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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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ニーカの成長

「ねえ、これでいい?」

 春の桜のような薄紅色の可愛らしいドレスを着たニーカが駆け寄ってきてジャスミンの前で立ち止まり、くるりと一度回ってみせる。

 やや短めの裾が、それに合わせてふんわりと広がってからゆっくりと戻った。

「うん、いいんじゃない。なかなか可愛く仕上がったわね。ああ、襟元が少し歪んでいるじゃない。ほら、これでいいわ。もう、何をしたらこんなところが歪むのよ」

 笑ったジャスミンが、そう言いながら腕を伸ばしてニーカの少し歪んでいた襟元を整えてやる。

「ああ、ありがとう。ちょっと首元が痒かったから、さっき引っ張って掻いちゃったの。戻したつもりだけど、ちゃんと戻っていなかったのね」

 恥ずかしそうなニーカがそう言って笑う。

「あら、痒いって、どうかした?」

 心配そうに襟元を覗き込むジャスミンに、ニーカは慌てたように首を振った。

「大丈夫よ。ええとね、抜けた髪の毛がこの襟元のところに引っかかっていたみたいなの。スマイリーのシルフが取ってくれたら痒くなくなったわ」

「ああ、そういう事だったのね。たまにあるわよね」

 納得したジャスミンが苦笑いしながらそう言い、二人は並んで階段を降りて行った。



「お待たせしました!」

 並んで休憩室に走り込んで来たジャスミンとニーカを見て、部屋にいた全員が笑顔で振り返る。

「おお、これは可愛い」

 振り返ったアルス皇子の言葉に、皆も笑顔で頷く。

 部屋にはレイ以外の全員が揃っていて、向かい合って座っているマイリーとティミーの間には陣取り盤が置かれていた。

「あ、陣取り盤ですね」

 嬉しそうにそう言ったニーカが、駆け寄ってきて盤上を覗き込む。

「ちょうどひと勝負ついたところだよ。相変わらず、ティミーはいい攻め方をする」

 嬉しそうなマイリーの言葉に、盤上を見たニーカが首を傾げる。

「えっと、これはどう言う状況でこうなったんですか?」

「ああ、これは……」

 嬉々として説明をしようとしたマイリーの腕を、横に座っていたヴィゴが叩く。

「もう出かける時間だからやめておけ。お前が今からこれの解説を始めたら、瑠璃の館に着く頃には日が暮れるぞ」

 真顔のヴィゴにそう言われて、ニーカが堪えきれないように吹き出す。

「確かにそうですね。失礼しました。では、また今度ゆっくり教えてください」

「そうだな。じゃあ行くとするか」

 マイリーも苦笑いしながらそう言い、ソファーの背に手をついてゆっくりと立ちあがろうとした。

 それを見て、即座に横からヴィゴが腕を伸ばしてマイリーを支える。

 それを見たニーカが、邪魔にならないように慌てて下がるのを見てもう一度マイリーが苦笑いした。

「ああ、気を遣わせてすまない。大丈夫だよ。では行くとしようか」

 立ち上がって軽く伸びをして足を伸ばしたマイリーがそう言い、皆も立ち上がって置いてあった剣を装着する。

 そのまま揃って部屋を出ていくのを見て、窓辺に座っていたそれぞれの竜の使いのシルフ達が慌てたようにその後を追いかけていった。



「今日は、皆様も馬車で行くんですね」

 外に出たところで用意されていた数台の馬車を見て、ニーカが驚いたようにそう言ってヴィゴを見上げる。

 隣に立つと、ニーカの身長では首を上に向けて思い切り見上げないとヴィゴが見えない。

「ああ、さすがにこの気温だからな。それに、午後からは少し雨が降りそうだから馬車で行く事にしたのだよ」

 そう言ってヴィゴが空を指差しながら空を見上げる。

 午前中はそれなりに良いお天気だったのだが、見上げた空には確かにどんよりとした灰色の雲が大きく広がっている。

「確かに、すぐにでも雨が降りそう。これは馬車で行くのが正解ですね」

 同じく空を見上げたニーカが納得してそう言い、見えたシルフ達に笑いながら手を振る。

「ニーカ様、どうぞこちらへ」

「はあい、今行きます。ではヴィゴ様、また後ほど」

 馬車の扉を開けた執事にそう言われて、ニーカは笑顔で見上げたヴィゴにそう言ってから優雅に一礼して見せた。

「あ、ああ、では後ほど」

 一瞬驚いたように目を見開いたヴィゴだったが、すぐに笑顔でそう言いニーカとジャスミンが馬車に乗るのに手を貸した。二人に続いてティミーも同じ馬車に乗り込む。

 二人とティミーを乗せた馬車がゆっくりと進むのを見送り、自分もアルス皇子とマイリー、ルークと共に一際大きな馬車に乗り込む。

「今の、見たか?」

 馬車に乗り込んだところで、隣に座ったマイリーに小さな声でそう尋ねる。

「ああ、なかなか様になっていたな。ニーカの新人教育も上手くいっているようで何よりだよ」

 笑ったマイリーの答えに、ヴィゴも大きく頷く。

「ニーカには、本当にいつも驚かされるね。陣取り盤の件にしてもそうだし、竜司祭としてだけでなく、彼女の淑女教育もなかなかの進み具合らしいよ。彼女の教育係のベルナー夫人が、ニーカの覚えの早さに感動しておられたからね」

 アルス皇子の言葉に、三人が揃って満足そうに頷く。

「こうなると、彼女の社交界への顔出しも不可能ではなくなってきましたね」

「そうだな。まだ未確定な部分は多々あるが、ニーカの社交界への顔出しの可能性も充分に出てきたな。いやあ、うちの若い連中は、皆優秀で有り難い事だ」

 ルークの呟きに、マイリーが嬉しそうにそう言って窓の外を見る。

「お前が楽隠居して、一日陣取り盤で遊べる日が来るのもそう遠くないかもな」

 にんまりと笑ったヴィゴの言葉に、不意を突かれたマイリーが堪えきれずに吹き出し、遅れてルークとアルス皇子も揃って吹きだす。

 顔を見合わせた四人は、もう一度揃って吹き出し大笑いになったのだった。

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