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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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おやすみなさい

「はあ、お疲れ様でした。じゃあ僕は、部屋に戻って休ませていただきますね」

 ルークと陣取り盤でひと勝負終え、ロベリオ達も加わってその勝負をもう一台の陣取り盤で再現しながら検証していたティミーが、小さなため息を一つ吐いてからそう言って立ち上がった。

「確かに眠そうだからな。普段なら、もうベッドで熟睡しているような時間だものな」

 笑ったロベリオがそう言ってティミーの腕を軽く叩き、今までティミーが座っていた椅子に座る。

「って事で、次の勝負を希望しま〜〜す」

「おう、もちろん受けて立つぞ!」

 伸びをしていたルークが、ロベリオの対戦希望に笑って頷き座り直す。

 出遅れたユージンは、慌てたように二人の陣取り盤を横から見える一人用のソファーに座った。

「じゃあ頑張ってくださいね。それでは皆様、おやすみなさい。明日も皆様に精霊王の守りがありますように」

「おやすみ、ティミーにも精霊王の守りがありますように」

「おやすみ、ティミーにも精霊王の守りがありますように」

「おやすみ、ティミーにも精霊王の守りがありますように」

 なんでもない、当たり前に交わすおやすみの挨拶だ。

 ルークとロベリオが、嬉々として駒を並べ始めたのを見て笑いながらそう言ったティミーに、顔を上げた三人が当たり前のようにお決まりの返事を返す。

 嬉しそうなティミーは、こっちを見ているレイ達にも笑顔でそう言って一礼した。

「はあい、おやすみなさい。えっと。ティミーにもブルーやターコイズの守りがありますように」

 マーク達も笑顔で挨拶をするのを見て、笑ったレイもいつものように精霊王ではなくブルーと、それから彼の伴侶の竜であるターコイズの守りを願って挨拶を返した。

 一瞬、驚いたように目を見開いたティミーだったが、嬉しそうに笑って頷き、すぐ側にいた愛しい竜の使いのシルフを手を伸ばしてそっと撫でた。

 嬉しそうに目を細めたターコイズの使いのシルフは、ふわりと飛んでティミーの右肩に座ってその柔らかな頬にそっとキスを贈った。

 ブルーの使いのシルフはそんな彼らを見て満足そうに笑って頷き、レイの真っ赤な髪にこっそりキスを贈ったのだった。



 執事に付き添われて部屋に戻るティミーの後ろ姿を見送ってから、レイは一つため息を吐いてから読みかけていた本に目を落とした。

 それを見たマークとキムも、揃って頷き合ってからそれぞれよ見かけていた本読みを再開した。

 そのままそれぞれ好きに過ごし、深夜を少し過ぎたところでレイが大きな欠伸をして読んでいた本から顔を上げた。

「ううん、そろそろ眠くなってきたや」

 もう一回大きな欠伸をしてからそう呟くと、マークとキムも揃って小さく欠伸をした。

「実を言うと、俺もちょっと前から眠くて仕方がなかったんだよな」

「お前もか。俺は、実は途中で隣の行に視線が移ってしまって、意味が分からなくなって読み戻したところだ」

 マークの言葉に苦笑いしたキムがそう言って本を閉じる。

「じゃあ、俺達もそろそろ休ませてもらうか」

「そうだね。えっと、じゃあ僕達も部屋に戻りますね陣取り盤が楽しいのは分かるけど、夜更かしは程々にね」

 タドラも加わって楽しそうに時折話をしながら陣取り盤で対決している四人に、レイが笑ってそう言い、顔を上げた四人が揃って苦笑いしていた。

「おやすみなさい。明日もブルーの守りが皆様にありますように」

「おう、おやすみ。明日も蒼竜様の守りがレイルズにありますように」

 笑顔でそう言ったレイの言葉に当たり前のようにルークがそう返し、笑顔のロベリオ達も同じように返してくれる。

