昼食会と合成魔法の説明
「ええ、冗談抜きで俺達まで昼食会に参加なのか?」
「うわあ〜〜しかも正式な場だし!」
「本当だ〜〜テーブルが丸くない!」
「絶対無理だって〜〜!」
満面の笑みのレイルズに、それぞれの腕を掴まれて半ば強制的に連れてこられた部屋を見たマークとキムが揃って情けない悲鳴を上げる。
「大丈夫だって。ほら、ここに座って!」
控えていた執事達が示す席を見て頷いたレイが、もうこれ以上ないくらいの笑顔で二人を席につかせる。
同じく控えていた執事達が両公爵とアルジェント卿を席に案内するのを見てから、レイはアルベルトが控えていた主催者の席に走っていった。
レイが席についたところで、薄紅色のワインがそれぞれの席に置かれたグラスに注がれる。
グラスを手にしたレイが立ち上がるのを見て、全員がグラスを手にする。
「本日はお忙しい中、僕の初めての肖像画のお披露目会にご参加いただきありがとうございます。ささやかですが昼食の場を儲けさせていただきました。この場が楽しい時間となります事を願います」
ここで一旦言葉を切って、レイはそれぞれのグラスを手に自分を見ている全員を順番にゆっくりと見る。
「では、皆様方のご健康と、ますますのご活躍を願って、乾杯!」
「乾杯!」
レイの乾杯の言葉に笑顔の全員の声が重なり、グラスが高々と掲げられる。
大きく頷いたレイが席に着いたのを見て、音もなく動いた執事達がそれぞれの前に綺麗に盛り付けられたお皿を置いていく。
マークとキムは、ワインを一口飲んでから目の前に置かれたお皿を見て揃って小さなため息を吐いていた。
乾杯に用意されたのは、精霊の薔薇と呼ばれる珍しくて貴重なワインなのだが、二人にはそれを味わう余裕はない。
本来、席順で言えばマークとキムは末席のはずなのだが、今回はあくまでもレイの屋敷での食事会なので、主催者の権限で席順が決められる。その為、二人はレイの両横に席をもらっている。
どう考えても分不相応な席だが、両公爵やアルジェント卿の隣に座る事を思えば百万倍いい。
横長の大きなテーブルの片側にレイを真ん中にして二人が座り、テーブルを挟んだ反対側にゲルハルト公爵、ディレント公爵、アルジェント卿の順に座っている。
ある程度の距離があるとはいえ、テーブルを挟んでゲルハルト公爵と向かい合う形になったキムはもう顔色がほぼなくなっているし、同じくアルジェント卿と向かい合う形になったマークも、同じくらいに顔面蒼白になっている。
「だから、大丈夫だって。ちゃんと教えてあげるからさ」
笑ったレイがそう言って向かいに座ったディレント公爵を見る。
「うむ、誰も其方達に完璧な礼儀作法やテーブルマナーを求めてなどおらぬから安心しなさい。それよりも、我らは其方達とゆっくり話がしたかったのだよ。遠慮はいらぬ。この場はあくまでも非公式の場だからな」
しかし、笑顔の公爵にそう言われても、はいそうですかと寛げるわけもない。
レイルズ越しに無言で顔を見合わせた二人は、もう一度密かなため息を吐いてから揃って真剣な顔で頷き合った。
「ご配慮感謝します」
「では、お言葉に甘えてまずは食べさせていただきます」
緊張した二人がそう言って用意されていたカトラリーを手にするのを見て、全員が笑顔で頷き合いまずはそれぞれに食べ始めた。
食べ始めたものの、マークとキムはほとんど食事の味がしないくらいに緊張している。
『大丈夫だよ』
『大丈夫大丈夫』
『はい深呼吸〜〜〜』
『深呼吸深呼吸〜〜』
『吸って〜〜』
『吐く〜〜〜』
『吸って〜〜』
『吐く〜〜〜』
笑顔のシルフ達が集まってきてそんな二人の肩や腕に座り、からかうように笑いながら揃って深呼吸する真似をしている。
「お、おう、ありがとうな」
