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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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休憩室にて

「じゃあ、美味しいお菓子をありがとうございました」

「それから苦いお茶もね」

 お掃除道具を抱えたクラウディアとペリエルの言葉に、見送りのために立ち上がったジャスミンとニーカが揃って吹きだす。

「確かにあれは苦かったよね」

「生まれて初めての苦さだったわ」

 顔を見合わせて頷き合っているジャスミンとニーカの横では、レイも吹き出した口元を押さえながらうんうんと頷いている。

「確かに、人生初体験だったね。後でルーク達にもこっそり飲ませてみるよ」

「どうなったか報告してくださいね」

 笑ったジャスミンの言葉に、もう一度吹き出した一同だった。



「ああ、もう彼女達は帰っちゃったんだな。皆いるから向こうの休憩室へおいでよ」

 クラウディア達を見送った後、ジャスミンとニーカも四階に戻らずにそのまま第二休憩室で、一緒に人形を手にレイにどんなものを作って欲しいか話をしていると、軽いノックの音がしてルークが顔を出した。

「はい。少し前に、夕方のお祈りの時間があるからって言って帰りました」

「おう、こっちも午後から打ち合わせやらなんやらでバタバタしていてね。ちょっと疲れたからお茶にしようって言っていたところだ。マイリー宛にバルテン男爵から荷物が届いていたから、新作のお菓子も届いているらしいぞ」

「わあい、緑の跳ね馬亭の春の新作お菓子だね!」

 ルークの言葉に目を輝かせるレイの横で、意味が分からないニーカが首を傾げている。

「あのね、バルテン男爵って、マイリー様の補助具を作ってくださったブレンウッド街のドワーフギルドのギルドマスターよ。今でもマイリー様とずっと連絡を取り合っておられて補助具の改良をなさっているんですって。緑の跳ね馬亭は、そのブレンウッドの街にある宿屋兼食堂で、そこのお菓子がとても美味しいの。なのでバルテン男爵がいつも荷物と一緒に新作のお菓子を届けてくださるのよ。今回はどんなお菓子なのかしら。楽しみね」

 ジャスミンの説明に、ニーカは納得したようにうんうんと頷いて笑顔になった。

「そうなんですね。じゃあ私も食べてみたいです。でも、さっきお菓子をいただいたところだから、そんなに食べられるかなあ」

 苦笑いしながら自分のお腹をさするニーカを見て、ルークが苦笑いしながら部屋を見る。

 もうテーブルの上は綺麗に片付けられていて食器は残ってはいないが、先ほどの薬草茶の入ったヤカンを載せたワゴンはそのまま置かれている。これはレイの指示でそのまま休憩室へ持って行く為だ。

「そうか。クラウディアとお茶にしたんだもんな」

「うん。久しぶりにゆっくり話が出来て楽しかったです。あ。ペリエルが一緒にお掃除に来ていたんだ。それで、お土産を貰ったんだよ」

 満面の笑みのレイの言葉に、ジャスミンとニーカが咄嗟に吹き出しかけて横を向く。

「ペリエルも来ていたのか。ああそうか。こっちではクラウディアが指導担当だって言っていたな」

 その辺りの報告も定期的に受けているルークが、納得したように頷く。

「でも、見習い巫女の彼女からの土産って、何を貰ったんだい? 彼女はまだレース編みも出来ないよな?」

 不思議そうなルークの質問に、レイは笑顔で首を振った。

「じゃあ向こうで説明するから、一緒に休憩室へ行こうか」

 振り返ったレイの言葉にジャスミンとニーカも笑顔で頷き、四人で一緒に休憩室へ向かった。

 当然のように、執事がワゴンを押してその後に続く。

 ワゴンを押している先ほど咳き込んだ執事は、振り返ったレイが満面の笑みで頷くのを見て、苦笑いしつつこちらも小さく頷いたのだった。



「お、ジャスミンとニーカも来ていたのか。そうか今日は午後からは自習の日だったな」

 予備の机をテーブルの横に置いてそこに資料を広げていたマイリーが、部屋に戻ってきたレイ達を見て笑顔でそう言って手にしていた資料を置いた。

「はい、先ほどまでクラウディアとペリエルがエイベル様の祭壇のお掃除に来てくれていたんです。それで、第二休憩室でレイルズも一緒にお茶をいただいていました」

 笑顔のジャスミンの説明に、マイリーも納得したらしく頷く。

「ペリエルも頑張っているらしいな。精霊魔法訓練所のケレス学院長から聞いたが、彼女はもう下位の座学の単位は全部取り終えて、光の精霊魔法を含む下位の術の実技に入っているらしいぞ。そうか。彼女が来ていたのなら俺も顔を出せればよかったな」

「まだまだ実技の成功率はかなり低いんだって嘆いていました。もっと精霊達と仲良くなりたいって」

「まあ、こればかりは自分でどうにか出来る事じゃあないから、時間をかけてじっくり向き合うしかないさ。だけどこれに関しては、相性みたいなものが絶対にあるよな。特に最初の頃って、精霊達と苦もなくすぐに仲良くなる子もいれば、どれだけ頑張ってもなかなか仲良くなれない子もいるからなあ」

 笑ったルークの言葉に、レイは自分がタキス達から精霊魔法を習い始めた時の事を思い出していた。

「僕は、割とすぐシルフ達と仲良くなれた気がするね。初めて声が聞けた時は、すごく嬉しかったなあ」

 朝、挨拶をしたら返事を返してくれた時の事を思い出して笑顔になる。

「私も、初めてシルフ達とお話が出来た時には、すっごく嬉しかった覚えがあるわ」

 笑ったニーカの言葉に、ジャスミンも頷く。

「私は、一人でオルダムへ来て見習いとして今の父上のお屋敷で働き始めてすぐに、シルフが見えるようになったの。でも最初、私は自分が寂しさのあまり幻を見ているのだと思っていたわ。毎晩、ベッドに入って寂しくて泣いていると彼女達が来てくれて歌を歌ってくれたり私の泣き言を黙って聞いてくれたの。とても慰められたわ。そうこうしているうちに、ルーク様とレイルズが来てくれてああなったわけ。彼女達が風の精霊なんだって聞いた時の驚きは、今でもはっきりと覚えているわね」

「ああ、そうだったなあ」

 頭上に集まって手を振っているシルフ達を見上げながらの笑顔のジャスミンの言葉に、当時を思い出したルークも同じくシルフ達を見上げて苦笑いしている。

 あの後、帰り道でルークから聞いた話を思い出したレイも、一緒になって困ったように苦笑いしていたのだった。

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