 嬉しそうに笑って手を振り、来てくれたラスティと執事達と一緒に部屋に戻るために立ち上がった。

 マークとキムは、何か言いたげにしつつもルーク達といつも通りに精霊王の守りを願った挨拶をしてレイの後を追って書斎を後にしたのだった。



 部屋に戻った三人は装備を解いて楽な格好になって、まずはレイが先に湯を使うために湯殿へ向かった。

 それを見送った二人は、並べ直されていたソファーの一つに並んで座り、同時に揃って大きなため息を吐いた。

「今夜は、のんびり出来そうだな。あ、でもちゃんとカナエ草のお茶や夜食は用意してくれてある」

 ソファーの横に置かれた大きめのワゴンには、冷えたカナエ草のお茶と一緒に簡易のコンロとヤカンが置かれていて、その横にはやや大きめのポットと一緒にグラスのカップと並んで幾つもの陶器のカップも伏せて置かれている。

 ワゴンの端に並べられた瓶の中には、ビスケットやマドレーヌなど、レイの好きそうな焼き菓子が幾つも入っている。

「あ、やっぱりこれ、マロンパイだ。こんなのベッドで食べたらパイのカケラだらけになっちまうよなあ」

「確かに、これは食べるならちゃんとお皿の上で食べないと、ベッドが大惨事になるぞ」

 冷えたカナエ草のお茶を飲んでから並んだ瓶を見ていたマークが、苦笑いしながら三角の形に整えられたマロンパイを指差す。顔を見合わせて笑った二人は、少し考えて別の瓶からビスケットを一枚ずつ取り出してお皿に置き、

 ポットにカナエ草の茶葉を入れて、簡易コンロでお湯を沸かし始めた。



「お先でした。すっごく温まったよ」

「おう、じゃあ俺達も少しゆっくり温まらせてもらうよ」

「冷えたカナエ草のお茶と、こっちのポットは温かいのも作っておいたよ。お好きな方をどうぞ」

 赤毛に負けないくらいに真っ赤になったレイが湯殿から戻ってきたところで、二人がそう言って湯殿へ向かった。

 驚いたレイがワゴンを見ると、蓋をしたポットの口から小さく湯気が出ている。蓋の上では火蜥蜴が一匹眠そうに丸くなっている。

「じゃあ、温かいのは後でもらう事にして、まずはこっちだね」

 嬉しそうに小さく笑ってグラスを手にしてまずは冷えたカナエ草のお茶を飲む。

「はあ、やっぱり湯上がりには冷えたお茶が美味しいね」

 ポットの蓋の上で眠そうにしている火蜥蜴をそっと撫でてやりながら、もう一杯冷えたカナエ草のお茶を飲んでからベッドに座る。

 誰もいない広い部屋を見回したレイは、小さなため息を吐いてからそのままパタリと仰向けに寝転がった。

『どうしたレイ、大丈夫か?』

 なんだか急に元気がなくなったように見えるレイを心配して、ブルーの使いのシルフが慌てたように顔の横に現れた。

「ブルー、大丈夫だよ。えっと、誰もいないと部屋の広さがよく分かるなあって思っただけ」

 寝転がったままそう言って笑ったレイは、側にあった枕を引き寄せてそれに抱きついた。

『レイ、人はそれを寂しいと言うのだよ。大丈夫だ。レイの側には必ずいつでも我がいる。それに今は、其方の親友達もいるではないか』

 優しいその言葉に一瞬驚いたように目を見開いたレイは、もう一度部屋を見回してから小さく笑った。

「そっか、僕は寂しかったんだね。でもありがとう。ブルーが来てくれたからもう寂しくないよ」

 笑ってそう言ったレイが側にいるブルーの使いのシルフにそっとキスを贈りキスを返してもらう。

 しばらくして湯を使った二人が出てきたところでなんでもないように起き上がって座り直し、そこからはベッドに寝転がって好きにお茶を飲んだりお菓子を食べたりして、思いつくままにいろいろな話をして過ごしたのだった。

 ようやく話し疲れた三人が揃って寝息を立て始めたのは、もうそろそろ東の空が白み始めようとする頃の事だった。

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