護衛の者達の役割
「お待たせ!」
それぞれ鞄や資料の入った包みを抱えたレイ達は、精霊魔法訓練所の建物から出たところで待ってくれていたキルート達と合流した。
レイとティミーのラプトルはすでに彼らが準備してくれていたので、お礼を言ったレイ達は手綱を受け取り自分の鞄を鞍の後ろに取り付けた折りたたみ式のカゴに押し込んだ。
マークとキムも預けていたそれぞれのラプトルを厩舎から引いてきて、持っていた資料の束を折りたたみ式のカゴに突っ込んでいた。
ジャスミンとニーカが乗ってきていた馬車も当然、すでに用意されていたので、顔を見合わせた二人は嬉しそうに頷き合ってから鞄を抱えて馬車に乗り込んでいった。
二人の乗った馬車の前には彼女達の護衛の者達が並び、馬車の後ろにマークとキムの乗るラプトルが付き、その後にレイが乗るゼクスとティミーの乗るラプトルがその隣に並んだ。
彼らの背後と左右にキルートをはじめとする護衛の者達が並び、ゆっくりと本部へ向けて出発した。
「ジャスミンとニーカは、いつもここに来る時は馬車だね。彼女達はラプトルには乗らないのかな?」
いつもよりもゆっくりとゼクスを進ませながら、前を進む馬車を見たレイが小さくそう呟く。
「ジャスミンはラプトルには乗れますが、得意というほどではないと聞いていますし、ニーカは、そもそも一人ではラプトルに乗れませんから、当然移動は馬車になりますね」
苦笑いしたティミーの言葉に、納得したレイが頷く。
「そっか。ニーカは確かにラプトルには乗れないね。えっと、貴族の女性でも一応ラプトルに乗る練習はするんだよね? じゃあもしかしてニーカも練習中だったりするのかな?」
以前、女の子達と一緒にラプトルに乗って遠乗りに行った時の事を思い出しながらそう言うと、ティミーは苦笑いしながら首を振った。
「もちろん、教養の一つとして女性であってもある程度の年齢になればラプトルに乗る練習はなさいますが、男性のように必須というわけではありません。ほとんどの女性は、自分でラプトルに乗る事が出来ても普段は馬車で移動なさいますね。それにニーカはまだお体がかなり小さいですから、本人が希望したとしてもそもそも乗る練習はまだ無理だと思いますよ」
そのあたりの貴族の女性の常識を知るティミーの説明を、レイは真剣な様子で聞いてから頷く。
「確かにニーカの身長だと、鞍に乗るだけでも一苦労だね。踏み台がないとそもそも鞍に手が届かないね」
「まあ、練習するだけなら踏み台もありですが、それだと外出先で乗れなくなりますからねえ」
自分も背が低かった時は苦労したティミーの言葉に、レイも森で暮らしていた頃に、ポリーの背中に手が届いてから乗る練習を始めた時の事を思い出していたのだった。
そのあとはのんびりとラプトルを進ませていたが、来た時にしていた話を不意に思い出したレイは、隣にいたキルートを見た。
「いかがなさいましたか?」
その視線にすぐに気付いてくれたキルートが、小さな声でそう言いながらレイの側にラプトルを寄せてくれる。
「うん。今朝、ここへ来る時に聞いた話を思い出していたの。えっと、以前少し聞いた事があったけど、キルートは竜騎士隊の本部に来る前から護衛のお仕事をしていたんだよね?」
驚いたように目を見開いたキルートは、嬉しそうな笑顔で頷いた。
「私の昔話を覚えていてくださったとは光栄です。はい、私は元々護衛担当の警備兵として城に務めていました。ルーク様が見習いとなられる少し前にこちらへ配置転換になり、しばらくは担当を持たずに竜騎士の皆様の護衛を担当しました」
レイとキルートの話を、ティミーも興味津々で聞いている。
「えっと、担当を持たずにって?」
不思議そうなレイに笑顔で頷いたキルートは、彼の背後にいるレイの護衛として一緒に来てくれている二人を示した。
竜騎士の護衛には、必ず一人に対して三人一組でついてくれる。今はジャスミンとニーカ、それからティミーの護衛の人達も一緒なのでかなりの大人数での移動だ。
そもそも、護衛にはレイに付いてくれるキルートのように、竜騎士達に対して必ず一人、専任の護衛がそれぞれ決まっている。
基本的に本部の中にいる時や城内にいる間は、執事やラスティ達が必ず側にいてくれるのでキルート達護衛の者は側にいない。
彼らが護衛についてくれるのは、本部から出た外出の時である。
レイの場合は、まず彼専任のキルートが必ず付いてくれて、あとはその日によって顔ぶれが違う。
「はい、今の彼らのような立場ですね。彼らは状況に応じてレイルズ様だけでなく、他の竜騎士の皆様がお出掛けになる際に護衛としてご一緒する事もあります」
「へえ、そうなんだ」
そう言って振り返ったレイに、苦笑いしたレイの護衛役の二人がうんうんと頷いている。
「考えてみたら、その辺りの事って僕、全然知らないです。ねえ、教えてください。竜騎士隊の皆をお世話してくださる護衛の人達って、全部で何人くらいおられるんですか?」
興味津々なレイの質問に、キルートが笑って首を振る。
「総人数はさすがにお教え出来ませんが、直接の護衛の者だけでも相当数いる、とだけお答えしておきます」
その言葉に驚いたように目を見開いたレイは、納得したように小さく頷いた。
「そっか、確かにそうだね。変な質問してごめんなさい。えっと、いつも守ってくれてありがとうございます。これからもよろしくね」
笑顔のレイの言葉に、護衛の者達や一緒に話を聞いていたマークとキムも笑顔で頷き合っていたのだった。
実際には、彼ら以外にも竜騎士が本部から外出する際には必ず周囲に数名の護衛がついていて、周辺の警戒に当たっているのだ。
もちろん、それぞれの竜の守護があり精霊達の守りもある竜騎士に何かされるような事はほぼ無いが、過去には一方的な逆恨みで外出時に竜騎士を襲おうとした者もいる。単なる貴族だと思って、通りすがりに襲おうとした不届者もいるので、守る側は常に最悪の事態を想定して警備に当たっているのだ。
ちなみに、今でも暖かい時期になると、時々勝手に本部の建物から外に出て、竜舎の横にある木の上で昼寝をしたり本を読んだりする事のあるレイは、実は本部の執事達や護衛の者達から要注意人物として指定されていて、常に何処にいるかの把握は必須項目となっているのだ。
そんな事などつゆ知らぬレイは、そろそろ暖かくなってきたし、見習いである今のうちにまた木の上でこっそり昼寝しようなどとのんびりと考えていたのだった。




