人形遊びと深夜のおやつ
「では、お手をどうぞ」
男性の人形を持ったニーカが、嬉しそうにそう言って人形の右手をジャスミンが持つ華やかなドレスを着た人形に差し出す。
「まあ、光栄ですわ」
笑ったジャスミンがそう言い、手にしていた人形の手を動かしてニーカの持つ人形の右手に重ねる。
周りでは、数えきれないくらいのシルフ達が目を輝かせて待ち構えている。
笑ったジャスミンとニーカが向かい合わせにした人形からそっと手を離す。
『踊るよ踊るよ〜〜』
『楽しい楽しい』
『クルクル〜〜クルクル〜〜』
『クルクル〜〜らんら〜〜ん!』
楽しそうにそう言ったシルフ達が人形の周りに集まり、向かい合わせにした人形達を支えながらまるで本当に踊っているかのように、くるりくるりと回転させながら絨毯を敷いた床の上を動かしていく。
しかも時折、勝手に人形の手や足を動かしてポーズを変えたりもしている。
シルフ達が見えない人がこの様子を見たら、勝手に人形達が踊っているかのように見えて驚くだろう。
「まさかこんな遊び方があったなんてね。まあ、これは精霊魔法使い限定の遊び方ね」
シルフ達に支えられて踊る人形を見たジャスミンが、呆れたようにそう言って笑う。
「確かにそうね。じゃあ、これは私達だけの時限定ね」
同じく人形を見ていたニーカも、嬉しそうに笑いながらそう言って新しい人形を手にした。
「神殿にいるディアやペリエルになら教えてあげてもいいかもね。こんな風にしてシルフ達が遊ぶよって」
人形のドレスを整えながら、嬉しそうにそう言ったニーカの言葉にジャスミンは新しい人形を手にして不意に考え込む。
「ん? どうしたの?」
不思議そうなニーカにそう聞かれて、ジャスミンは手にしていた人形をニーカに見せた。
「確かに神殿には、追加でまたたくさん人形を届けたけど、恐らくだけどディアもペリエルもこんな風には人形を持って遊んだりしないと思うわ」
「どうして……あ、分かったわ。そういう意味ね。確かに、ディア達ならこのお人形はあくまでもドレスを作る時の採寸用であって、自分達で遊ぶ為のものじゃあないって考えそうね」
真顔のジャスミンの言葉に、考えたニーカも納得したようにそう言って改めて人形を見つめた。
「もしかしてこっそり遊んでくれたりしたら、張り切ったシルフ達が一緒に遊んでくれるかもしれないけど、彼女の性格からそれは無さそうね」
顔を見合わせた二人は、ほぼ同時に大きく頷いてため息を吐いた。
「じゃあ、今度彼女が祭壇のお掃除に来てくれた時に、少しでもいいからこっちへ来てもらって一緒に遊ぶのは駄目かな?」
「ううん、それはどうかしらね。兵舎の私達の部屋に勝手に彼女を連れてくるのは、ちょっとまずい気がするわね。それなら本部の四階の休憩室に私達の持っている人形を持って行っておいて、ディアを呼んで来てそこで一緒に遊んでもらうのが良さそうね」
目を輝かせたニーカの提案に、ジャスミンが少し考えて訂正案を出してくれる。
「そっか、兵舎の中に部外者であるディアを勝手に連れていくのは確かに問題がありそうね。じゃあそれでお願いします」
人形を抱きしめたニーカの言葉にジャスミンも笑顔で何度も頷く。
「そうね。それじゃあ、ディアが次に祭壇のお掃除に来てくれる日を確認しておくわ」
「うん、よろしくね!」
笑顔で頷き合った二人は、その後も新たなドレスを着せ替えたりレースのリボンで人形の髪を括ったりして、シルフ達と一緒に人形遊びを楽しんだのだった。
「はあ、お部屋は暖かいから冷えたお茶が美味しい」
「そうね。ねえ、このビスケット、とても美味しいわ」
人形遊びが一段落したところで、床に座ったままの二人は用意してくれてあった冷めたお茶で休憩する事にした。
もぐもぐと干しキリルの入ったビスケットを齧るニーカに笑顔でそう言われて、お茶のカップをトレーに戻したジャスミンも、小皿に出しておいたビスケットを笑顔で食べ始めた。
「深夜のおやつって、どうしてこんなに美味しいのかしらね」
「そりゃあ、普段やってはいけない事だからよ。覚えておきなさいニーカ。これが禁断の味って言うのよ」
大真面目なジャスミンの言葉に、ニーカが堪えきれずに吹き出す。
今読んでいる物語の主人公が、こっそり隠してあったビスケットを食べて、あまりの美味しさに「これが禁断の味なのね」と、しみじみと呟く場面がある。
だがニーカには、その言葉の意味が分からなかったらしく、ジャスミンに質問して一緒に辞書を引いた事があるのだ。
顔を見合わせた二人は同時に吹き出し、揃って頷き合ってから嬉々としてもう一つビスケットを手にしたのだった。




