二人の恋の行方
「ねえ、これどうするべきだと思う?」
「ううん、一応は迎えに来たんだから、このまま放置ってわけにはいかないんじゃない?」
見つめ合ったまま固まってしまったマークとジャスミンを見て、レイを見上げたニーカが完全に面白がる口調でそう言って笑う。
ニーカの手を取ったレイも、苦笑いしつつそう言って二人を見たまま困っている。
案内して来たアルベルトも、困ったようにしつつもまずは静観の姿勢だ。
「あ、あの……私、どこか変、かしら?」
瞬きも忘れたかのように目を見開いたきり自分を見つめて動かないマークの視線に耐えかね、ジャスミンが戸惑うように小さな声でそう言って胸元に手をやった。
「あの、あの、し、失礼しました!」
唐突に我に返ったマークが慌てたようにそう言って、何度か瞬きをしてから一つ深呼吸をする。
「その……あまりの美しさについ見惚れてしまいました。大変失礼をいたしました」
直立したマークの言葉の言葉を聞いたジャスミンが耳まで一気に真っ赤になり、その直後にマークも同じくらいに真っ赤になる。
「行こうか」
「そうね、行きましょうか」
真っ赤になった二人が無言のまままた見つめ合うのを見たレイとニーカが呆れたように揃って肩をすくめてから、そう言って本当にさっさと歩き出してしまった。
「待ってニーカ! 置いていかないで!」
「待てくれレイルズ! 置いていかないでくれって!」
焦った二人の声が重なり、足を止めたレイとニーカが揃って吹き出す。
「そんな事言われてもねえ」
「そうよねえ。私達にどうしろって言うのかしら?」
顔を見合わせた二人の言葉に揃って情けない悲鳴をあげたジャスミンとマークが、顔を覆って揃ってしゃがみ込む。
「ほら、せっかくのドレスがしわになっちゃうわよ。立ちなさいって」
わざとらしく笑ったニーカが、座り込んだまま顔を覆って動かないジャスミンの腕を引いて立ち上がらせる。笑ったレイも、同じく真っ赤になったまま座り込んでいるマークの腕を引いて立たせてやった。
「はあ、こんなの俺にどうしろって言うんだよ」
立ち上がったものの、ジャスミンを見てまた真っ赤になったマークが情けない声でそう呟いて大きなため息を吐く。
「じゃあこんな時の対応を教えてあげるね」
これ以上ないくらいににっこりと笑ったレイの言葉に、慌てたようにマークが直立する。
「よろしくご指導ください!」
「そんな難しく考えなくていいんだよ。まずは思ったままの感想をきちんと相手に伝える事。この場合、なんて言うのかは分かるよね?」
あえて言わないレイをまだ真っ赤なままのマークが見つめる。
「分かるよね?」
もう一度念を押されてうんうんと頷いたマークは、一つ大きな深呼吸をしてからパンと両手で自分の頬を打ち、それからジャスミンに向き直った。
笑ったニーカが、それを見てジャスミンの背中をグッと押してマークの前に進ませる。
「失礼しました。今夜の貴女は本当に、本当にお美しいです。俺なんかでは到底釣り合うお方とは思えませんが……それでも、心からお慕いしております。粗忽者ゆえ失礼があると思いますが、夕食会の会場まで、案内役を務めさせていただいてもよろしいでしょうか」
もうこれ以上ないくらいに真っ赤になりつつも、ジャスミンを見つめての告白にレイとニーカが揃って小さく拍手をする。
「も、もちろんです。あの、私の方こそ……そう言っていただけて、とても嬉しいです」
こちらも耳まで真っ赤になったジャスミンがそう言って胸元を押さえて小さく深呼吸をする。
「お手をどうぞ」
マークがそう言って左腕を軽く曲げてジャスミンの右側に立つ。頷いたジャスミンが右手でその左腕にそっとすがる。
「じゃあ行こうか」
「そうね。行きましょうか」
笑って顔を見合わせたレイが改めてニーカの手を取り、笑ったニーカも素直に手を取られてレイの隣に立つ。
改めて一礼したアルベルトの後について、二人が部屋を出ていく。
それを見て、マークとジャスミンもややギクシャクとした不自然な歩き方でそのあとを追ったのだった。
『おやおや、案内するだけでも大騒ぎのようだな』
面白がるようなブルーの使いのシルフの言葉に、ルチルとクロサイトの使いのシルフ達が揃って苦笑いしている。
『あの二人もラピスの主殿と同じくらいに色々と大変そうだね』
クロサイトの使いのシルフが、そう言って肩をすくめる。
『確かにそうね』
『でも周囲からは祝福されているみたいだし』
『意外になんとかなるのではなくて?』
笑ったルチルの使いのシルフの言葉に、ブルーとクロサイトの使いのシルフ達も揃って笑う。
『そうだな。レイの親友殿には、とりあえず出世してもらうほかこの事態の解決方法はないな。せいぜい頑張ってもらうとしよう』
『そうですねそれが一番の解決方法ですね』
ブルーの使いのシルフの言葉に、ルチルの使いのシルフも同意するように何度も頷く。
『出世するのは大賛成だけど戦いは嫌だな』
『彼には合成魔法をもっと頑張って研究してもらうのが一番かな?』
『そうだな。それがいいと思うぞ』
クロサイトの使いのシルフの呟きに、ブルーの使いのシルフも真顔になって大きく頷いたのだった。




