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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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古い陣取り盤の話

「ようこそ〜お待ちしてたよ〜」

 一同を引き連れたレイが書斎へ到着したところで、ソファーに座っていたルークが顔だけで振り返って気の抜けた声でそう言い、笑って軽く手を振って見せる。

「ああ、お待たせだな。それで、今は何をしているんだ?」

 わざとらしくそう言ったマイリーの言葉に、ルークとロベリオ達が揃って吹き出す。

「予想通りですよ。ほら、こっちにも用意してありますので、どうぞ座ってください」

 ルークが示す隣のソファーとその前に置かれた低めのテーブルには、まだ誰も座っていないが陣取り盤が複数並べて用意されている。

「ああ、では遠慮なく」

 嬉しそうにそう言ったマイリーが座り、その隣にはヴィゴが座る。マイリーと陣取り盤を挟んだ向かいにカウリが座り、その向かい側には目を輝かせたニーカとジャスミンが並んで座った。



「おや、これは初めて見る陣取り盤だな。どちらもかなり古い物のようだが、それぞれに素晴らしいな。どこの商会で購入したのか聞いてもいいか?」

 興味津々のマイリーの言葉に頷きつつ、ヴィゴも身を乗り出すようにして置かれた陣取り盤を見ている。

 マイリーの目に置かれている陣取り盤は、やや分厚めの漆黒の木材で作られた盤で上部には銀線でマス目が引かれている。そしてその側面には全面にわたって絡まる蔓草と小花が細かに彫り込まれていて、用意されている駒は全て完璧なまでに透明な水晶で作られている。

 ヴィゴの前に置かれてるのは、側面に彫りこそ無いが年代を経た無垢の木だけが持つ艶やかな飴茶色をしていてとても美しい。盤上のマス目は漆黒の線だ。駒も同じく艶やかな濃い飴茶色をしていて、やや丸みを帯びたその駒は、最近の流行である角張った鋭角な形の駒とは違い、手の小さいニーカやティミーでも扱いやすそうだ。

「えっと、それはどちらも元々ここのお屋敷の倉庫に保管されていた陣取り盤で、このお屋敷を拝領した際に、これも僕の物になったみたいです。ブルーが開かなかった倉庫を調べてくれて、そこで幾つも見つけてくれたんです。そんな物が倉庫にあったなんて、アルベルトも知らなかったみたいです」

 笑顔のレイの説明に驚くマイリー達を見て、姿を現したブルーの使いのシルフが得意そうに胸を張る。

『それらが収められていた倉庫は、百年以上前から扉の鍵が紛失したまま誰も開けられずに放置されていたらしい。一応、昔に書かれたリストがあって、そこには椅子や机、鉱石、陣取り盤などといったように、詳しい仕様の説明は一切無くて品物の名前だけ書かれていたそうだ。なので名目上は管理に入っていたが誰も触れられぬままに置かれていたようだ。それで我がシルフ達に命じて倉庫の中を一通り調べさせたところ、二百年以上昔の陣取り盤が複数保管されている事が分かったのでな。これは放置するのは惜しかろうと思いノーム達に命じて合鍵を作らせたのだよ。だが、鍵そのものが錆びついて固まってしまっていて、開けるのにかなり難儀したらしい。それで先日ようやく倉庫が開いたので中を確認させたのだ。陣取り盤だけではなく、他にも色々とあったそうで、なかなかの収穫だったらしいぞ』

 今のブルーの使いのシルフは、姿も声も部屋中の人に見せているので、ブルーの言葉を聞いて控えていた執事達が困ったようにしつつ小さく頷いていた。

「へえ、古い屋敷ではたまにそういった話を聞くけど、実際にこれが出てきたなんて凄いなあ。うちにも開かない部屋ってあるかな?」

 感心したようなカウリの言葉に、ルークも笑って頷いている。

 ニーカとジャスミンは、揃って目を見開いて目の前に置かれた陣取り盤を見ている。

「えっと、他にもあと六台出てきたんだって聞きました。だけどそっちは、どれも盤の一部にヒビがあったり破損していたり、駒の一部にもひび割れや破損なんかがあったんだって。それでそっちは、骨董品の専門家に依頼して修理が可能かを見てもらっているところだそうです。なのでそっちは僕もまだ見ていません!」

 つい先ほど、これらを出す際にアルベルトから報告を聞いたレイが何故か胸を張ってそう言い、聞いていたマイリー達は顔を見合わせて呆れたように笑っていた。



 陣取り盤は蒐集品としても人気が高く、特に二百年以上前の物は保管状態によってはとんでもない値が付く物もある。少なくとも、ここに置かれた二台は、売れば相当な値が付くのは確実だろうと思われるほどの逸品だ。

 実はマイリーやヴィゴも、それなりの数の陣取り盤を蒐集している。

 彼らの蒐集品の中には二百年以上前の物もあるが、どれ一つとっても決して気軽に買えるような値段ではない。

「まあ、こういう物が古い屋敷の倉庫から出るかどうかは、ほぼ運だと言われているからなあ。どうやら幸運の女神はレイルズがお気に入りのようだな」

 ヴィゴと顔を見合わせてから呆れたようにそう言ったマイリーの言葉に、この陣取り盤の値打ちが分かる者達は揃って苦笑いしていたのだった。

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