楽しい食事の時間とカナエ草のお茶
「うん、全員揃ってここで食事をするのは久し振りだね」
カナエ草の茶の入ったポットを持ったレイが、嬉しそうにそう言って皆を見回す。
「確かに、全員揃うのは久し振りね」
嬉しそうなクラウディアの言葉に、それぞれの席に座ったマーク達やジャスミン達も笑顔で頷いている。
「このカナエ草のお茶って、僕、蜂蜜がないと正直言ってほとんど飲めないんですよね」
ティミーが、持ってきたハチミツの瓶をテーブルに置きながら少し恥ずかしそうにそう言って首を振る。
「大丈夫だよティミー、僕もここへきてすぐの頃はすっごく苦手だったけど、だんだん慣れてきたからさ。えっと、ルークによると、お酒を飲めるようになったらカナエ草の苦みもある程度は平気になるって。子供の口から大人の口になるんだって言っていたよ。確かに僕も、今では平気とまではいかないけど、以前に比べたら苦いお茶も確かに飲めるようになってきたからね。あ、もちろんマイリー達みたいに平気ってわけじゃあないよ! 僕はちゃんとハチミツを入れて飲むからね!」
最後は慌てたようにそう言い、レイも持ってきていたハチミツの瓶をしっかりと両手で握っていたのだった。
「私は、あれば入れるけど別に無くても平気ですよ」
笑ったペリエルの言葉に、ジャスミンとニーカだけでなくクラウディアも揃ってすごい勢いで首を振る。
今ではペリエルも、カナエ草のお茶を定期的に飲むようにしている。
女神の神殿の分所がある場所は竜騎士隊の本部からは少し離れているので、死の病である竜熱症の原因となる竜射線の心配をしなくてもいい距離だ。
しかし、ニーカが竜騎士隊の本部へ引っ越して以降、クラウディアと一緒に竜騎士隊の本部のエイベル様の祭壇のお掃除に彼女も定期的に通うようになった為、念の為カナエ草のお茶を飲むようにしているのだ。
カナエ草の成分は、仮に一時的に大量に摂取したとしても体の中にはほとんど貯まらずに数日程度で自然に排泄されてしまう。
なので竜射線への対策としては、定期的にカナエ草のお茶を飲んで、常に体の中にカナエ草の薬効成分がある程度の量がある状態にしておく必要がある。
その上でレイやマーク達のようにごく近い距離で竜に接する機会が少しでもある人間は、安全の為にお茶よりも薬効成分の高いカナエ草のお薬を飲む必要があり、食事の後に医師から指示された指定数をそれぞれ飲んでいる。
飲むのを食後にしているのは、単にお薬の飲み忘れを防ぐ為であって、実際には必要に応じていつ飲んでも構わないのだ。
ペリエルとクラウディアの場合、普段の食事の際のお茶を全てカナエ草のお茶にして、本部へお掃除に行く前にカナエ草のお薬を一粒だけ飲むようにしている。
ちなみにクラウディアとペリエルの二人は、レイ達と違って休憩などの際にいただくお茶は、紅茶も許可されている。
顔を見合わせて笑い合った一同は、しっかりと食前のお祈りをしてからそれぞれに食べ始めたのだった。
食事の間の話題は、どうしても近付いてきたレイの叙任式に関する事になる。
「私がオルダムに来てすぐに、カウリ様の叙任式があったんです。街の女神様の神殿で見習い巫女として勤め始めたばかりだった私も、準備をお手伝いしましたよ」
「ええ? 一体何をお手伝いしたの?」
まさか、巫女達が会場の準備を手伝ってくれたのだろうか?
叙任式の時の事を思い出しながら、レイが驚いたようにそう言ってペリエルを見る。
「街の神殿では、叙任式当日は街の各神殿では特別な飾り付けをした祭壇をご用意して、早朝から祝福の祈りが捧げられるんです。竜騎士様の紋章の入った麻布で作られた巾着に入ったクッキーを子供達に配るんです。前日に届いたそれを配れるように、神殿の入り口横に用意された机の上に全部並べるんです。そのクッキーも竜の形になっているんですよ。私も一ついただきましたが、バターの香りがしてとても美味しかったです」
「ああ、それは聞いた事があるね。確か、それって降誕祭の時にも配るんだよね?」
目を輝かせたレイの言葉に、クラウディア達が揃って頷く。
「降誕祭の時に配るそれと、叙任式の時に配るそれは当然ですが入れている麻布の巾着の模様が違います。街の子供達は、皆この麻布の巾着を集めるのをとても楽しみにしているのだとか」
「一応、未成年なら巫女でもいただけるんですよ。もちろん私も毎年いただいています」
嬉しそうなニーカの言葉に、クラウディアが笑って彼女を見た。
「私はもう成人年齢だから貰えません。紋章入りの巾着をもらえるニーカやジャスミンが、こればかりは少し羨ましいです」
苦笑いしながらそう言われて、レイは思わず食べていた手を止めてクラウディアを振り返った。
「ええ、それじゃあ僕の叙任式の時も、クラウディアは貰えないの?」
「そうですね。基本的にあれは未成年の子達の為のものですから」
思わず無言になるレイを見て、ティミーが小さく吹き出す。
「それなら、レイルズ様から直接彼女にあげればいいと思いますよ。竜騎士隊の本部にも巾着の見本が届きますから、ルーク様かマイリー様に頼めば貰えると思います」
「そうなんだね。ありがとうティミー、後でルークに聞いてみるよ」
これ以上ないくらいの笑顔になったレイの言葉に、横で聞いていたマークとキムは揃って吹き出していたのだった。




