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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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それぞれの平和な朝

 翌朝、部屋に入って来た侍女が見たのは、ベッドに並んで仲良く熟睡しているジャスミンとニーカの姿だった。

 床にはソファーに置いてあったはずの大きなクッションが二つ並んで転がったままだし、用意してあったカナエ草のお茶は綺麗に無くなっているし、瓶に入った何種類ものビスケットもかなり減っている。

 用意してあった人形達は一応カゴにまとめて入れられてはいるが、着せ替えたらしいドレスや軍服の一部は別の木箱にまとめて入れてあるだけなので、少々シワになっている。これは後ほど手入れしておく必要があるだろう。

 それでも楽しく遊んでくれたのがよく分かるその光景に、侍女達は笑顔で顔を見合わせて頷き合った。

 今朝は特に急いで起こさなくても良いので、侍女達は音もなく動き回ってまずは散らかった部屋を手早く片付けていった。

 使い終えた食器が重ねて置いてあったワゴンも一旦全て撤収すると、侍女達は熟睡したままの二人に軽く一礼してから部屋を出ていった。

 彼女達は見えていなかったが、ジャスミンとニーカの上にはルチルとクロサイトの使いのシルフがいて、部屋に入ってきた彼女達を黙ったままでじっと見つめていたのだ。

 特にジャスミンとニーカを起こす事もなく部屋を出て行った彼女達を見送ったルチルとクロサイトの使いのシルフは、顔を見合わせてから安堵のため息を吐いた。

『昨夜の一件』

『侍女達には気付かれていないようですね』

『そうだね』

『後半の大騒ぎの時にはラピスが助けてくれたしね』

 笑顔でそう言って頷き合ったルチルとクロサイトの使いのシルフは、熟睡しているそれぞれの主を愛おしげに見つめてからその柔らかな頬に想いを込めたキスを贈った。

『ではもうしばらくゆっくりするとしましょう』

『そうだね』

『じゃあゆっくりしようっと』

 嬉しそうにそう言ったルチルとクロサイトの使いのシルフは、ジャスミンとニーカの胸元にそれぞれ潜り込んで一緒に眠る振りを始めた。

 その周りでは、目を輝かせたシルフ達がいそいそと二人の髪を引っ張って遊び始めていたのだった。



「ううん、寒い……」

 一方、何故か不意に襲ってきた寒さに目を覚ましたレイは、小さくそう呟いて目を開いた。

 何故か天井が遠い。どうやらレイは、皆が寝ている大きなベッドから転がり落ちて、一人だけ床で寝ていたらしい。

「えっと……ああもう、またやられた!」

 小さく笑って前髪をかき上げようとして、いつものように豪華に絡まり合った髪に気付いて思いっきり吹き出す。


『今日も頑張ったよ〜〜』

『いっぱい三つ編みしたの〜〜』

『もぎゅもぎゅだもんね〜〜』

『ね〜〜〜〜!』


 嬉々として集まってきたシルフ達の言葉にレイが吹き出し、大きなため息を吐く。

「だからもぎゅもぎゅって何!」


『もぎゅもぎゅは〜〜』

『もぎゅもぎゅなんです〜〜』

『もぎゅもぎゅだもんね〜〜』

『それから〜〜』

『クルクル巻き巻きして〜〜』

『ピュッとしてバ〜ンなの〜〜』

『ね〜〜〜!』


「あはは、って事は今朝も皆の髪で遊んだんだね。相変わらず飽きもせずに遊んでるんだねえ」

 シルフ達の言葉に呆れたようにそう言ったレイは、手をついて起き上がって床に座った。

 軽く身震いをしてから、毛布を引っ張って背中から羽織る。

 それから、横にあるベッドを見て思いっきり吹き出したのだった。

 三つ並べた大きなベッドの上には、並んで折り重なるようにしてくっついたまま熟睡している、ルークとロベリオとタドラ、ティミーとマークとキムがいるが、全員揃ってシルフ達の手によりそれぞれ程度の差こそあれ全員の髪がなかなかに豪快な事になっていたのだ。

 昨夜鼻血を出したユージンは皆と一緒には寝ずに、大きなソファーをくっ付けて用意した即席ベッドに一人で寝ているので、何故か彼の髪だけそのままだ。

 床に座ったまま枕を抱えたレイは、無言で目を閉じて昨夜の記憶を辿り、マイリーとヴィゴとカウリは陣取り合戦が終わった後で部屋に戻った事や、彼らを見送ってからユージンの為の即席ベッドを用意して彼を休ませ、それから皆と一緒にベッドに入ったのを思い出した。

 だけど、その後もベッドの上でやや控えめな枕戦争が始まり、レイはティミーと組んで嬉々としてティミーを守りつつ枕を振り回して遊んでいたのだ。



「そっか。ベッドの上限定の枕戦争が終わってから、皆で並んで横になっておやすみを言ったんだっけ。でも、どうして僕だけ床で寝ているんだよ!」

 ようやく昨夜の事を全部思い出したレイは、小さく吹き出して手にしていた枕を置いて立ち上がった。

 一応、枕を抱えたまま毛布に包まって床に転がっていたので、風邪をひいた程ではないがさすがにこれは寒い。

「ちょっと! どうして僕だけ床で寝ているんだよ! 酷い! 僕を蹴り落としたね!」

 手前側の端で寝ていたルークとロベリオを両手で叩いてから、そう叫んで二人は羽織っていた羽布団ごと毛布を全部まとめて引き剥がす。

「うわっ! 寒い!」

「何するんだよ!」

 当然驚いたルークとロベリオが飛び起き、その叫び声に何事かとマーク達が飛び起きる。

 一番奥側に寝ていたティミーとタドラは、大声に少しだけ目を開いたが起きる様子はなく、揃って眠そうに大きな欠伸をしてからまた目を閉じてしまった。

「あはは、何の事だか分からないなあ」

「そうだよな。お前が勝手に落ちたんだろう? 俺達のせいにするなよな」

 ベッドに座ったルークとロベリオの言葉に、レイが思いっきり不審そうな顔になる。


『ケリケリコロコロ〜』

『ケリケリコロコロ〜』

『蹴ったのはこのお二人〜〜』

『ケリケリコロコロ〜』

『落っこちたのは誰かな〜〜』


 集まってきたシルフ達が笑いながら蹴る振りと転がり落ちる振りをする。

 それを見たルークとロベリオが揃って吹き出し、笑ったレイが両手を広げて二人に飛びかかり、逃げようとしたルークとロベリオに踏まれたマークとキムが悲鳴を上げて、今度はさすがに目を覚ましたタドラとティミーが慌てて逃げ出し、全員揃って吹き出して大爆笑になったのだった。

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