

「はい、ご指定いただければお部屋までお持ちいたします」

 笑顔でそう答えたアルベルトを見て、タキスが目を輝かせる。

「あの、では大変申し訳ないのですが、今この机に積み上げている本を部屋までお願い出来ますか! この辺りは私の知らない最新の内容が書かれた本なんです!」

「ええ、じゃあ選んでいない本は、全部知ってるの?」

 笑ったレイの言葉に、笑顔のタキスが大きく頷く。

「まあ、さすがに全て読んだわけではありませんが、知識としてはここの書斎にある本程度ならほぼ知っていますね。一応この三年で、師匠の協力もあって私の知らなかった期間の知識の補完はほぼ終わりましたからね。あとはこのように、漏れている細かい部分を補完したいんです。貴重なオルダムにいられる時間ですから、無駄にはしませんよ」

 拳を握るタキスの言葉に、読みたい本を数冊程度積み上げていたニコスとギードは、揃って呆れたようにそんなタキスを見てから、揃って吹き出したのだった。

「まあ、ほどほどにな」

「気持ちは分かるが、夜は寝てくれ」

 真顔の二人にそう言われ、タキスとレイも揃って吹き出し四人揃って大笑いになった。

「あはは、タキスったら勉強熱心なのはいいけど、確かにニコスとギードの言う通りだよ。お勉強はほどほどにして、夜はちゃんと寝ようね」

 こちらも真顔のレイにそう言われて、タキスも笑いながら何度も頷いていたのだった。

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