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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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精霊の小枝

「ふむ、なかなかに有意義な時間であったな」

「全くだ。我らにも理解出来るようにここまで詳しく説明してもらえるとは思っていなかったので、正直に言うと感激しているよ」

 玄関を出たところでそう言った笑顔のディレント公爵とゲルハルト公爵の言葉に、並んで直立したマークとキムが揃って敬礼する。

「今日はお忙しい中をお越しいただき、本当にありがとうございました。僕もとても楽しかったです。どうぞ、またいつでもお越しください」

 笑顔のレイの言葉に、両公爵も揃って笑顔で頷いた。

「では、我らはこれにて。なかなかに楽しい時間だったよ」

 笑顔でそう言ったディレント公爵は、まだ直立したままのマークとキムを見た。

「二人の、これからのますますの活躍を楽しみにしているよ。ああ、これだけは言っておこう。もしも、貴族絡みで何か問題があれば、いつでも私か彼に相談しなさい。必ず力になってやる」

 笑ってそう言い、胸元から小さな小枝の束を取り出した。

「二人にこれを渡しておこう。これを使えば、私専属の執事にいつでも連絡が取れるからな」

「ああ、同じ事を考えていたな。では、こちらは私の分だ。同じく、これがあれば私直属の執事にいつでも連絡が取れるよ」

 にっこりと笑ったゲルハルト公爵からも同じくらいの小枝の束を渡された受け取ったマークとキムは、二つの小枝の束を見たまま完全に固まってしまった。

「あ、精霊の小枝ですね。これを折れば決められた人と連絡が取れるっていう!」

 横で見ていたレイが嬉しそうにそう言い、満面の笑みで両公爵を見た。

「彼らを気にかけてくださり、ありがとうございます!」

「うむ、将来有望な若者を支援するのも、我らの仕事のうちさ。では、なかなかに楽しい時間だったよ」

 笑ってもう一度そう言ったディレント公爵の横でゲルハルト公爵も同じくらいの笑顔で何度も頷き、二人は待っていた馬車に乗り込んだ。

 アルジェント卿は、このまま夕方までいてくれるとの事なので、マーク達と並んで見送り組だ。

 ゆっくりと走り出した馬車が見えなくなるまで見送り、そのまま急いで屋敷に戻った。



「うう、やっぱり外は寒いね」

 屋敷の中に入ったところで、両手で体を抱きしめるようにして震えたレイが苦笑いしながらそう言い、マーク達と顔を見合わせて頷き合ってからそのまま足早に書斎へ向かう。

 アルジェント卿も笑顔でその後に続いた。

「えっと、午後からは竜騎士隊の皆とティミー、それからジャスミンとニーカが来てくれるんだったよね」

 控えていたラスティに、レイが少し考えてからそう尋ねる。

「はい、皆様お揃いで、もう間も無くお越しになられる予定です。お越しになりましたらお知らせいたしますので、それまでどうぞごゆっくりお寛ぎください」

「そうだね。じゃあさっき読み掛けていた本の続きを読もうっと」

 笑顔のレイの言葉にマークとキムも頷き、それぞれソファーに座って読み掛けていた本を手に取る。

 アルジェント卿は、そんな三人を見てから書斎の本棚を見上げた。

「レイルズ。また少しだが其方達の研究に役立ちそうな古い書物を持ってきた。大した量ではないが、よければ受け取ってくれ」

「ええ、そうなんですね。ありがとうございます!」

 喜ぶレイに、アルジェント卿は笑って頷いてからもう一度本棚を見上げた。

「ふむ。それにしても、これは確かに見ているだけで幸せになれるな。さてと、どれを読ませてもらうとするかな」

 アルジェント卿は嬉しそうにそう言い、ゆっくりと移動階段を上がって精霊魔法に関する本を選び始めた。

「ふむ、なかなか滅多に見ないほどの貴重な本が多数あるな。おお、これはインフィニタスの魔法理論書ではないか。素晴らしい」

 感心したようにそう言い数冊の本を選んだところで、レイが移動階段の下から声をかけた。

「アルジェント卿、僕が本をお持ちします。階段を降りる時は、両手は開けておいてください!」

 そう言ってアルジェント卿が持っていた本を受け取るレイを見て、座っていたマークとキムも慌てて立ち上がりアルジェント卿が階段から降りるのを助けた。

「ああ、わざわざありがとう。すまぬな。年寄りは足元が覚束なくて困る」

 苦笑いしたその言葉に、レイ達三人が同時に首を振る。

「何をおっしゃるんですか。補助具をお付けになっているお身体なんですから、無理はしないでください。これくらいなんでもないです」

 本をテーブルに置いたレイも、慌てたように駆け寄り支えていたマークと交代してアルジェント卿の手を取り、一人用の大きなソファーにゆっくりと座らせた。

 改めて、選んだ本をそのすぐ前のテーブルに置く。

「どうぞそこに座っていてください。追加の本を選びたい時は、おっしゃっていただければ僕が代わりに探して差し上げます」

「ああ、すまんな。では、まずは選んだ本を読ませてもらうとしよう」

 嬉しそうにそう言ったアルジェント卿の言葉にレイも満面の笑みで頷き、一礼してから自分の席へ戻っていった。



 そのまましばらく静かな時間が過ぎる。

 アルジェント卿は、読んでいた本から顔を上げて、少し離れたソファーに並んで座って本に夢中になっているマークとキムを見た。

 二人とレイは気がついていないようだが、先程の両公爵が彼らに渡してくれた精霊の枝には、単に連絡を取るという意味以外に、もう一つ大きな意味がある。

 特に、執事を通じてではなく公爵手ずから相手に精霊の枝を渡した。という事の意味は大きい。

 しかも、今回のように明らかに渡す相手と公爵との身分差が大きい場合、その本人を公爵が公私共に支援し、保護する。という意味があるのだ。

「将来有望な若者達を支援するのも仕事のうち、か。上手い事言いおるわ」

 アルジェント卿は満足そうにそう呟くと、改めて読みかけていた本に視線を落としたのだった。

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