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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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レイルズの肖像画とタキスの事

「うわあ……」

「おお、これは予想以上だ……」

 案内されて到着した、広い廊下の壁面に設置された新しいレイの肖像画を前にして、マークとキムはそう言ったきりポカンと口を開けて呆然としたまま肖像画を見上げていた。

 その隣では、改めて襲ってきた羞恥心に真っ赤なったレイが、情けない悲鳴をあげて顔を覆ってその場にしゃがみ込んでいたのだった。



「なあ! すっげえ男前!」

「だな! だな! これは素晴らしい!」

 しばらくして、ようやく我に返ったマークとキムがキラッキラに目を輝かせてそう言って頷き合い、まだしゃがみ込んでいたレイの腕を掴んで無理やり立たせた。

「うう、恥ずかしいから感想は遠慮するよ」

「何言ってるんだ! これは素晴らしいって!」

「だよな! いやあ、これは見事だ。これを見れただけで、今日ここに来た甲斐があるってもんだ」

 満面の笑みで頷き合う二人の言葉にもう一度情けない悲鳴をあげたレイは、両手で顔を覆ってその場から走って逃げ出した。

「「あ、逃げたぞ」」

 呆れたような二人の声が綺麗に重なり、アルベルトは吹き出しそうになるのを執事の面目にかけて必死に我慢していた。

「おいおい、顔を覆ったまま廊下を走るんじゃないって」

「こら、子供みたいな事するんじゃあないって」

 苦笑いした二人が走って追いかけ、大きな柱の影に隠れていたレイを二人がかりで引っ張り出す。

 もう今のレイを相手にしたら、マークとキムの二人がかりでも完全に力負けしているので、引っ張り出すだけでも大仕事だ。

 まあ、この場合は本気ではなくレイも笑いながらの抵抗だったので、なんとか二人がかりで引っ張り出す事に成功したのだった。



「ほら、早く書斎へ行こうって!」

 また肖像画の前に戻る二人を見て、慌てたレイがそう言って二人の袖を引っ張る。

「まあまあ、落ち着けって。なあ、ちょっと質問なんだけどさ。あのレイルズの背後に描かれている小さな肖像画。竜人が二人とドワーフが一人……って事は、あれってもしかして……?」

 その時、肖像画を見上げていたキムがレイの腕を叩きながらそう尋ねた。

「そうだよ。俺も思っていたんだよ。あれって……そうなんだよな?」

 同じく肖像画を見上げたマークも、うんうんと頷きながらそう言ってレイの背中を叩いた。

「そうだよ。僕がお願いして一緒に描いてもらったんだ。僕の大切な家族。一番上がタキス。真ん中がニコスで、一番下のドワーフがギードだよ」

 満面の笑みで答えるレイを見て、もう一度肖像画を見上げる二人。

「って事は……あの一番上におられるのが、エイベル様のお父上……なんだよな?」

 呆然としたキムの呟きの直後、慌てたように二人はその場に(ひざまず)いた。

 そして、両手を握って額に当てると肖像画に向かって深々と頭を下げた。

「えっと……」

 彼らには、折に触れて森の家族の話はしたが、タキスがエイベルの父親だと話した記憶はない。

 跪いたまま動こうとしない彼を見て戸惑うようにそう呟いたレイは、一つため息を吐いてから二人の背中を叩いた。

「ありがとうね。ほら立って」

 促されて立ち上がった二人を見て、レイは苦笑いしながら肖像画を見上げた。

「ねえ、僕、タキスとエイベルについて話した事ってあったっけ?」

 記憶がなくて首を傾げながらそう尋ねると、苦笑いした二人は顔を見合わせてから揃って真顔でレイを見た。

「ファンラーゼンの軍人で、エイベル様を知らない奴はいない。あのお方のおかげで、未知の病だった竜熱症の特効薬が出来たんだからな。そして、お前が蒼竜様と共にオルダムに来てから判明した、その当時のタキス様の事もな。軍内部での講習で、俺達軍人は配属先がどこかに関わらず必ず教えられる。竜熱症が判明するきっかけとなった、幼い竜人の子供であったエイベル様の事。そしてエイベル様のお父上であるあのお方に、当時の人間が何をしたのか……をな」

「ええ? そ、そうなの?」

 予想外の答えに、レイは言葉が出ない。

「今もご存命である事や、全てを知った上で我ら人間をお許しいただけた事も併せて教えられる。だけど、許していただけたと言っても、当時の人間達があのお方にした事自体は無くなるわけじゃあない。これは俺達人間が一生かけて背負わなければならない罪なんだよ」

 真顔の二人の言葉に、レイは泣きそうになりながらも必死になって首を振った。

「そんな悲しい事言わないで! もう誰にも罪なんて無いよ。タキスは言っていた。もう人間への恨みも、恐怖も、そして憎しみも無いって。我らは等しく精霊王の(しもべ)であり、精霊達の友だって!」

 驚くマークとキムに、もう一度レイは大きく首を振ってみせた。

「もう。誰にも恨みは無いって、タキスはエイベルの全てを取り戻したって言っていた。だから、そんな風に考えないで。罪なんて無いんだから」

「いや、そうは言っても……」

 タキスを直接知るレイに真顔でそう言われて途方に暮れたマークとキムは、お互いの顔を見て無言で頷きあった。

「わかった。そう言ってくれてとても嬉しいよ。じゃあ、お言葉に甘えて過度な謝罪はしない。だけど、それでもエイベル様が、竜騎士様や、竜に携わる全ての者達の恩人である事に変わりはないし、そのお父上であるタキス様を俺達が尊敬し敬うのは当たり前だろう? まさかそこまで駄目とか言わないよな?」

「う、うん。それはまあ……多分本人は困ると思うけどね」

 困ったように笑うレイを見て小さく吹き出したマークとキムは、もう一度顔を見合わせてから改めて肖像画を見上げた。

「まあ、そこは我慢していただこう。そうか。タキス様ってあんなお顔をしておられたんだな」

「もっと、ガンディ様みたいにこう……厳ついお方かと思っていたよ」

「あはは、確かにガンディは厳ついね」

 マークの呟きに吹き出したレイが笑いながらそう言い、遅れて吹き出したキムも何度も頷き、三人揃って大笑いになったのだった。

 レイの肖像画の額縁に座ったブルーの使いのシルフとニコスのシルフ達は、手を取り合って縋るようにして大笑いしている彼らをとろけるような優しい眼差しで見つめていたのだった。

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