夕食会とその後の事
「うああ、せっかくのご馳走なのに、緊張し過ぎて味が全然分からななかったよ〜〜」
「俺は、何を食べたかすら、すでに記憶が曖昧だよ」
デザートの果物が出てきたところで、大きなため息を吐いたマークとキムが揃って情けない声でそう言って顔を覆った。
「大丈夫だよ。二人ともちゃんと出来ていたって」
そんな二人を見て必死になって慰めるレイ。竜騎士隊の皆は苦笑いしているし、ジャスミンとニーカはそんな二人を見て呆れ顔だ。
「ニーカはちゃんと出来ていたね」
笑ったタドラの言葉に、嬉しそうに笑ったニーカは小さく首を振った。
「ありがとうございます。主催者がレイルズだし、丸いテーブルだから少しくらいは間違っても大丈夫かなって考えたんです。そうしたら、肩の力が抜けて何だか思ったよりも上手く出来たみたいです。でも、実は何度か間違えかけてジャスミンにこっそり教えてもらいました」
最後は恥ずかしそうにそう言って、ジャスミンをチラリと見てから肩をすくめた。ジャスミンは、そんなニーカを見て嬉しそうに笑っている。
「うん、最初はそれでいいよ。こんなのは慣れだからね。今のうちに色々間違って、それからちゃんと覚えればいいんだからさ」
「そうだろうな。小さな頃から当たり前にこれらを教わってきた貴族出身の俺達と、それなりの年齢になってから一から覚えた人達の間では、そりゃあ苦労の度合いも違うだろうからな」
「様々な決まり事を覚えるだけでも大変だろうからね」
ロベリオとユージンも、タドラの言葉に続きうんうんと頷きながらそう言い、果物を食べながらまたため息を吐いているマークとキムを見た。
「まあ、あっちの二人は、ニーカとは違って自分達が公式の場に出るような事はないと思っているから、マナーや礼儀作法を学んでいても真剣さの度合いが違うんだろうな。それにしても、レイルズと同じであの二人も自己評価が低すぎるよな」
苦笑いするルークの呟きに、竜騎士達も揃って苦笑いしていたのだった。
皇王様から直々に公式の場でお褒めの言葉を賜ったマークとキムの事は、軍内部だけでなく貴族達の間でも密かな注目の的になっている。
また、マークが今回提出した精霊魔法の合成に関する二つの論文は、すでに写しが皇王様にも届けられている程なのだ。
間違いなくこれから先、彼らは望む望まないに関わらずもっと出世していくだろう。
将来、立派な竜騎士となったレイルズの隣に頼れる親友として立つ彼らを思って、揃って笑顔になる大人組だった。
「それでは、名残惜しいが今日のところは私達は戻らせてもらうよ」
「ああ、是非また寄せてもらおう」
「また来るからな〜〜」
食事の後、少し休んでからアルス皇子とヴィゴ、それからカウリが護衛の者達と共に本部へ帰ると言って揃って立ち上がった。
本人は残念がっていたが、アルス皇子がそもそも緊急事以外で外泊するような事は、余程の事情がある時以外にはほぼ無い。皇族の安全を考えれば、それは当然の配慮だ。
今回一緒に帰るヴィゴとカウリは特に何か用事があるわけではなく、実はアルス皇子を一人で帰らせない為の付き添い役なのだ。
これに関しては、大人組の間でこっそりクジで誰が一緒に帰るかを決めていたのだが、レイルズ達はそれを知らない。
それを見てジャスミンとニーカも立ち上がる。今日のところは彼女達も一旦本部へ戻るのでここでお別れだ。
「はい、月末まで開催していますので、またいつでもお越しください」
見送りに出た一同と、笑顔のレイの言葉に大人達とジャスミンとニーカも笑顔で手を振りかえし、夜の遅い時間になった事もあって用意されたそれぞれの馬車に乗って本部に戻って行ったのだった。
「さて、それじゃあもう少し本を読ませてもらうとするか」
遠ざかる馬車を見送ったルークがそう言い、笑顔で頷き合ったレイ達は全員揃って書斎へ戻り、読みかけていた本を読んだり、陣取り盤を取り出したりと、深夜になるまでそれぞれ好きに過ごしたのだった。
「はあ、時間が過ぎるのが本当に早いですね」
マイリーと陣取り盤でひと勝負したティミーが、小さなため息を吐いてからゆっくりと首を回した。
今回は、途中で攻め方を間違えてしまい守りの陣が崩壊したティミーが降参して、そこでひとまず投了となった。
「そうだな。好きな事をしている時は本当に時間が過ぎるのが早いよ」
笑ったマイリーの言葉に、あちこちから同意の声が上がる。
「そろそろティミーは眠くなってきたかな?」
隣で二人の対決を見ていたルークの言葉に、ティミーは笑って首を振った。
「確かに、普段ならもうベッドに入って熟睡している時間ですが、まだまだ眠くはならないです。あ、でも枕戦争をするなら僕も参加したいです!」
満面の笑みのティミーの言葉に、ロベリオ達が揃って吹き出す。
「いいねえ。じゃあ本読みは一旦お休みにして、お泊まりのお楽しみ、枕戦争の開戦かな?」
「はい! それがいいと思います!」
満面の笑みのレイの言葉に笑いと共に拍手が起こり、ひとまずそれぞれの部屋に戻って行った。
『おやおや、まだ夜は終わらないようだな』
積み上がった本の上に座っていたブルーの使いのシルフの呟きに、同じくあちこちに分かれて座っていたそれぞれの竜の使いのシルフ達も楽しそうに笑いながらうんうんと頷き合って、急いでそれぞれの主のあとを追いかけて行ったのだった。




