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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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午前中の予定

「はあ、ごちそうさまでした。えっと、今日はジョシュア達が来てくれんだよね。時間はどうなっているんですか?」

 いつもと同じようにしっかりと食事を終えたレイは、側に控えてくれていたラスティに小さな声でそう尋ねた。

「はい、ご学友の皆様方がお越しになるのは午後からと伺っております。皆様、お誘い合わせの上ご一緒にお越しになるとの事です」

「そうなんだね。えっとじゃあ午前中はのんびり本読みでいいのかな?」

「それでいいんじゃあないか。なんなら、せっかくのこの顔ぶれだから陣取り盤で遊んでくれても構わないぞ」

 笑ったルークの言葉に、マイリーとアルジェント卿が嬉しそうに頷いている。

「俺とアルは、昼食をいただいたら一旦帰らせてもらうよ。なので、陣取り盤を出すなら午前中で頼むよ」

「そうなんですね。えっと、じゃあこのまま書斎へ行って本を読みたい人がいればそうしてもらって、小さい方のテーブルには、好きに対決してもらえるように陣取り盤を出しましょう!」

 満面の笑みのレイの言葉に、控えていた執事が即座に反応して、一礼して陣取り盤の準備をする為に静かに音も無く部屋を出て行った。

「いいねえ。だけどそんな事をしたら、全員見学に集まるに決まってるって」

「だな。せっかくだからマイリーとティミーの対決は是非とも見たい」

 笑ったロベリオとユージンの言葉に、ルーク達も笑顔で拍手をしている。まだまだ陣取り盤初心者のマークとキムも、見学する気満々で目を輝かせて頷いていた。

「いやいや、マイリーとはいつでも対決出来るだろうが。ティミー、是非とも私と手合わせを願いたい」

「はい! よろしくお願いします! 僕もアルジェント卿と手合わせしたいと思っていました!」

 慌てたようなアルジェント卿の言葉に、満面の笑みになったティミーが大きく頷いて一礼する。

「じゃあ、予定が決まったところで書斎へ移動だね」

 笑顔で立ち上がったレイの言葉に続き、全員が立ち上がって書斎へ移動となった。




「おお、また陣取り盤が増えているな。へえ、どれもなかなかに良さそうな盤じゃあないか」

 食事を終えた彼らが書斎へ戻ると、執事達が用意した陣取り盤が全部で六台書斎のテーブルの上に並べられていて、それを見たマイリーが嬉しそうに一番手前の盤の前に座った。

 それを見てマイリーの隣にアルジェント卿が座り、笑顔で一礼したティミーがアルジェント卿の向かい側に陣取り盤を挟んで座った。

「本当ですね。まだ新しい物のようですが、とても綺麗だ」

 ティミーもそう言って、専用の木箱にまだ収められたままの駒をそっと撫でた。美しい輝きを放つ黒と白の鉱石で作られたその駒は、ひんやりと冷たい。

「えっと、それは今回新しくポリティス商会から購入した陣取り盤だよ。どれも、とても綺麗だよね」

 嬉しそうなレイの言葉に、駒を取り出して並べ始めたティミーも笑顔で頷く。

「蒐集という意味では、それほど価値のあるものは扱っていないが、普段使いにするのならポリティス商会が扱っている陣取り盤はおすすめだな」

 笑ったマイリーの言葉に、見学する気満々でマイリーの側にいたマークとキムが不思議そうに顔を見合わせる。

「蒐集? 何を集めるんだ?」

「さあ、駒の予備、とか?」

 小さな声だったが、残念ながら部屋にいた全員の耳に届いていて、笑顔で注目されているのに気付いた二人が慌てたように直立する。

「いいから楽にしなさい。まあ、其方達ならば知らなくて当然だな。陣取り盤には、こういった普段使いの物以外に、蒐集、つまりコレクションとしての意味を持つ物も多くある」

 笑ったアルジェント卿の説明に、マークとキムが驚いたようにテーブルに並ぶ陣取り盤を見る。

「蒐集家向けに作られた物は、例えば盤の側面に細かな彫刻が彫られていたり、希少価値のある鉱石や宝石で作られた駒などがある。古い物の中にはとんでもない値がつくものもあるぞ。其方達も、機会があれば見せてもらうといい。どれも本当に美しいぞ」

「無知な我々にお教えいただき、ありがとうございます」

 笑ったアルジェント卿の説明に、マークとキムが納得したように頷き、真剣な様子でお礼を言って深々と頭を下げた。

 その会話を聞いたレイとティミーが、顔を見合わせて苦笑いしている。

 二人が思い出しているのは、アルジェント卿の屋敷の離れにあった、あの、精霊が宿る陣取り盤だ。

「あれ以来、何度かあの盤を使っているがまだ一度も出てきていないぞ。恐らくだが、古竜との再戦に向けて必死で研究をしているのだろうさ」

 レイとティミーを横目で見たアルジェント卿が、苦笑いしながらそう教えてくれる。

「そうか。今なら私も古竜と対決出来るな。では、ティミーとの対決が終わってから、次の手合わせを希望しても良いか?」

 アルジェント卿が、良い事を思いついたと言わんばかりに小さく手を打って、レイの右肩に座っているブルーの使いのシルフを見た。

『もちろん、ご指名とあらばいつでも相手をしよう』

 ブルーの使いのシルフがそう言い、苦笑いしてため息を吐いた。

『では、期待されているようだから、また時間を作ってあの離れに行かねばならぬな』

「そうだな。では、彼女の準備が整ったら知らせるので、是非来てくだされ。その際には横で見学させてもらうとしよう」

「アル、その時には絶対に俺も呼んでください」

「俺も! 絶対呼んでください!」

 マイリーとルークが、慌てたようにそう言って軽く右手をあげる。

「彼女って誰?」

 マークとキムが首を傾げながらレイにこっそり質問して、レイとティミーが二人がかりで嬉々としてあの陣取り盤に宿る精霊の説明をしていた。

「へえ、古い物には時に精霊が宿る事があるって話は聞いた事があるけど、陣取り盤にも精霊がいるんだ。本の精霊くらいだと思っていた」

「だな。まあ俺達には縁のない話だよ」

「ええ、そこは二人も彼女と直接対決出来るくらいの腕を目指してよ」

 完全に見学者気分の二人の会話に、横からレイがそう言って笑う。

「無茶言うなって。人には出来る事と出来ない事があるんだぞ」

「とりあえず俺達は、今回は勉強だと思って見学させていただくよ」

「だな、お邪魔しないように見学させていただきますのでよろしくお願いします!」

 揃って頭を下げる二人の言葉に、皆笑顔で頷いていたのだった。



『まあ、あの二人が彼女と対決出来るかは、今後の彼らの努力次第だな』

 面白がるようなブルーの使いのシルフの呟きに、ニコスのシルフ達も笑って頷いている。

『主様はご存知ないみたいだけど』

『この屋敷にも蒐集目的で集められた古い陣取り盤がいくつもあるよ』

『箱に入れて倉庫に置かれたままだけどね』

『ほう、そうなのか。では、それは後ほど確認しておかねばな。古い物には、時に良くないものが憑く事もある』

 やや警戒ののったブルーの使いのシルフの言葉に、ニコスのシルフ達が揃って笑って首を振る。

『それは大丈夫』

『もう我らが確認した』

『あれはどれもなかなかに良き物』

『そうか。ご苦労。ならば、心配はいらぬな』

 安堵したように笑ったブルーの使いのシルフは、早速始まったアルジェント卿とティミーの対決をレイの肩の上から覗き込んだのだった。

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