嬉しい口約束?
「ようこそ瑠璃の館へ!」
到着した馬車から降りてくるジャスミンとニーカに手を貸し、満面の笑みのレイがそう言って手を広げる。
「厚かましくも、二度も押しかけさせていただきました」
「しかも今夜は、二人とも泊まらせていただきますので、よろしくお願いしますね」
笑顔のジャスミンの言葉に続き、こちらも満面の笑みになったニーカがそう言って一礼する。
スカートを軽く持ち上げてのその優雅な一礼に、一瞬目を見開いたレイはまた満面の笑みになった。
「もちろん大歓迎だよ。二度でも三度でも遠慮なく押しかけてきてね。ああ、失礼しました。外は寒いから、中へどうぞ」
乗っていたラプトルを執事達に預けたマイリー達にも笑顔でそう言ったレイが、彼女達を中へ案内する。
その様子を笑顔で見守っていたマイリー達も、笑顔で頷き合ってその後に続いた。
通常ならばここで一通りの館内の案内をしてから肖像画のところへ案内するのだが、もう彼女達にもマイリー達にも一通りの案内も肖像画のお披露目も済ませているので、それはしない。
「えっと、この場合ってまずはお茶にするの? それとも、このまま書斎へ案内していいのかな?」
張り切って出迎えに出たのはいいがその辺りの段取りを確認していなかった事に今更ながら気づいたレイが、書斎への廊下を歩きながら、慌てたように隣を歩く執事のアルベルトに小さな声でそう尋ねる。
「お嬢様方も竜騎士隊の皆様方も、出発前に昼食をお召し上がりになってからこちらへお越しいただいたと伺っております。ですので、ひとまずこのまま書斎へご案内いたします」
当然、その辺りの段取りは確認済みのアルベルトが、笑顔でそう教えてくれる。
「そうなんだね。僕達も昼食は済ませているもんね。じゃあ、まずは午後のお茶の時間までのんびり本読みの会かな。あ、でもさっき書斎を出る時に、マーク達がルークに陣取り盤の攻略本を見せてもらって話をしていたから、もしかしたらひと勝負しているかも」
「俺を差し置いて、自分達だけで遊ぶとは許し難いなあ」
その言葉を聞いたマイリーがわざとらしくそう言い、ヴィゴとカウリが揃って吹き出す。ニーカとジャスミンも遅れて吹き出した。
「陣取り盤って、難しいけど本当にとても面白いですよね。マイリー様から頂いた攻略本は全部目を通しました。まだまだ実際には上手く打てないけど、あの本を見ているだけでワクワクします」
笑顔でそう言ったニーカの言葉に、レイだけでなく言われたマイリーも驚いたように目を見開く。
「勉強しているとは聞いていたが、あの攻略本全てに、もう目を通した?」
「はい、いろんな攻め方があって、それと同じだけ守り方がある。同じ展開でも手持ちの駒があと一つあるか無いかでその後の展開が全く違ってくるんだから、攻略本頼りで考えていると思わぬところでしっぺ返しをもらってしまいますよね。ジャスミンは陣取り盤にはあまり興味がないみたいだから、普段の勉強の時にはスマイリーやラピスの寄越してくれたシルフ達に相手をしてもらうんです。だけど、分かっていてもなかなか上手く陣が展開出来なくて、いつも最後は追い詰められて負けてしまうんです。悔しくて悔しくて、お願いして終わってからもう一度勝負を再現して貰って、今度は攻略本を片手にまた攻め直したりして勉強しています」
駒を動かす振りをしながらのニーカの言葉に、聞いていたマイリーがこれ以上ないくらいの笑顔になる。
「ニーカ、冗談抜きで戦略室の会に仮入部しないか? ニーカはティミーとは違ってまだまだ磨く前の原石ではあるが、間違いなくこれは得難い人材だ」
その言葉に、隣で聞いていたヴィゴとカウリも笑って拍手をしている。
「ええ、戦略室の会って、すっごく上手な方々ばかりがおられるところだってレイルズから聞きました。私なんかでは全然相手にもならないと思いますけれど?」
「その為に仮入部ってものがあるんだよ。まあ、急ぎはしないがせめて口約束だけでも、どうだ?」
「そうですね。光栄です。では、せっかくのお誘いですから入部を目標にさせていただきます」
実際の、戦略室の会にいる顔ぶれを知らないからこその言葉ではあるのだが、それを聞いたマイリーは満足そうに頷いた。
「よし、言質を取ったぞ!」
拳を握りながらのこれ以上ないくらいの嬉しそうなその言葉にジャスミンとレイは驚きに言葉もなく目を見開いていたし、ヴィゴとカウリは揃って大笑いしていたのだった。




