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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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両公爵とアルジェント卿の到着

「ごちそうさまでした。それじゃあ午前中はまた書斎で本読みの会だね」

「そうだな。じゃあ移動するか」

「そうだな。それじゃあもう少し読ませてもらうとしよう」

 しっかり食事をして、デザートのマロンパイまで平らげたレイがカナエ草のお茶の残りを飲み干してそう言い、頷いてカナエ草のお茶を飲み干したマークとキムも、笑顔でそう言って立ち上がった。

 控えていた執事達にお礼を言った三人は、そのまま書斎へ行って昨日の続きの本をそれぞれ取り出し読み始めた。

 そのまま特に会話もないままそれぞれにのんびりと読書を楽しんでいると、軽いノックの音がして執事のアルベルトが入って来た。

「皆様大変に有意義なお時間を過ごされているようですが、間も無くアルジェント卿とディレント公爵閣下、ゲルハルト公爵閣下がお揃いで到着なさいます。お出迎えはいかがいたしましょうか?」

「はあい、じゃあ行きます」

 読んでいた本に栞を挟んだレイが、嬉しそうにそう言って本をテーブルの上に置いてアルベルトを振り返った。

「じゃあ俺達は、お邪魔しないようにこのままここで本を読ませてもらうよ」

「そうだな。昼食会頑張って」

 自分達が昼食会の人数に入っているわけがないと思っている二人が笑ってそう言うのを見て、レイはこれ以上ないくらいににっこりと笑った。

「ええ、せっかくなんだから当主の僕がお出迎えするのを見ていてよ。今後の参考になるかもしれないよ」

「なんの参考だよ!」

 笑ったマークの言葉に、キムがにんまりと笑う。

「確かにそうだな。じゃあ俺達は後ろで見学しているから、頑張ってお出迎えしてくれよな」

「だから何の参考だって……」

 そこまで言ったマークが唐突に真っ赤になるのを見て、レイとキムが揃って吹き出し三人揃って大笑いになったのだった。



「あれ? 大きな馬車だね。あ、もしかして三人一緒に来られたのかな? お揃いで到着ってそう言う意味だったの?」

 寒い中を外に出たところで、円形交差点を回ってこっちに向かってくるディレント公爵家の紋章の入った馬車に気がついたレイが、嬉しそうにそう言いつつ首を傾げてアルベルトを見る。

「はい、そう伺っております。何でもゲルハルト公爵閣下とアルジェント卿は、昨夜からディレント公爵家のお屋敷にお泊まりになられておられたのだとか」

「そうなんだね。きっとずっと陣取り盤をしていたんだと思うな。三人ともすっごくお強いからね」

 笑ったレイの言葉に、マークとキムは感心したように頷いていた。

「陣取り盤と言えば、本部の俺達の研究室の部屋に届けてもらった練習用の陣取り盤だけど、あれもすっごく綺麗で使うのが勿体無いって話していたんだよ」

「ああそうそう。凄く良いのを贈ってくれてありがとうな。二人でこれも勿体無いって笑っていたんだよ」

「ええ、せっかく練習用にって思って扱いやすそうなのを厳選して贈ったんだから、使ってもらわないと意味がないよ。えっと、以前ルークに教えてもらったんだけど、陣取り盤の駒の扱いなんかも慣れが必要だから、どんどん遠慮なく触って扱い慣れないと駄目なんだって。確かに、駒の持ち方とか置く時に力の入れ具合とかは、加減が分からないから使って慣れるしかないもんね」

 笑ったレイの言葉に、マークとキムが驚いたようにレイを見る。

「へえ、そうなんだ」

「じゃあ勿体無いとか言わずに頑張って使って、駒の扱いも慣れないと駄目なんだな」

 驚くようにそう呟く二人を見て、レイも笑顔で何度も頷くのだった。



 陣取り盤の駒は、基本的には木製が多いが、鉱石や陶器、あるいはガラスなどで出来ている物も多く、重さや手触りも多岐に渡る。

 特にコレクション性の高い陣取り盤はそれを専門に作る細工職人がいるくらいなので、逆に言うと陣取り盤の駒を粗雑に扱ったり勝負に負けた際に八つ当たりしたりすると、その本人の評価が下がる事さえある程なのだ。



「頑張って覚えて強くなってね。あ、じゃあ直接の勝負は無理でも公爵閣下やアルジェント卿に勝負してもらって見学するといいよ。えっと駒の動かし方くらいは覚えたよね?」

「おう、それくらいはさすがにもう覚えたぞ」

「今は、最初の防御の陣の張り方とか、初歩の攻撃方法を勉強中だ」

「奥が深すぎてちょっと怖いくらいだよ」

「二人と勝負が出来る日を楽しみにしているからね」

 満面の笑みのレイにそう言われて、情けない悲鳴をあげた二人だった。



「ようこそ。瑠璃の館へ!」

 到着した馬車から両公爵が降りてくるのを見て、レイは満面の笑みでそう言いお二人の後に続いて降りてきたアルジェント卿に慌てて手を貸した。

 自由に動いておられるとは言え、アルジェント卿もマイリーと同じで補助具をつけておられるのだから手を貸すのは当然の事だ。

「ああ、すまんな。うむ、大丈夫だ」

 地面に降りたところで笑ってそう言いレイの腕を軽く叩いたアルジェント卿は、執事達と並んで控えていたマークとキムをチラリと見た。

「何だ、其方達。ほら、出迎えてくれたのであろう? こっちへ来ぬか」

 呆れたようにそう言って二人に向かって手招きをする。

「おお、マーク軍曹にキム軍曹ではないか。其方達も、もう来ておったのだな」

 嬉しそうに笑ったディレント公爵の言葉に、二人が慌てて直立する。

「二人は、昨日から来てくれているんです」

「ああ、それは楽しかっただろうね。我々も、昨夜は陣取り盤ばかりしていたよ」

 執事の案内で屋敷の中に入りながらも笑ったゲルハルト公爵の言葉に、レイも笑顔で頷く。

「そうなんですね。でも三人なら同時には対戦出来ないですよね?」

「ああ、なので手合わせはくじで決めて、あぶれた人は横で対決を再現しながら一緒に取り組んでいたよ」

「へえ、そんなやり方もあるんですね。でも僕なんて見ていてもそれを完璧に再現するだけの記憶力がありません!」

 苦笑いするレイの言葉に、廊下を歩いていた両公爵とアルジェント卿の足が止まる。

「おやおや、そうなのかい? あれも覚えるのにちょっとしたコツがあるからね。レイルズも対決そのものはかなり出来るようになって来たのだから、次はそういった事も覚えると良い。後で覚え方を教えてあげよう」

 ゲルハルト公爵の言葉に、満面の笑みでお礼を言ったレイだった。

「あ、それから一つ報告です。マークとキムも陣取り盤を始めたんです。せっかくなので、僕も練習用の陣取り盤を贈らせてもらったんです!」

「おお、気に入ってくれたか。贈った陣取り盤が活躍したのだな」

 嬉しそうなディレント公爵の言葉に、マークとキムがまた直立する。

「素晴らしい陣取り盤をお贈りいただき感謝します!」

 二人の言葉に、ディレント公爵は嬉しそうに笑って彼らの腕を軽く叩いた。

「では、それは後の楽しみにおいておこう。まずはここへ来た目的を果たさなくてはな」

「ええ、そのまま陣取り盤に突入してくださっても、全然僕は構わないんですけど〜」

 誤魔化すように笑ったレイの言葉に、その場は笑いに包まれたのだった。

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