書斎での時間と夕食会
「はあ、時間を気にせず好きなだけ本が読めるって最高だな」
ため息を吐いたマークの呟きに、読んでいた本から顔を上げたキムも笑顔で頷く。
今の書斎は、彼ら以外はレイとジャスミンとニーカしかいないので、二人もすっかり寛いでいる。
「確かにそうね。あ、ここにディアがいれば、精霊魔法訓練所の自習室と同じ顔ぶれね」
笑ったニーカの言葉に本を置いたジャスミンも笑顔になる。
「確かにそうね。そう言えば、しばらくディアに会えていないわね。本部の祭壇のお掃除には来てくれているのよね?」
「そのはずよ。でも、確かにしばらく顔を見ていないわね。じゃあ夜にでも一度シルフを飛ばしてみようっと」
ジャスミンの呟きにニーカも少し考えてからそう答えて、小さく笑って側にいたクロサイトの使いのシルフを見た。
『そうだね』
『今の巫女様は神殿の大事なお勤めの最中だからね』
『連絡するなら夜の方がいいね』
「じゃあそうするわね。ううん、分かってはいたけど、やっぱり思った時にすぐにディアに会えないのは寂しいわ」
うんうんと頷くクロサイトの使いのシルフの言葉に、ニーカも頷いてから小さなため息を吐いた。
「確かにそうね。ああ、そう言えばタドラ様から聞いたんだけど、ニーカがこっちへ引っ越したあと、女神の別館に移動になったペリエルがディアと同室になったんですって。ほら、彼女は光の精霊が見えるでしょう? それでディアが以前のニーカみたいに普段から彼女と一緒にお勤めをして、その際に光の精霊魔法について色々教えたりしているんですって。仲良くしているみたいよ。ペリエルも一人っ子だったから、お姉さんが出来たみたいで嬉しいんだって」
笑ったジャスミンがそう言ってレイ達を見る。
「へえ、そのペリエルって、降誕祭の時に黒い精霊を見たっていう子だよな」
「そっか、あの子がクラウディアと同室になったんだ。それならニーカがいなくなっても彼女も寂しくないだろうな」
感心したようなマークとキムの呟きに、レイも同じく感心したように何度も頷いていたのだった。
その後、お茶を飲みに行っていた竜騎士達が全員戻ってきて本読みが再開され、唐突に討論会が始まったりもしていた。
マイリーは、ティミーと一緒に陣取り盤の攻略本を片手に顔を寄せながら話をしては、楽しそうに目の前に用意した陣取り盤の駒を動かしたりもしていた。
しばらくはそんな風に静かで穏やかな時間が過ぎてたが、本から顔を上げたルークが一つ深呼吸をしてから腕をあげて大きく伸びをした。
「はあ、ちょっと体が強張っているぞ。ところで、そろそろ夕食の時間じゃあないかな? 腹が減ってきたよ」
そう言って部屋の扉を振り返る。
「ああ、確かにそろそろ腹が減ってきたな」
その声に、分厚い本から顔を上げたマイリーもそう言ってルークの真似をするかのように腕を上げて大きく伸びをした。その声を聞いたレイも、読んでいた本から顔を上げて、笑顔で思いっきり伸びをしたのだった。
その時、軽いノックの音がしてアルベルトが入ってきた。
「失礼致します。夕食の準備が整いましたので、ひとまず読書はお休みいただきますようお願い申し上げます」
そう言って一礼するアルベルトの言葉に、笑ったルークが立ち上がる。
「では、夕食をいただくとしようか」
笑顔で立ち上がったアルス皇子の言葉に、皆それぞれに読んでいた本を置いて立ち上がる。
マイリーにはヴィゴが、アルジェント卿にはレイが手を貸して立ち上がるのを助けていた。
「ほら。お前はあっちだろう!」
にんまりと笑ったキムに背中を押され、ジャスミンの前に行ったマークがやや赤い顔をしつつ彼女に手を貸す。
それを見て満足そうに頷いたキムは、同じくらいに満足そうにその様子を見ていたニーカの手を取り、並んでマーク達の後に続いたのだった。
「うわあ、まさかの夕食会だ!」
「うわあ、本当だ!」
案内された広い部屋は、明らかに一見しただけで格式の高い部屋だと分かる立派な作りで、中央に置かれた大きな丸いテーブルには人数分の椅子が綺麗に並べられている。
そしてテーブルの上に料理は無く、並んでいるのはカトラリーだけ。これは、晩餐会ほどではないが、それなりに形式の整った夕食会だ。
見ただけでその程度は分かるようになったマークとキムの情けない叫び声に、竜騎士達が揃って苦笑いしている。
「大丈夫だって。今回は、僕が皆を招待したって形式の夕食会だね。だけど見て分かる通り、丸いテーブルだからあまり難しく考えずに料理と会話を楽しんでね」
にっこり笑ったレイの言葉に、マークとキムは揃って頷きつつ乾いた笑いをこぼしていたのだった。




