それぞれの遊び方
「ル、ルーク様でも苦労なさったのなら……」
「俺達が苦労するのは当たり前ですよね!」
何故か嬉しそうに目を輝かせるマークとキムの言葉に、また皆が笑う。
「そうだね。だから失敗しても、気にせず食べてくれていいんだからね!」
平然と骨付きの魚を食べていたレイにそう言われて、また情けない悲鳴を上げるマークとキムだった。
「頑張ってね。ちなみにまだ骨付きのお魚の食べ方を習っていない私のお皿は、こんな感じです!」
笑ったニーカがそう言って自分のお皿を指差す。
ニーカの前に置かれたそのお皿には、他の皆と違って切り身のお魚が同じ味付けで盛り付けられている。
「「ニーカだけずるい!」」
それを見た二人の叫びが見事に重なり、ニーカは思わず吹き出したのだった。
豪華な夕食を楽しんだ後は歓談室に場所を変えて、お酒を片手にのんびりと過ごした。
「そういえば、明日の夜に行われる夜会に、神殿の皆が作ってくださった作品を色々と出品しているんです。人形用のドレスが全部で二十着と、総レース仕立ての人形のドレスが五着、それ以外にも人形のドレスに使える極細糸で編んだレースのリボンやチュールレースも。どれも本当に見事な出来栄えなんですよ」
「どれも本当に見事な出来栄えだったものね」
リンゴのジュースを飲んでいたジャスミンが顔を上げて嬉しそうにそう言って、同じく笑顔のニーカと頷き合っている。
「ああ、噂は聞いているけどそんなに見事な出来栄えなんだ。へえ、こりゃあどれくらいの値段がつくのか楽しみにしていようっと」
笑ったルークの言葉に、レイをはじめとした竜騎士隊の皆は納得したように笑っている。
「夜会に出品って?」
人形は、少し前にラスティが言っていた事だと分かったマークとキムだったが、そのドレスに値段をつけると言う意味が分からなくて首を傾げている。
「あのね、えっと明日の夜に行われる夜会は、寄付集めのための夜会なんだ」
「寄付集め?」
「そう。降誕祭が終わったこの時期って普段よりも寄付集めに苦労するんだって」
「ああ、そりゃあ降誕祭でがっつり寄付をなさった方々にしてみれば、そうなるだろうな」
頷いたキムの呟きに、マークも意味がわかって納得する。
「そういう事か。つまり、寄付が少ない時期に合わせてわざわざ夜会で寄付集めをするわけか。って事は、出品した作品に値段をつけて、それが寄付になるわけだな」
「キム正解! さっき少し話したけど、今貴族の女の子達の間で大流行しているのが、バルテン男爵が作った手足を動かせるお人形でね。女の子達はそのお人形を着せ替えたり、色んな道具を持たせたりして遊ぶんだって」
「へえ、すげえな」
無邪気に感心するマークに、ジャスミンがにっこり笑う。
「じゃあ後で見せてあげるわね。少しだけど持ってきているから」
「あれ、そうなんだ。ここにも二人に遊んでもらえるようにって、人形を用意しているって聞いたよ?」
「ええ、そうなの?」
レイの言葉に、今度はジャスミンとニーカの声が重なる。
「えっと、そう聞いたよ。ねえ?」
最後は控えていたラスティに向かってそう言うと、レイに聞かれたラスティは笑顔で頷いた。
「はい、お嬢様方に遊んでいただけるよう色々とご用意しております。どうぞ心置きなく夜更かししてお遊びください」
「嬉しい。ありがとうございます。じゃあ、部屋に戻ったら見せてもらいますね」
目を輝かせる二人を見て、その人形を知らないマークとキムは不思議そうにしている。
「ううん、平民には全く未知の世界だよ」
苦笑いするキムの呟きに、どちらも分かるヴィゴやルークは苦笑いしている。
「ねえ、僕にはどちらも未知の世界なんだけど、じゃあ、街の女の子達はどんな事をして遊んでいるの?」
不思議そうなレイの質問に、何か言いかけたキムは彼の幼い頃の話を思い出して小さく頷いた。
「そうだなあ。例えば手遊びだったり謎かけやしりとり、追いかけっこ辺りは、道具を使わないからどこでも出来る定番の遊びだな。後は父親や知り合いの男性に木を削って人形を作ってもらったりして、それで遊んだりするよ。もちろんその人形は手足も頭も動かないぞ。大抵は頭と胴体部分を簡単に削った程度で、器用な人なら顔や手足を描いたりするくらいかな。後は古着を使って母親が人形を縫ってくれる家もあるかな。だけどそっちは抱き人形が基本だから、もう少し小さい子向けだな」
少し考えながら、キムがそう教えてくれる。
「へえ、そんな事するんだね。でも、道具が違うだけで遊ぶ内容はあまり変わらないんだね」
「確かにそうだな。農家だと遊びと仕事がほぼ一緒だから、男女の比なく皆働きながら遊ぶ感じだな。例えば、農作業を手伝う時に早さや、どっちがうまく出来るかを競い合ったりするのは定番だな。あとは、春になると牧草地の野草の花を摘んで花冠や花束を作ったりはするかな」
「へえ、農家の子はそんな風にして遊ぶんだ」
生粋の貴族のロベリオ達は、キムやマークの話を聞いて逆に感心している。
「確かに、僕もゴドの村にいた頃は、働く事そのものが遊びみたいなものだったね」
笑ったレイの言葉に、ルーク達も優しい笑顔で頷いていたのだった。




