楽しい語らい
その夜、久しぶりに皆の声が聞きたくなったレイは、ベッドに潜り込んでラスティとおやすみの挨拶をしてからまた起き上がって、シルフ達にお願いしてタキス達を呼んでもらった。
レイの呼びかけに応じて現れたシルフ達が、少しシワになった毛布の上に並んで座る。
少しの沈黙の後、先頭のシルフが口を開きそこからタキスの声が聞こえてきた。
『レイ元気でやっていますか?』
久しぶりに聞くタキスの声に、レイは胸が一杯になりつつも笑顔で大きく頷いた。
「うん、もちろん元気だよ! もう叙任式までそれほど日がないから毎日大忙しなんだ。ルーク達にいろいろ教えてもらったり、毎日みたいに夜会や昼食会に招待されたりして、そのたびに叙任式まであと何日ですね、みたいな話ばっかりされて、もう本当に大変なんだよ」
ちょっとこのところ忙しすぎて色々と溜まっていたので、ついつい愚痴紛いの早口になってしまった。
我に返って慌てるレイに、タキスの声を届けてくれている先頭のシルフが口元を押さえて吹き出していた。
『おおレイか元気でやっとるか?』
『レイ叙任式前で忙しいだろうに大丈夫か?』
ギードとニコスの声も聞こえて、レイは満面の笑みになる。
しかし、いつもならこの後に遠慮がちなアンフィーの声が聞こえる筈なのだが、今日はそれが無い。
しかも今のシルフ達は三列に分かれて座っている。普段なら四人いるから四列の筈なのに。
今レイが使っているのは高度な声飛ばしで、通常の声飛ばしよりも長い言葉を伝えてくれたり、話している時の相手のちょっとした表情や仕草なども、シルフ達が代わりに真似て身振り手振りで伝えてくれたりもする。
なので、今のように話す相手が複数の場合は、今話をしているのが誰なのかが分かるように、それぞれ複数のシルフ達が人数分の列になって並んでくれるのだ。
もちろん、レイが使っている声飛ばしはブルー直伝の相手の声が直接届く特別な術なので、実際に誰が話しているのかすぐに分かるのだが、それでもシルフ達はいつもこんな風に列になってそれぞれの声を届けてくれる。
「あれ? アンフィーは? 今日はいないみたいだけど、どうかしたの?」
不思議そうなレイの質問に、三人の声を届けてくれるシルフ達が揃って笑いながら首を振る。
『ええ今日は三人ですよ』
『実は今私達はクムスンの街の宿屋にいるんです』
『オルダムへ向かって出発したところだよ』
『それがもう色々大変なんじゃよ』
笑った三人の言葉に納得して頷く。
「そっか、もうそろそろかと思っていたら、今日が出発の日だったんだね。うん、待っているから、気をつけて来てね。早く皆に会いたいよ」
側にあった枕を抱え込みながら、レイが身を乗り出すようにしてそう言って笑う。
『もちろん私達も早く会いたいですよ』
『とはいえオルダムは遠いからな』
『そうですねラプトルに乗って急いでも』
『六日がかりですからね』
タキスとニコスの言葉に、ブルーの背に乗れば半日もかからない事を思い出して苦笑いするレイだった。
『まあ久し振りの旅だからな』
『せっかくだから楽しませてもらおうと思うておったのに……』
笑って話していたギードの言葉が、不意に途切れる。
「あれ? どうしたの?」
何かあったのかと心配になって、慌ててギードの声を届けてくれていたシルフ達を見る。
『いやいや大丈夫じゃよ』
『なんと言うか……ちと今日の宿がな』
「えっと、宿がどうかしたの? あ、もしかして宿が取れなかったの? まさかの野宿?」
慌てるレイの声に、三人が揃って吹き出す様子まで律儀にシルフ達が伝えてくれる。
『大丈夫ですからご心配なく』
『大丈夫だよちゃんと宿屋に泊まっているって』
笑ったタキスとニコスの隣では、ギードの声を届けてくれる先頭のシルフが何故か大笑いしている。
『ルーク様とアルス皇子殿下に』
『ご紹介いただいた宿に泊まっているんですよ』
何故かタキスの声も笑っている。
「えっと、ルークと殿下に紹介してもらった宿なら、変な宿じゃあないよね? 何があったの?」
心配そうなレイの言葉に、またギードが笑っている。
『それがもうその泊まった宿というのが』
『とんでもなくてのう』
『我らには分不相応な程の』
『とんでもなく豪華な宿なんじゃよ』
『いわゆる貴族御用達というやつじゃ』
『あんなヒラヒラの付いたデカいベッドで』
『熟睡なんぞ出来るもんかい』
ようやく笑いを収めたギードの説明に、貴族の人達のお屋敷の豪華さを思い出してレイも思わず吹き出してしまった。
「あはは、そこはもう開き直って貴族の生活を楽しんでよ。でもその気持ちはとってもよく分かるなあ。僕もここへ来てすぐの頃は、ふかふかすぎるベッドや豪華な部屋に落ち着かなかったからね」
『今はもう慣れたか?』
笑ったニコスの言葉に、レイも笑いながら頷く。
「うん。人ってどんな事にでも慣れるよね。もう普段は、執事や護衛の人が近くにいてもほとんど気にならなくなったくらいには慣れたね。でもお城へ行った時なんかに周り中から大注目されるのは、ある程度は慣れたけどやっぱり落ち着かないよね」
『竜騎士様はどこへ行っても大注目だろうからな』
『それはもう仕事だと思って』
『それこそ慣れてもらうしかないなあ』
苦笑いしているニコスの言葉に、レイも苦笑いしつつ何度も頷いていたのだった。




