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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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小さなシルフのその後とお土産の薬草茶

「あの時助けてくださったこの子も、すっかり元気になりましたよ」

 笑ったジャスミンの言葉と同時に、ジャスミンの指輪からとても小さなシルフがふわりと出てきて彼女の頬にキスを贈ってから右肩に座った。

「あ、本当だ。あの時の小さな子だね」

 笑顔のレイの言葉にジャスミンの右肩に座った小さなシルフは、笑いながらジャスミンの隣に立つ彼に向かって手を振った。

「この子は本当に小さくて可愛いわよね」

 その辺りの事情はジャスミンから詳しく聞いているニーカも、笑いながらそう言ってそっと手を伸ばして小さなシルフを撫でた。

「元気になって良かったね」

 レイも、そう言いながら腕を伸ばしてその小さなシルフをそっと撫でたのだった。


『今でもちゃんと守ってるよ』

『清浄なる光と』

『癒しの光でね』

『今でもちゃんと守ってるよ』

『だから心配ないよ』


 小さなシルフの左右に二人のかなり大きな光の精霊が現れ、得意げにそう言ってレイに向かって手を振った。

「あ、もしかしてあの時に助けてくれた光の精霊達だね。へえ、今でもずっとこの子を守ってくれているの? ありがとうね」

 見覚えのある光の精霊達の言葉にレイは嬉しそうに笑ってそう言い、自分の右肩に座ったブルーの使いのシルフを見た。

『ああ、我が命じたのだよ。あの小さなシルフを守れとな。それであの子達は、あれ以来ずっとあの小さなシルフに付き添って守ってくれている。おかげですっかり元気になったようだな。それに少し成長したようだ』

 嬉しそうにそう言って目を細めるブルーの使いのシルフの言葉に、レイの横でまだ立ったままだったルークも興味津々でジャスミンの肩に座る小さなシルフを見つめている。

「へえ、見る限り大きさは変わっていないように見えるけど、ちゃんと成長しているんだ」

『まあ、もともと小柄な子ではあるようだが、ちゃんと成長しているよ。良き事だ』

 笑ったルークの呟きに、ブルーの使いのシルフは笑いながらそう言って頷いている。

「あれからもうすぐ一年だものね。時が経つのって早いなあ」

 感心するようなレイの呟きに、ジャスミンも苦笑いしながら頷いていたのだった。

「誰かさんの叙任式まで、あと一月を切ったからなあ」

 笑ったカウリの言葉に、レイは情けない悲鳴を上げてルークに縋りつきその場は暖かな笑いに包まれたのだった。



「はあ。ほら、立ってないで座った座った。新作お菓子が出番を待っているぞ」

 笑いが収まったところでルークがため息と共にそう言い、レイの背中を軽く叩く。

「ああ、緑の跳ね馬亭の春の新作菓子だね! 食べたい食べたい!」

 目を輝かせたレイの言葉にジャスミンとニーカが揃って吹き出し、笑顔で頷き合ってそれぞれの席についた。

 ソファーに座って陣取り盤をしていたアルス皇子とヴィゴ、カウリと若竜三人組も、その声を聞いて立ち上がってそれぞれの席についたところで、手早く各自の席にカナエ草のお茶とお皿が置かれる。

 お皿には薄紅色の小ぶりなマフィンとたっぷりのクリーム、それから刻んだ果物が綺麗に盛り付けられている。

「こちらは緑の跳ね馬亭の春の新作焼き菓子、さくらんぼのシロップを使った桜マフィンでございます。説明書によると、この上にあるのは塩漬けにした桜の花で、マフィンの中にもシロップ漬けのさくらんぼと共に刻んだ桜の花が入っているのだとか。少し塩味の効いたマフィンなので、甘めのクリームと共にどうぞ。との事です」

 一礼した執事の説明に、皆揃って驚きに目を見開いてマフィンを見る。

「へえ、さくらんぼのシロップはまあ分かるけど、塩漬けした桜の花を使ったマフィンか。これは初めて聞くね。しかもマフィンなのに塩味が効いてるって?」

「この、マフィンの上に張り付いているのがその塩漬けした桜の花なんだね。へえ、綺麗な色だね」

 まさに桜色のマフィンを見てルークとレイがそう言い、皆も感心したようにそう言いながらカトラリーを手にする。

「やっぱり食べてみないとね!」

 笑顔のレイがそう言って、手にしたナイフでマフィンを半分に切る。

「あ、中にさくらんぼが一粒丸ごと入っているんだね。これがシロップ漬けにしたさくらんぼだね」

 半分に切れた小さめのさくらんぼを見て、レイが嬉しそうにそう言って早速食べ始めた。

「うん、本当だ。甘いのにちょっと塩味が効いてて美味しい!」

「ああ、確かに美味しいな。これなら俺でも食べられるぞ。ねえ、マイリーもこれなら大丈夫ですよね?」

 普段はほとんど甘いものは食べないカウリの嬉しそうな言葉に、マイリーとヴィゴも笑顔で頷いている。

「塩味の効いたこういう焼き菓子って初めて食べたかも。へえ、これは良いな」

 ルークも感心したようにそう呟き、アルス皇子も笑顔で食べかけのマフィンを見た。

「これは母上やお祖母様。ティアも絶対に喜びそうだな。まだあるかい?」

「申し訳ございません。すぐに手配いたします」

 まさかのアルス皇子の言葉に、控えていた執事がそう言って一礼する。

「了解だ。じゃあ届いたら私が直接持って行くから、こっちに届けてくれるかい」

「かしこまりました」

 もう一度一礼した執事の言葉に、皆も笑顔で頷いていた。

「緑の跳ね馬亭のご主人も、まさか皇族の方がお召し上がりになる為の追加注文だなんて、思いもしないだろうな」

 ルークの呟きに、レイも満面の笑みで頷いていたのだった。



「それで、ペリエルからのお土産って何をもらったんだい?」

 ひとしきり新作お菓子を楽しみ、それぞれのお皿が空になった頃に、ルークが思い出したようにそう言ってレイを見ながらそう尋ねてきた。

「ペリエルから土産?」

 マイリーも驚いたようにそう言ってレイを見る。

「いいよね?」

 あえて何かを言わずに、レイがそう言ってジャスミンとニーカを見ると二人もこれ以上ないくらいの笑顔で大きく頷いた。

「じゃあ、さっきのお茶、あのままで少しだけ用意してもらえますか?」

「かしこまりました。すぐにご用意します」

 にっこりと笑ったジャスミンの言葉に頷いて一礼した先ほどの執事が、ワゴンからあのお茶が入ったヤカンを手にした。

 不思議そうにしつつも他の執事達も手伝い、手早く人数分のカップが用意された。

「ん? お茶なのにこんな少し?」

 受け取ったそのカップの中に、ひと匙分くらいの少量のお茶しか入っていないのを見てルークが首を傾げる。

 カップを受け取った竜騎士達全員が同じように首を傾げているのを見て、レイとジャスミン、それからニーカが揃って満面の笑みになった。

「ペリエルが持ってきてくれた薬草茶です。味見用に少しだけご用意したので、まずは飲んでみてください!」

 不思議そうにしつつもそれぞれカップを持ってお茶を口にする彼らを、レイ達三人は笑いを堪えて見つめていたのだった。

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