「うん、大丈夫だよ」
しかし、そんな彼女達の励ましも二人の緊張を解す事は出来なかったらしい。
向かいに座った三人の中で唯一精霊が見えるアルジェント卿は、そんな彼らとシルフ達を見て笑いを堪えるのに苦労していた。
ほぼ味のしない食事が終わりデザートが出てくる頃、ようやく少しだけ緊張の解けたマークは、用意されたカナエ草のお茶を一口飲んでからこっそりと向かいに座る三人を見た。
合成魔法について聞きたいと言ってくれたが、さすがに食事をしながらそんな説明をする余裕は全く無くて、彼らの様子を見て状況を察してくれたレイが主に食事の間はお三方と話をしてくれていたので、彼らはほぼ聞き役に徹していた。
食事前に合成魔法について聞きたいと言ってくれたのは社交辞令かもしれないが、このまま全く何も話さずに終わるのはさすがに失礼だろう。
だが、未だ現役の竜の主であるアルジェント卿はいざ知らず、両公爵閣下の精霊魔法に関する知識がどれほどのものなのかがマーク達には全く分からない。
どうするべきなのか必死に考えたマークは、こっそり隣に座るレイに声を飛ばした。
これは相手を限定した声飛ばしなので、向かいに座る三人には聞こえない。
『なあ、ちょっと質問なんだけどいいか?』
『うん、どうしたの?』
レイが当然のように同じく声を飛ばして応えてくれる。
『合成魔法について聞きたいって言ってくださったけど、両公爵閣下の精霊魔法に関する知識ってどれくらいあるんだ?』
『ああ、そうだね。じゃあちょっと僕が聞いてみるね』
笑顔になったレイがそう言って頷き、両公爵閣下を見る。
「えっと、合成魔法に関する説明をする前に、少し質問させていただいてよろしいでしょうか?」
「おう、いかがした?」
真剣なレイの言葉に、紅茶を飲んでいたディレント公爵が驚いたように顔を上げる。ゲルハルト公爵も、紅茶を置いてレイを見た。
「えっと。アルジェント卿は竜の主ですので、当然精霊魔法に関する知識は充分にお持ちですが、お二人は精霊魔法についてどれくらいご存知ですか?」
その質問に、お二人は顔を見合わせて苦笑いして首を振った。
「正直にいうと、一般的な常識の範囲での知識程度だな。さすがに四大精霊や光の精霊がいる事くらいは知っておるが、具体的な術の知識はほぼ皆無だな」
という事は、ほぼ知らないと思っていいだろう。
納得したマークとキムは頷き合うと、全く精霊魔法に関する知識の無い人達に合成魔法を説明するにはどうしたらいいかを考え、準備していた内容を簡単に説明していった。
四大精霊と光の精霊魔法のそれぞれの相性や、合成する際の成功と失敗の確率。
そして、合成した際に出来る合成魔法にどんなものがあるか。またそれらの安定性について。
ある意味、合成魔法の本当の触り程度の説明だったが、お二人はずっと感心するように何度も頷きながら聞いてくれた。
そして後半は、キムの論文を全て読んでいるアルジェント卿が彼らに具体的な質問をして、それに彼らが答える形式となり、時にはレイも手伝って質問について時に具体的な例も挙げながら説明していった。
『おやおや。いつの間にか二人も公爵達と普通に話をしておるではないか』
窓辺に座って様子を見ていたブルーの使いのシルフが、いつの間にか緊張のとれた二人を見て面白がるようにそう言って笑う。
『そうですね』
『やはり専門分野について話し出すと』
『夢中になりますからねえ』
ニコスのシルフ達も、笑いながらそう言って何度も頷く。
『まあ、緊張が取れたのなら良かったではないか。食事の時は、正直見ていられなかったからなあ』
呆れたように笑うブルーの使いのシルフの言葉に、ニコスのシルフ達も笑いながら頷いていたのだった。




