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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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競り落とせた物と駄目だった物

「よし! 天球儀は全部落とせた!」

 ルークに教えられたやり方でかなりの金額を叫んだレイは、まずは絶対に落としたかった天球儀を全て競り落とす事が出来た。

 来てくれた担当の執事に、競り落とした際の金額を記入した金額指定札を渡して控えをもらう。

 競り落とした品物は、後日指定した場所に届けてくれるのだと聞いたレイは、全部まとめて瑠璃の館に届けてもらうようにお願いした。

 届いたら絶対に見に行こうと考えていたらつい口元が緩んでしまい、笑ったブルーの使いのシルフに口元を突かれて誤魔化すように咳払いをしたレイだった。



「お見事でしたわね。ですがあれはもう、レイルズ様の為に出品されたような品物だったのですから、競り落とさないわけにはまいりませんわよね」

「本当ですよね。全部競り落とせてよかったです」

 側にいたミレー夫人にそう言われたレイは嬉しそうな笑顔で頷き、また別の品物が競りにかけられるのを見て、特に欲しくなかったので大人しく見学していた。



「あら、また新しいお菓子が出てきたようですわよ」

「ええ、どれですか?」

 作者名が読み上げられた古いパイプの競りが始まった途端、何やら一部の人達が目を輝かせて前に出てきてあっという間にとんでもない金額になるのを驚いて眺めていると、笑ったミレー夫人にそう言われてレイは慌てて壁面にあるお菓子の場所を振り返った。

 確かに、何人もの菓子職人達がワゴンを運んで来ていて、空になったお皿を交換している。

 ミレー夫人と顔を見合わせて笑顔で頷き合ったレイは、一緒に嬉々としてそちらへ向かった。

 ルーク達はそんなレイをチラリと横目で見ただけで特に何か言うような事もなく、競りを黙って見学している。ここでは彼らも競りには参加していないようだ。



「ああ、チョコレートですね。これは頂かないと!」

 艶のあるやや小粒のチョコレートが並んだお皿を見て、レイが目を輝かせる。

「えっと、これは形が違うけど味は同じなんですか?」

 チョコレートは、全体に黒っぽい色の方が苦味があり、ミルクを入れた紅茶のような茶色っぽい方が甘味の多いのが定番だが、ここに並んでいるのは、形こそ違うがどれも真っ黒な色をしているのでかなり苦そうだ。

 やや苦めのものはワインと合わせる人が多いので、それならばここに並べるよりもお酒の横にあるナッツなどが並んだところに置く方がいいのではないだろうか。

 そんな事を考えつつ、近くにいたチョコレートを並べている菓子職人に質問した。

「はい、こちらは中に様々な味の甘いクリームやナッツ入りのキャラメルなどが入っております。その為、外側部分のチョコレートはやや苦めのものを使っております。どうぞ一口でお召し上がりください。その際に、お口の中でゆっくりと溶かしていただくと苦味と甘味の両方をお楽しみいただけます。ナッツ入りの方は、噛んでいただくとまた違う味わい方が出来ます」

 顔を上げた菓子職人が、レイの質問に嬉しそうにそう答えてくれる。

「ああ、そういう事ですか。じゃあ、中に何が入っているのかは、食べてみてのお楽しみなんですね」

 全部食べるのはちょっと無理そうなので、どれを取ろうか考えながら小さく頷く。

「そうですね。では、少しだけお教えいたしますが、左側の方がナッツ系、右側の方はクリーム系の中身になっております。甘いのがお好きなレイルズ様なら、右側のクリーム系がおすすめですね」

 少し声をひそめた菓子職人の言葉に、笑顔で頷いてお礼を言ったレイがいそいそと右側のチョコレートを取り始めたのを見て、その菓子職人はとても嬉しそうな笑顔で深々と一礼してから残りのお皿を並べるのを再開した。



「ううん、これは美味しい!」

 確かに言われた通りに一口で食べてゆっくりと口の中でチョコレートを溶かすと、苦味の上に甘みが重なっていつも以上に美味しく感じる。

「確かにこれは美味しいですわね」

「苦めのチョコレートと甘いクリームが合わさって、なんとも言えない良き甘味になりましたわ」

「このナッツ入りのも美味しゅうございますわよ。こちらは確かに噛んだ方がナッツの甘みも感じられて美味しいですわね」

 レイが幾つものチョコレートを取るのを見て、一緒にチョコレートを食べていたミレー夫人やイプリー夫人達、婦人会の面々もその美味しさに感心している。

 レイは、チョコを取った際に書いたのと同じ金額をもう一度記入して、追加で近くに置いてあった寄付箱に押し込んだ。

 寄付箱は、お菓子やワイン、軽食などの品物の購入を伴わない寄付の際に入れる為に用意されている箱で、今のように購入したものが気に入ったり、先ほど書いた金額が安いと感じた場合などに追加で寄付が出来るように用意されているものだ。それを見た何人ものご夫人達が、同じように追加の金額指定札を寄付箱に入れてくれた。



 竪琴の競りには参加する気満々だったのだが、気になっていた一番大きな竪琴に、竪琴の会のシャーロット夫人が相当の高額を示したのを見て競り落とすのを諦めたレイだった。

 結局、いくつかあった竪琴はほぼシャーロット夫人が競り落としてしまい、これだけは欲しいと思って頑張った結果、レイはやや古いが大型の竪琴一つだけ競り落とせただけで終わった。

 おそらく、これは彼女が途中で譲ってくれたのであろうとブルーの使いのシルフに教えられたレイは、競りが終わったところでこっそりシャーロット夫人にお礼を言いに行ったのだった。

「お気になさらず。競り合うのもなかなかに楽しゅうございましたわ」

 レイにお礼を言われて苦笑いしつつも楽しかったと言ってくれたシャーロット夫人に、改めてもう一度お礼を言ったレイだった。



「お、次はドールハウスみたいだな」

 ルークの声にチョコレートを口に入れたレイが慌てて舞台を振り返ると、確かに次の競りの為に舞台にドールハウスが運ばれてきているところで、レイの作ったあのドールハウスも運ばれてきている。

「もしかして、あれが噂の……レイルズ様がお作りになったのだというドールハウスですか?」

 口元を扇で隠したミレー夫人の小さな問いかけに、苦笑いしたレイが小さく頷く。

 周りにいた人達も揃って目を輝かせて舞台を振り返り、突然あちこちで数名の人達が集まってヒソヒソと内緒話が始まった。

「えっと……」

 驚くレイに、ミレー夫人だけでなくルークやロベリオ達まで揃って笑顔でレイを見た。

「まあ、見ているといい。いくらで落とされるか楽しみだよ」

「そうですね。僕も楽しみです」

 にんまりと笑ったルークの言葉に戸惑いつつも準備が整ったらしい舞台を改めて見て、笑顔で大きく頷いたレイだった。

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