朝のひと時
翌朝、普段よりもかなりゆっくりの時間になってようやく目を覚ました三人は、またしても複雑怪奇に絡まり合ったレイの髪を見て大爆笑になり、レイほどではなかったものの、こちらもかなり豪快に遊ばれたマークとキムの髪を見てもう一回大爆笑になったのだった。
「あ、朝から……俺達の、腹筋を鍛えるのは、やめてくれって……」
「だよな。は、腹が痛いって……」
ベッドに転がって大爆笑しているマークとキムの横で、レイも枕に突っ伏して大笑いしている。
「ちょっとは遠慮しようとか、今日はお休みにしようとかはないの? 僕達だって、昨夜は枕戦争をお休みにしたのに!」
『そんなの無理無理〜〜』
『絶対無理〜〜』
『我慢なんてできませ〜〜ん』
『遠慮ってなあに』
『なんだろうね?』
『なんだろうね?』
枕から顔を上げたレイの抗議の叫びに、呼びもしないのに集まってきていたシルフ達が一斉にそう言って首を振りながら笑う。
「無理って言われた〜〜〜!」
もう一度枕に突っ伏したレイの叫びに、またマークとキムの二人が揃って吹き出す。
「と、とりあえず……洗面所へ行こう……この頭を、なんとか、しないと……食事も出来ないって……」
笑い過ぎ出てた涙を拭いながらのマークの提案に、同じく笑いながら頷いたキムとレイも、なんとか起きてベッドから降りる。
「おはようございます。おやおや。今朝も相変わらずの大変な頭になっていますね」
軽いノックの音と共に、ラスティが執事のアルベルト達を引き連れて入ってくる。
「おはようございます。って、もうそれを言うような時間じゃあないね。えっと、まずは髪を解すのを手伝ってください!」
一番豪快な頭のレイがそう言って笑うのを見て、困ったように揃って頷くアルベルト達だった。
「はあ、おかげでなんとかなりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
なんとか元の頭に戻ったマークとキムが、部屋に戻りながら執事達にお礼を言う。
「いえいえ、シルフの皆様がお手伝いくださいましたので、我らは然程の事はしておりません」
笑顔の執事の言葉に、それでももう一度笑ってお礼を言う二人だった。
「元に戻りました〜〜!」
二人が部屋に戻って着替えを終えた頃、ようやく元の髪に戻ったレイも部屋に戻ってきて急いで着替えを済ませた。
「お食事は、いつもの別室にご用意しておりますのでどうぞ」
笑顔のラスティの言葉に頷き、いそいそと案内されて食事の為の部屋に向かう。
「ああ、よかった〜〜」
「自由に食べられる食事だ!」
部屋の奥の壁際に並べられたさまざまな料理を見て、マークとキムが喜びの叫びを上げている。
「もう、二人とも喜びすぎだよ。じゃあ、いただこうか」
笑ったレイに背中を叩かれ、揃って吹き出しつつお皿を手に料理を取りに行く二人だった。
「あ、おはようございます」
三人が山盛りの料理をほぼ平らげた頃に、執事の案内でティミーが部屋にやってきた。
「おはよう。僕らは今から食後のお茶で〜す」
笑ったレイが嬉しそうにそう言って手を振る。
「おはようございます!」
顔を上げたマークとキムは、慌てたように立ち上がってそう言って直立した。
「おはようございます。僕もいただきますので、どうぞ楽にしてください」
笑ったティミーが二人にそう言って軽く一礼してから、自分の分の料理を選びに行った。
改めて一礼してから座った二人に、レイは苦笑いしている。
「えっと、以前も言ったけど、基本的にここは精霊魔法訓練所と同じと考えてね。竜騎士隊の皆に敬意を払ってくれるのは嬉しいけど、無理のない範囲で普通にしてね」
席に戻ってきたティミーも苦笑いしつつ何度も頷いてくれたので、お礼を言って改めて座り直した二人だった。
「えっと、ルークとロベリオ達はどうしたのかな?」
食後のカナエ草のお茶を飲みながら、レイが小さな声で側にいたラスティにそう尋ねる。
「皆様、かなり遅くまで書斎でお過ごしになられていましたので、お休みになられたのは夜明け前でした。なのでまだぐっすりお休みのようです。午後からニーカ様とジャスミン様がお越しになる予定ですので、その頃までに起きていただければよろしいかと」
苦笑いするラスティの答えに、レイは呆れたように笑って頷く。
「そうなんだね。まあ、皆本読みの会を楽しんでくれているって事でいいのかな。じゃあ、僕らは食事が終わればまた書斎だね」
「そうだな。せっかくだからもう少し本を読みたい」
「いいんじゃあないか。じゃあ午前中はゆっくりと好きな本を読む事にしよう」
「いいですね。じゃあ僕も食べ終わったら書斎へ行きますので。どうぞ先に行っていてください」
まだ食事中のティミーの言葉に、ミニパイを食べていたレイが笑顔で頷く。
「うん、でもこれが美味しいからもう一つ頂こうっと」
笑って追加のお菓子を取りに行くレイを見て、マークとキムは呆れたように笑っている。
「あれだけ食べて横に広がらないんだから、羨ましい限りだよな」
実は油断するとすぐに体重が増えるキムの言葉に、マークも苦笑いして頷いていたのだった。
「僕はもう少し体重が増えて欲しいんだけど、なかなか増えないんですよね。もう少しミルクを飲む量を増やすべきでしょうか。でも、カナエ草のお茶を飲んでいると、一緒には飲めないミルクを別に飲むのって、お腹が一杯になって大変なんですよね」
背が伸びたとは言っても、まだまだ平均よりも身長も低く体重も少ないティミーの悔しそうな呟きに、テーブルの真ん中に置いてくれてあったミルクの瓶を、そっとティミーの前に押しやったマークだった。




