肖像画の製作者の事と本読みの会の終了
「お、戻ってきたな。どうだった?」
揃って書斎へ戻ってきた一同を振り返って見たルークが、笑顔で手を振りながらジョシュア達に尋ねる。
「予想以上でした」
「本当に素晴らしかったです」
ジョシュアだけでなく、皆口々にそう言ってレイの初めての肖像画を褒めるのを聞いて、レイは恥ずかしそうにしつつもとても嬉しそうに笑っていた。
「なあ、ところでちょっと質問していいか? あの肖像画って作者は誰なんだ?」
その時、チャッペリーがレイの肩を叩いて小さな声でそう尋ねてきた。
「うん、画家の方はルークに紹介してもらったんだ。まだ若い方だったよ。えっと、お名前は確か……あ、ケルヴィンさん」
そう答えながら肝心の画家の名前がすぐに出て来なくて困っていると、笑ったニコスのシルフ達が目の前に現れてこっそり教えてくれた。
「若い肖像画家でケルヴィン? ううん、初めて聞く名だな。誰か知ってるか?」
首を傾げるチャッペリーにジョシュアやレイの友人達だけでなく、話を聞いていたルーク以外の竜騎士達も顔を見合わせて、全員が揃って首を振っている。
「実を言うと俺も、あの肖像画の制作者って誰なのかなって思っていたんだよな。へえ、あれってルークの紹介した画家だったんだ。まだ若いって事はもしかして新人? 今までは誰かの助手をしていたのか?」
不思議そうなロベリオの質問に、ルークが首を振る。
「特に誰かに師事していたわけじゃあないんだけど、まあそれなりに幾つかの工房には出入りしていたよ。実を言うとあれを描いてくれたケルヴィンって、ハイランド出身の子なんだ。俺の支援している技術支援学校では少し前から絵の具や画材の製作も始めているんだ。そうなると、当然絵を描くのが好きな子も現れてくる。それでせっかくだから、知り合いを通じて紹介してもらった何人かの画家の方にお願いして、工房の見習いや助手兼下働きみたいな感じで時々面倒を見てもらっているんだ。彼は、その中でも一番優秀な子でね。今回のレイルズの肖像画の件で俺の知り合いの画家に相談したら、彼なら大丈夫だろうからやらせてみればって言ってもらえたんだ。もちろん本人もすごくやる気になっていたからレイルズに紹介したんだ。いやあ、予想以上の素晴らしい作品を描いてくれたよ。両公爵閣下にもお褒めいただいて、あれは誰が描いたんだって聞かれたから、彼を紹介しておいたよ」
にんまりと笑ったルークの言葉に、ロベリオ達が感心したように笑って拍手をする。
「じゃあ、彼の将来は安泰だな。へえ、次の肖像画を描いてもらう時には候補に上げてもいいかも」
「そうしてもらえれば有り難いけど、お前らなら家の方でお抱えの絵師とかがいるんじゃあないのか?」
「いや、家で面倒を見ている画家は何人かいるけど、俺は特に誰に描いてもらうって決めていないから問題無いよ」
「そうなんだ。じゃあ、是非よろしくって言っておくよ」
笑ったロベリオの言葉に、ルークも嬉しそうに笑って頷いていたのだった。
「いやあ、俺達には全く知らない世界だなあ」
「だよな。自分の肖像画なんて、絶対に縁のない世界だよな」
完全に観客気分で話を聞いていたマークとキムの会話に、レイが満面の笑みで振り返る。
「じゃあ、せっかくだから二人も肖像画を描いて貰えば? 僕が依頼して描いてもらう形にすれば……もがあ!」
二人の肖像画を依頼すると言ったレイの口を、慌てたマークとキムが二人がかりで力一杯塞ぐ。
左右からしがみつくみたいにして自分達よりも背の高いレイの口を塞ぐ二人を見て、彼ら以外の全員が揃って吹き出し大爆笑になったのだった。
そのあと、また好きに本を読む時間を取りしばらくはのんびりとした時間が過ぎていった。
「はあ、もうそろそろいい時間じゃないか?」
少し前からティミーが何度か欠伸を噛み殺しているのを見て、本を置いたルークがそう言いながら腕を上げて伸びをする。
「少し前に十一点鐘の鐘が鳴っていたからね。普段ならティミーはもう熟睡している時間だな」
同じく本を置いて伸びをしたロベリオがそう言い、ティミーはも恥ずかしそうに笑って本を置いた。
「確かにちょっと眠くなってきましたね。でも、今すぐに眠りたいってほどではないです。ええと、今夜は普通に休むんですか?」
ジョシュア達の方をチラリと見たティミーが、笑ってロベリオにそう質問する。
「もちろん、やるよな?」
にんまりと笑ったロベリオが、何かを持って振り回すふりをする。
「もちろん喜んで参加させていただきますよ!」
同じく何かを持って振り回すふりをしたジョシュアの答えに、友人達が揃って吹きだす。
「じゃあ、本日の本読みの会はひとまずここで終了にしよう。一旦解散して部屋で湯を使って温まったら、レイルズの部屋に枕を持って集合だな」
これまたにんまりと笑ったルークの言葉にあちこちからもう一度吹き出す音が聞こえて、部屋は笑いと拍手に包まれたのだった。




