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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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薬草茶の事

「えっと、じゃあ開けさせてもらうね」

 ペリエルが作ってきてくれたのだという薬草茶に、ジャスミン達も興味津々なのを見て苦笑いしたレイが、テーブルの上に置かれた小さな包みを手にした。

 畳まれたそれをゆっくりと開くと、中には数回分は余裕であるかなりの量の配合茶が入っていた。

「へえ、茶葉や薬草は全部小さく割って刻んであるんだね。確かにこれなら薬効成分もかなり出そうだね」

 思っていた以上に細かい茶葉を見て、レイが驚いたようにそう言ってジャスミン達にも見えるように包みごとテーブルに戻す。

 薄紙の上にあるその茶葉は、確かにごく細かく刻まれていたり割られたりしていて、何が入っているのかは一見しただけでは判断出来ない。



 普段レイ達がお茶にして飲んでいる苦草とも呼ばれるカナエ草は、元はヨモギに似たギザギザとしたやや特徴的なやや大きめの葉をしている。

 タキスがカナエ草の葉でのど飴を作っていた時には、新芽の部分だけを摘んでから茹で、それを強く揉み込んだ際に出る薬効成分を含んだ少量の汁だけを使っていたが、カナエ草のお茶を作る場合には、基本的に開いた柔らかい葉を使う。

 カナエ草の新芽は、ヨモギや通常の紅茶に使うお茶の葉とは違い、とても硬くてお茶にするには向いていないからだ。

 収穫した開いた葉を軽く刻んでから蒸して、冷ましながら軽く揉んで形を整えて乾燥させればカナエ草の茶葉が出来上がる。

 茶葉にする為に葉を刻むのは、薬効成分が少しでも出やすいようにするためだ。


「ううん、何が入っているのかは見ただけではちょっと分からないね。あ、これはカナエ草の葉だね」

 ごく小さく砕かれたそれを見て、見慣れた葉の色に気付いて思わず笑顔になる。

「ああ、本当ね。これはカナエ草の葉っぽいわね。でも、他はちょっと見ただけでは分からないわね。ねえ、ペリエル。他には何を使っているのか聞いてもいい? 私は、好きで色んな薬草茶や香り付けをした香草茶って呼ばれるお茶も飲んでいたから、少しは知識があるわ」

 テーブルを挟んだ向かい側から覗き込んだジャスミンが、そう言って隣に座るペリエルを見た。

「はい、ええともちろん配合の比率はあるんですが、種類でいうとカナエ草以外だとニガヨモギとイラクサ、ペパーミントとローズヒップ、カミツレ、エキナセアにジンジャーにカレンデュラ、あとは……」

 指折り数えながら告げられる薬草の名前に、レイは驚きに目を見開いた。

 その全てが蒼の森にいた頃にタキスから教えてもらったものばかりで、特段珍しいものは無いのだ。

「へえ、全部知っている薬草ばかりだね。それでこれが出来るって、ちょっとびっくりだね」

 感心したようにそう言い、包みの横に現れたブルーの使いのシルフを見る。

「えっと、ブルーはペリエルがこれを作るのを見ていたんだよね?」

『ああ、もちろんだ。いくつか質問もさせてもらって、配合はもうしっかりと覚えたぞ』

「そうなんだね。あ、よかったらタキスにこれの作り方を教えてあげてよ。きっとこれは、さすがタキスでも知らないと思うからさ」

 良い事思いついたと言わんばかりの笑顔のレイに、ブルーの使いのシルフは何か言いたげにペリエルをチラリと見た。

 もちろん、今のブルーの使いのシルフは姿を見せているし、先程の会話も伝言のシルフと同じように他の人達にも聞こえるように話している。

「もちろん、お知り合いにそういった事に詳しい方がおられましたら、教えていただいても構いません。父さんが作っていたこれが少しでも誰かの役に立てれば、きっと父さんも喜んでくれると思います」

 笑顔のペリエルの言葉に、ブルーの使いのシルフも笑顔で頷く。

『了解だ。では彼と、白の塔の竜人にも一通り教えておこう。この二人が知っていれば知識の継承はほぼ不要だろう』

 白の塔の竜人とは、もちろんガンディの事だ。

「確かに。タキスだけじゃあなくてガンディにも教えておいてくれれば、間違いなくこの配合は後の世代に伝わるね」

 嬉しそうなレイの言葉に、笑ったブルーの使いのシルフも頷く。

『白の塔の書庫には、歴代の白の塔で作られていた薬の配合を全て記した門外不出の貴重な書物が複数存在する。その中にこの薬草茶の配合が載っているかどうかはちょっと分からぬな。特に、こういった地方で作られていた民間薬は口伝で伝わるのみで資料が残っていない事も多い』

「確かにそうだね。ブルーも知らなかったんだからさ」

『まあ、この世の全てを知るのは精霊王だけだよ。我とても、知る事が出来るのは、こうやって接する事の出来た知識のみだ』

 苦笑いするブルーの言葉に、皆も笑顔で頷く。

「じゃあ、貴重なその機会をもらえたんだから、活かさないとね。せっかくだから飲んでみる?」

 特にジャスミンがこの薬草茶に興味津々なのを見て、苦笑いしたレイが用意してもらったばかりのカナエ草の茶が入ったカップを見る。

「あの……」

 しかし、茶葉の包みに手を伸ばしたレイを見て、ペリエルが慌てたように何か言いかけて口ごもる。

「ん? どうかした?」

 今から執事にこれを渡して、次に淹れてもらおうと思っていたレイが驚いたようにペリエルを見る。

「その薬草茶は、このお茶のようにポットに入れてお湯を注ぐのではなく、茶葉をヤカンに直接入れて、お湯ではなく水から煮込みます。煮立ったお茶は、濃い焦茶色になるくらいまでしっかりと煮込まなければいけないんです」

「へえ、そうなんだね。えっと、茶葉の量はどれくらい?」

「そうですね。だいたい大きめの匙に山盛り一杯分で、お湯の量はこのカップ二杯分くらいですね。当然、茶葉を多めに入れるとそれだけ苦味も出ますから……」

「そっか、確か苦いって言っていたよね。どうする? 飲んでみる?」

 ジャスミンを見ると、彼女は笑顔で頷いた。

「せっかくだから飲んでみたいわ。どれくらい苦いのか、ちょっと気になるし」

「了解、じゃあこれを大きめの匙に山盛り一杯分にカップ二杯分くらいのお水で煮込むんだって。次のお茶にお願いしてもいいですか?」

 振り返ったレイが、控えていた執事に茶葉を見せながらそうお願いする。

「かしこまりました。ではご指示の通りの淹れ方でご用意させていただきます」

 包みを両手で受け取った執事が控えの間に下がるのを見て、レイは笑顔でカナエ草のお茶が入ったカップを見た。

「じゃあ、その前にまずは美味しいお菓子とカナエ草のお茶をどうぞ。あ、ハチミツはこれを使ってね」

 レイの言葉に顔を見合わせた少女達も揃って頷き、まずはカナエ草のお茶でお菓子をいただいたのだった。

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