陣取り合戦?
「お先でした。すっごく温まったよ」
赤毛に負けないくらいに頬を真っ赤にした湯上がりのレイが戻ってきて、ちょうどメモを整理し終えたところだったマークとキムが笑顔で振り返った。
「おう、よく温まったのはその頬を見ればわかるよ。確かにちょっと冷えてきたから俺達も少しゆっくり温まらせてもらうよ」
笑ったキムの言葉にレイも笑顔で頷く。
「あ、それって今日取った分のメモだね。どれを手伝えばいい?」
やる気満々なレイの言葉に二人が笑う。
「おう、今回は気持ちだけもらって多くよ。残念ながらもう全部片付いたからさ」
得意そうなマークの言葉に、レイが驚きに目を見開く。
「それじゃあ、俺達も湯を使ってくるよ。まあゆっくりしていてくれ」
笑ったマークがそう言い、二人が湯殿へ入って行った。
広い部屋の中は、昨日の枕戦争の為にソファーや衝立などが大量に準備されていたのがそのままになっていたので、今夜もそれを使うらしい。今は、数名の執事達がソファーを置き直したり衝立を広げたりして準備をしてくれているところだ。
枕戦争の為の準備をしてくれている執事達の邪魔をしないようにベッドに座ったレイは、テーブルの上にひとまとめにして木箱に入れられていたメモをこっそり取り出して読み始めたのだった。
いつもよりも少しゆっくりめに湯を使ったマークとキムが戻ってきて、すっかり準備の整った部屋を見て大喜びになる。
「うん、昨日に引き続き良い感じだ」
ベッドのすぐ横に置かれた大きなソファーの背もたれを叩いたキムの言葉に、レイとマークも笑顔で頷く。
「さて、今夜の枕戦争はどうなるんだろうな」
「まあ、確実に激戦になるだろうな。俺は誰かさんの頭突きを喰らわなければ、もうそれでいいよ」
しみじみとしたキムの呟きにマークも首がもげそうな勢いで何度も頷く。
「別に僕だって、攻撃したくてしているんじゃあないんだからね! それに、今回は僕より強い頭蓋骨の持ち主がいるのを忘れないでよね!」
いっそ開き直ったレイの言葉に顔を見合わせて吹き出した三人は、揃ってベッドに転がり大爆笑になったのだった。
「おお、良い感じだな」
「これなら思いっきり遊べそうだ」
ようやく笑いが収まった三人がベッドに転がったまま寛いでいると、ノックの音がして枕を抱えたジョシュア達が部屋に入ってきた。そして準備万端整った部屋を見回して大喜びしている。
「おお、昨日と同じだ」
「いや、昨夜よりもソファーの数が増えているぞ。これは楽しそうだ」
「本当だ、昨夜よりもソファーの数が増えてるね」
ジョシュア達に続いて、枕を抱えて入ってきた若竜三人組がそう言いながら部屋に入ってくる。その後ろには枕を抱えたルークとティミーの姿もある。
「これで全員集合だね。えっと、じゃあ昨夜と同じようにまずは班分けをしないとね」
起き上がってベッドから立ち上がったレイが、用意されてあった壁面に置かれたワゴンに駆け寄ってマドラーを取りながらそう言ったところでふと手を止めて考えこむ。
「えっと……ジョシュア、チャッペリー、リッティロッドにフレディ、ロルカとフォルカー、僕、マークとキム」
いきなり指を折りながら今いる顔ぶれの名前を読み上げ始める。
「ルーク、ロベリオとユージンとタドラ、ティミー……ねえ、十四人だから班分けの人数が難しいね。どうしますか?」
「確かに。この人数だと、班分けを三つにすると三等分出来ないから人数で不利な班が出るのか。だけど七人で一つの班はちょっと多いかな?」
ルークも部屋を見回しながらそう言って考える。
「別にそれでも良いんじゃあないか? なあ、これだけソファーがあるんだから……いっその事ベッドは安全地帯にしておいて、ソファーを今から全員で移動させてこれで陣地を作って対決するのはどうだ? 昨夜と同じじゃあ面白くないからな」
にんまりと笑ったロベリオがソファーの背もたれを叩きながらそう言って、部屋にいる全員を見回す。
「陣取り合戦か。そりゃあいい。是非やろう!」
笑顔で頷くルークの言葉に、レイ以外の全員が揃って吹きだす。
「ねえ、陣取り合戦ってどうやるの?」
自分だけ陣取り合戦の意味が分かっていないのに気づいたレイが、大喜びしているマークの腕を引いてそう尋ねる。
「お、おう。陣取り合戦は今みたいに大人数になった時にする遊びで、この場合はソファーだけど、それぞれ周りにある物を使ってまず自陣を作るんだ。でもって、守備隊と攻撃隊に分かれて相手陣地を決められた武器で攻撃するんだ。今回の場合はこれとかこれだな。シーツなんかの布類は今回は無しかな? どうします?」
手にしていた枕をレイに見せたマークが、ソファーに並べられていたクッションを指差しながらそう説明して、最後は困ったようにそう言ってルーク達を振り返った。
「使う布はこっちだけにして、今回は、シーツは無しでいこうぜ」
「最初に等分しておけば不公平にならないだろう?」
「ちゃんと分けられるように数えて持ってきました!」
湯を使った後に体を拭く時に使う柔らかくて大きな麻布の束を、洗面所から大量に抱えてきたロベリオとユージン、それからティミーがそう言って笑う。
「まあ、そんな感じで決められた武器を使って相手の守備陣を攻撃して、敵を陣地から追い出して占領した方が勝ちって遊びだよ。攻撃方法はいつもと同じな。素手での攻撃や蹴り、噛みついたり引っ掻くのも無し。分かったか?」
笑ったマークの言葉に、満面の笑みになったレイが大きく頷く。
「すっごくよく分かりました! じゃあそれでいこうね。えっと、じゃあ班分けをするので好きなのを取ってくださ〜〜い!」
人数分の二色のマドラーを取ったレイが笑顔でそう言い、色の部分を隠すように握って差し出す。
それを見た全員が、揃ってマドラーに手を伸ばした。
『なかなか夜が終わらぬな。しかもこの人数で陣取り合戦とは、これまた大騒ぎになるのが目に見えるようだ』
『そうね、楽しみだわ』
『確かに間違いなく大騒ぎになるだろうな』
『我は小柄なティミーがあの者達に押しつぶされぬか心配だよ』
ワゴンに並べられたワインのボトルの上に座ったブルーの使いのシルフの面白がるような言葉に、同じようにワインのボトルの上やピッチャーの縁に座った他の竜の使いのシルフ達もうんうんと頷きながらそう言い、最後のターコイズの使いのシルフの言葉に堪えきれないように揃って吹き出した。
『ターコイズの主殿は確か背が伸びたとは言ってもまだまだ小柄だものね』
『だがとても元気は良いから大丈夫だろうさ』
『昨日も大喜びで枕を振り回して大暴れしていたからな』
若竜三人組の竜達が、楽しそうにそう言いながら笑って頷き合っている。
『ではまずは陣地作りだな。少し手伝ってやるとしようか。あのソファーは動かすのがちと大変そうだからな』
置かれていたソファーの意外な重さに驚くレイ達を見て、笑ったブルーの使いのシルフがそう言ってふわりと飛んで行く。
それを見た他の竜の使いのシルフ達も、嬉々として愛しい主達の元へと飛んで行ったのだった。




