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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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本読みの時間と午後のお茶会

「ううん、いつもながらここでの本読みは至福の時間だね。僕、もうずっとここにいたい」

 読んでいた本に栞を挟んで置いたレイの呟きに、あちこちから笑いと賛同の声が上がる。



 それぞれ陣取り盤を前にして、攻略本を片手に楽しそうに話をしているマイリーとカウリ以外は、今は好きな本を選んで読んでいる。

 若竜三人組は、それぞれ精霊魔法に関する古い本を何冊も取ってきて、机の上に積み上げて時折顔を寄せて話をしながら、マークとキムのように真剣な様子でノートを取っている。

 実は彼らは、三人揃って少し前から精霊魔法訓練所の研究生として精霊魔法に関する勉強を再開しているので、久しぶりの勉強の為に、様々な資料がたくさん必要なのだ。

 なので、これ幸いと今回の本読みの会では、彼らは自分達の勉強のための資料集めを行なっているのだ。

 ティミーは、初めて見る分厚い政治経済に関する本を見つけて持ってきて、大喜びでソファーに座って熟読している。

 レイの呟きに笑顔で頷いていたジャスミンとニーカも、今はそれぞれ精霊魔法に関する本を熟読中だ。

 ヴィゴとルークも、それぞれ精霊魔法に関する古い本を見つけて真剣に読み込んでいて、レイの呟きに笑って頷いたものの、二人揃って本から顔も上げないでいる。



「確かに至福の時間だよなあ。俺、もうここに住みたい」

「俺もここに住みたい。寝るのはこのソファーでいい。これ、兵舎のベッドよりも絶対に寝心地良いと思うぞ」

 笑ったマークとキムがうんうんと頷き合って今座っているソファーの背をそっと撫でる。

「もちろんいいよ! ここからなら本部へ通うのもそれほどかからないよね! じゃあ構わないから自分の部屋を選んでよ!」

 顔を上げたレイの嬉々とした言葉に竜騎士達が揃って吹き出し、マークとキムが慌てたように揃って音がしそうなくらいに首を振る。

「じょ、冗談だって!」

「だからお前は、いつも言っているだろうが! ちょっとした冗談を本気にするなって!」

「ふっふ〜〜ん。そんなの分かってるよ〜〜。わあい、引っかかった。悪戯成功だ〜〜」

 慌てる二人を見て、嬉しそうにそう言って笑ったレイが胸を張ってみせる。

「ま、まさかの、レイルズに引っ掛けられた!」

「まさか、レイルズに引っ掛けられる日が来ようとは!」

 同時に吹き出したマークとキムが、妙に嬉しそうにそう言って笑うのを見て、彼らの会話を聞いていた竜騎士達も、呆れたように笑っていたのだった。

「でもまあ、これはレイルズの成長と言って……いいんだよな?」

「まあ、いいんじゃあないか……多分」

「多分かよ!」

 顔を見合わせたマークとキムの言葉に近くにいたルークが叫び、今度は全員揃っての大笑いになったのだった。



「ああ、一度休憩したいな。ちょっと喉が渇いた」

「確かにちょっと喉が渇いたなあ。ええと、お茶を飲むならいつもの部屋かな?」

 ロベリオとユージンが顔を見合わせてそう言いながら揃って伸びをする。

 隣では、ノートを閉じたタドラもため息を吐いてから首を回している。

「確かにちょっと喉が渇いたね。えっと、お茶の用意ってどうなっていますか?」

 顔を上げたレイが、そう言って控えていた執事のアルベルトに声をかける。

「別室にご用意しております。いかがなさいますか? 皆様もお茶になさいますか?」

 その言葉に、皆笑って本を置いた。

 ジャスミンとニーカも笑顔で頷き合ってから、読んでいた本に栞を挟んでから置いた。

「えっと、じゃあ今読んでいる本はそのままにしておいてください。戻ってきたらまた続きを読みますので」

「かしこまりました」

 書斎担当の執事が笑顔で一礼するのを見て、レイも手にしていた本に栞を挟んでからそっと机の上に置いてから立ち上がった。



「おお、それなりの形式になったお茶会の席だぞ」

 案内された部屋を見たルークが笑いながらそう言い、最後尾にいたマークとキムが揃って情けない悲鳴を上げる。

 書斎へ逃げ戻られそうになったところを慌てたレイが即座に二人を捕まえ、それを見た竜騎士達が揃って小さく吹き出す。

「ほら、いいからから座って。えっと、席はどうすればいいのかな?」

「ここはお前の家なんだから、お前が好きに決めればいいんだよ」

 笑ったルークの言葉に笑顔で頷き、まだ捕まえたままの二人を引っ張って部屋に入る。

「じゃあ、僕の両側にマークとキムに座ってもらいますね。大丈夫だよ。未成年のティミーやジャスミン、ニーカもいるんだからそんな改まった席じゃあないって」

 ギクシャクとした動きで言われた椅子に座るマークとキムを見て、皆苦笑いしつつそれぞれ席に着く。

 全員にカナエ草のお茶が用意され、果物にたっぷりのクリームを盛り付けた一皿がそれぞれの前に置かれる。

 だがそのお皿の真ん中にあるのは卵よりも少し大きな白くて丸い塊で、つるりとした表面にはチョコレートのソースが線状にかけられていてとても綺麗だが、その丸い塊はかなり硬そうに見える。

 レイも初めて見るそれに、思わずカトラリーを持った手が止まる。

「へえ、とっても綺麗ね。でもこれって卵の殻?……ねえ、これってどうやって食べればいいのかしら? ナイフで叩いていいの? それともフォークで割れるのかしら? まさかこのまま食べるなんて事は無いわよね?」

 初めて見るその謎のお菓子に戸惑うニーカが、隣に座るジャスミンに小さな声で素直に助けを求める。

「大丈夫よ。これは硬そうに見えるけど、殻の部分はごく薄い砂糖菓子なの。だから、ナイフかフォークで軽く叩いてみればいいわ。ほら、こんな風にね」

 笑ったジャスミンが、そう言ってナイフの先で丸い塊を軽く叩いた。


 パリン。


 ごく軽い音がして、丸い塊が粉々に割れて中に入っていたお菓子がお皿に転がる。

「ああ、本当に簡単に割れるのね。それで、中に小さな焼き菓子が入っているのね。すごいすごい!」

 嬉しそうにそう言って小さく手を叩いたニーカは、早速自分の分をナイフで叩いて割った。

 同じように簡単に割れて、中から小さく切った焼き菓子が転がり出るのを見て、ニーカが無邪気な歓声を上げ、慌てて口を押さえた。

「今のは、感動の声だから大丈夫です!」

 笑ったレイの言葉に、ニーカも恥ずかしそうにしつつも嬉しそうに頷く。

 それを見ていた皆も、それぞれに丸い塊を割ってからお菓子を食べ始めたのだった。

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