友人達の退場
「じゃあ、俺達は一旦帰らせてもらうよ」
「だな。でも講義が終わればまた戻ってくるからさ」
「うん、お仕事ご苦労様。午後からの講義、頑張ってね!」
すっかり寝過ごしてしまったおかげで、大急ぎで早めの昼食兼用となった食事をいただいたマークとキムは、精霊魔法訓練所での講義の為、一旦ここで退場となった。
二人と一緒に外へ出たレイは、ラプトルに乗った二人の姿が見えなくなるまで見送ってから、皆がいる書斎へ向かった。
「お、見送りご苦労様」
「レイルズはどっちに参加するんだ?」
書斎に入ってきたレイに気づいたロベリオとユージンが、振り返って手を振りながらそう尋ねる。
並んだ小さいテーブルには昨日と同じように陣取り盤が並べられていて、ジョシュアはルークと、チャッペリーとフォルカーが二人がかりでティミーと対決している真っ最中だ。
ロベリオとユージンは、戦略室の会が発行した陣取り盤の攻略本を片手に二人で楽しそう陣取り盤を挟んで座っている。盤上の駒の並びを見ると、どうやら何らかの攻め方の確認をしているみたいだ。
タドラや残りの顔ぶれは、それぞれ好きにソファーに座ってのんびりと本を読んでいるみたいだ。
「じゃあ、僕もまずは本を読ませてもらうね。えっと、皆はこのままずっといてくれるの?」
昨日読みかけていた本を抱えて座ったレイの言葉に、読みかけていた本から顔を上げたロルフが笑顔で隣に座ったレイを見て首を振った。
「残念だけど、俺達は今夜には帰らせてもらうよ。一応、それなりに仕事を任されていたりするから、そう何日もは休めないんだよ」
残念そうなロルフの言葉に、友人達が揃って同意するように手を上げる。
レイの友人達は、部署こそ違うが城の事務官として働いていて、今回は、皆それぞれにお休みをもらっての参加なのだ。
「そうなんだね。お仕事ご苦労様」
事務方の彼らが普段どんな仕事をしているのかは、レイは知らない。
でも、お仕事を任されているのならそんなに何日もはお休み出来ないだろう事は分かって、残念だが納得もしたのだった。
そのあとは、読書の合間に陣取り盤も交代で楽しみ、ちょっと改まった午後のお茶会では美味しいお菓子も楽しんだりして過ごした。
日が暮れてしばらくしてから無事に講義を終えたマークとキムが帰ってきて、またそこからはのんびりと本を読んだり陣取り盤を楽しんだりして過ごした。
そして、夕食はまた少しだけ改まった席となり、マークとキムがまたしても情けない悲鳴を上げる羽目になって、皆からこんなのは慣れだと笑って言い聞かされていたのだった。
「それじゃあ、楽しかったよ」
「また機会があれば、呼んでくれよな」
「うん、僕も楽しかったよ。また一緒に遊ぼうね!」
夕食を終え、少し休憩したところでジョシュア達が馬車で帰るのをマーク達と一緒に見送った。
彼らは一旦全員揃ってフレディの屋敷の帰り、そこからそれぞれの屋敷へ帰るのだと聞いた。
ここへ来る前にも一晩フレディの屋敷に皆で止まったと言っていたから、きっとラプトルやそれぞれの家の馬車が彼の屋敷に預けたままになっているのだろう。
「お泊まり会って、貴族の人はよくするのかな?」
馬車が見えなくなるまで見送ってから屋敷に戻り、書斎への廊下を歩きながらレイがふと気がついたようにそう呟く。
「どうなんだろうなあ。でも、あいつらならしょっちゅうやっていそうだ」
「確かに。俺達は兵舎でいつも一緒だから、逆にこういう改まったお泊まり会って憧れるよな」
レイの隣を歩いていたマークとキムが、その言葉に顔を見合わせてそう言って笑う。
「そっか。僕らは本部が家みたいなもんだから、常に共同生活、つまりはいつもお泊まり会みたいなものだもんね」
「確かにそうだな」
「さすがに毎晩枕戦争はしないけどな」
「ええと、ちょっと質問だけど、本部の兵舎でも枕戦争や陣取り合戦をしたりするの?」
不思議そうなレイの質問に、足を止めた二人が同時に吹き出す。
「おう、たまにやるぞ。少人数の時もあれば、ほぼ全員参加の大々的な陣取り合戦になる事もある。だけど、一応そうなるのって、たとえば花祭りの後の慰労会の時とか叙任式や閲兵式の後みたいに、なんらかの理由がある時が多いな」
「確かに。閲兵式や叙任式の後は、やる事が多いな。花祭りの後の慰労会で陣取り合戦に傾れ込むのは、毎回お約束の展開だからなあ」
「いいなあ、楽しそう。そんな大人数での陣取り合戦や枕戦争、僕も参加してみたい!」
笑った二人の説明に、そういった団体行動の経験が皆無なレイは、割と本気で羨ましいと思ってしまうのだった。
「ううん。今のレイルズがあの場に乱入したら……」
「間違いなく全員固まって終わるだろうなあ」
「確かに。いくら大丈夫だって言われても、今のレイルズを枕で殴れる勇者はいないから駄目と思うぞ」
「俺達がマイリー様を枕で殴れないのと一緒だって!」
「ううん、残念! 乱入は駄目だって言われちゃった」
万一にも本当に乱入してこられたら大変なので、二人が慌てたようにそう言って顔の前で手を振る。
密かに乱入してみたいと割と本気で思っていたレイは、枕戦争でマイリーから必死になって逃げ回っていた二人を思い出して納得してしまい、苦笑いしながら頷いたのだった。




