それぞれの授業
「それじゃあ、午後からはそれぞれの授業や勉強だね。お互い頑張ろうね」
食事を終えて廊下に出たレイの言葉に、後についてきた皆もそれぞれ笑顔で頷く。
午後からはそれぞれ授業や自習などに分かれるので、ここで一旦解散だ。
「えっと、ニーカとジャスミンは午後からは授業じゃあなくて自習なんだね。じゃあ、そっちもしっかり頑張ってね」
「そうね。お互い頑張りましょう」
ジャスミンの言葉に、ニーカも笑いながら文字を書く振りをする。
今日は、少し苦手な精霊魔法の歴史の授業があるクラウディアは、レイとジャスミンの会話を聞いて、困ったように笑ってから顔を覆って首を振っている。
苦手な算数の授業があるペリエルも、クラウディアと同じように顔を覆って首を振ってから、泣く真似をしていた。
「俺達は今から教授達を前に、次の講義の練習だな」
「絶対に、今回もあちこち指導が入るよな。もう今から憂鬱だよ〜〜」
「でもまあ、これのおかげで実際の講義の際にほぼ詰まる事なく進められているんだから、感謝しないとな」
「もちろんそれは分かってるよ。はあ、でもやっぱり憂鬱だよ〜〜」
用意した資料の束を抱えたキムの言葉に、同じくらいの資料の束を抱えたマークもため息を吐いて首を振っていた。
「頑張れ〜〜! あ、また資料作りで助けが必要な時には、いつでも遠慮なく言ってね」
笑顔のレイの言葉に、顔を上げたマークが頷く。
「おう、今のところ追加の資料作りも順調だからまだ大丈夫だよ。また、次の一から新しく作る際には離宮の書斎の本を見たいから、その時はよろしくな!」
「だな。まあ、その時にはまたお願いするよ」
「うん、いつでも言ってね」
笑顔のレイの言葉にマークとキムも苦笑いしていた。
実際には、今月末に迫った叙任式前後のレイの予定は、ほぼぎっしりと埋まっていて勝手をする時間など全くと言っていいほど無い。
今日の精霊魔法訓練所の授業も、ある意味皆で顔を合わす貴重な機会なので、ルークが無理やり予定を開けてくれたおかげで来る事が出来たのだ。
何となくでもその辺りの事情が分かるマークとキムは、とりあえずこの後しばらくの間の資料作りは何とか自力で準備するつもりになっている。
笑顔で天文学の教室に向かったレイを見送ったところで、ジャスミンがそっとマークの袖を引いた。
「ねえ、もしも本当に離宮の本が必要な時には、遠慮せずに私にシルフを飛ばしてね。タドラ様にお願いして、その時の勉強を離宮でやって貰えば良いんだからさ」
まさかのジャスミンからの提案に、マークが驚いたようにジャスミンを見る。その隣では、満面の笑みになったニーカもうんうんと頷きながら拍手をしていた。
「あ、ああ、確かに……そうだな。いざとなったらお願いするかも。その時はよろしく」
「ええ、いつでも遠慮なく言ってね」
「ご配慮に心からの感謝を」
こちらも満面の笑みで胸を張ってそう言ったジャスミンの言葉に、彼女の右手を取ったマークが軽く一礼してから彼女の手の甲にそっとキスを贈った。
その瞬間、唐突に真っ赤になるジャスミン。
それを見たキムとニーカは、揃って鞄と資料の束を抱えてそそくさと下がって二人から離れた。
「待ってニーカ。置いていかないで!」
「待ってくれって。俺を置いていくな!」
二人の悲鳴が同時に廊下に響き、顔を見合わせたキムとニーカは揃って吹き出したのだった。
「ありがとうございました!」
授業を終えたレイが教室から出ると、廊下にはマークとキム、それからジャスミンとニーカが揃っていた。
「ディアとペリエルは、夕方のお勤めの時間があるからって先に帰ったわ」
「ええ、挨拶くらいしたかったのに〜〜」
ジャスミンの言葉に、レイが眉を寄せつつ残念そうにそう言って外へ続く扉の方を見た。
「残念だったわね。来週辺りにまた二人で祭壇のお掃除に来るって言っていたから、本部で会えるといいわね」
「そうなんだね。ぜひその時は呼んでください!」
「ええ、どうしようかなあ」
「レイルズが一緒だと、四階の部屋に行けないもんね」
「そうよねえ〜」
顔を見合わせたジャスミンとニーカの面白がるようなその言葉に、横で聞いていたマークとキムは遠慮なく吹き出し、今度はレイが泣く真似をしていたのだった。




