まずは本来の目的を……
「寒い中をようこそ! 待っていたよ」
満面の笑みで手を振るレイの言葉に、門の少し前でラプトルを止めたマークとキムは慌てたように揃って飛び降りてその場に直立した。
「今回も、本読みの会にお招きいただき、ありがとうございます!」
「お招きいただき、ありがとうございます!」
敬礼してそう言う二人を見て、笑顔のレイも直立して敬礼を返した。
「本読みの会に、ようこそお越しくださいました!」
無言で顔を見合わせてから、三人同時に吹き出しお互いの手を叩き合った。
「うう寒い! ほら、早く中に入ろう!」
しかし、突然吹き込んできた冷たい風に慌てたようにレイがそう言い、二人も笑顔で頷く。
「寒いんだから、ご当主は中で出迎えてくれればいいのに」
「そうだよ。風邪でもひいたらどうするんだって」
「大丈夫だよ。火蜥蜴が温めてくれたからね」
得意そうにそう言って胸元を軽く叩く。
「そうそう、俺達も実を言うと寒くないんだよな」
マークの言葉に、キムも嬉しそうに頷く。
「確かに、二の月のオルダムの街をラプトルに乗っていて寒くなかったのは初めてだよ」
「ええ、何それ?」
オルダムの寒さは思い知っているレイが驚きに目を見開く。
「まあ、詳しくは中で話そう。俺達は大丈夫でも執事さんはそうはいかないだろうからな」
彼らから少し離れて控えているアルベルトを見たキムの言葉に、言われたアルベルトがにっこりと笑って胸元を叩いた。
「私のようなものにまでお気遣いいただき感謝いたします。ですが、実を申しますとレイルズ様のおかげで、私も温かい思いをさせていただいております」
「おお、さすがはレイルズだな。難しいとされる火蜥蜴の扱いも完璧だ」
呆れたようにそう言ったキムの言葉に笑って頷き合い、揃ってまた吹き出した三人は、待っていてくれた別の執事にラプトルを預けて早足で建物の中へ駆け込んで行ったのだった。
案内された広い応接室は、暖炉に火が入れられていてとても暖かい。
「ああ、やっぱり建物の中は暖かいな」
「本当だ。暖かい!」
一歩部屋に入るなり予想以上の豪華な部屋に一瞬戸惑うように足を止めたマークとキムだったが、暖かい風をシルフ達が届けてくれたのに気づいて笑顔でそう言って剣を外した。
それぞれの剣を入り口横に合った剣置き場に立てかけて、執事の案内で椅子に座る。
即座に用意されたカナエ草のお茶と豪華なお菓子の数々を見て嬉しそうに頷き合った三人は、揃ってカップを手にした。
「精霊王に感謝と祝福を」
笑顔のレイの言葉に、マークとキムも満面の笑みでそれに続いたのだった。
「ううん、さすがは甘いもの好きなレイルズ厳選のお菓子だなあ。どれも最高に美味しいよ」
「そうだな。こんな豪華なお菓子、俺達はレイルズと一緒の時くらいしか食べられないもんな」
「だな。本部の食堂のお菓子とは色々と違いすぎる」
「有り難いよな」
顔を見合わせてそう言ったマークとキムは、嬉しそうに自分達を見ているレイに、これまた満面の笑みでカナエ草のお茶の入ったカップを掲げた。
「俺達の大切な親友に乾杯!」
二人の揃ったその言葉に目を見開いたレイは、手にしていたカナエ草のカップを同じように掲げた。
「僕の大切な親友達に乾杯!」
さっきのレイと同じくらいに目を見開いたマークとキムは、お互いの顔を見合って無言になり、唐突に襲ってきた羞恥心に三人揃って真っ赤になったのだった。
「はあ、ごちそうさまでした。いやあ、どれも最高に美味しかったよ」
「そうだな。俺はあの栗のたっぷり入ったタルトが美味しかった」
「俺は、リンゴのパイが美味しかったなあ」
「僕は両方美味しかった!」
「いや、もちろんどれも美味しかったって!」
「だよなあ。甲乙つけ難いってのは、こういうのを言うんだと思うぞ」
「確かに。どれが一番とか絶対に決められない」
真顔で頷き合うマークとキムを見て、レイも嬉しそうに何度も頷いていたのだった。
「じゃあ、そろそろ書斎へ行く? それとも、もう少しここで休憩する?」
カナエ草のお茶を飲み干したレイの言葉に、二人も慌てたように少しだけ残っていたカナエ草のお茶を飲み干した。
「じゃあ、書斎へ行こうか。あそこの本を読みたい」
「そうだな。あ……でも……」
笑顔で頷いたキムの言葉に、マークも同意しかけて不意に口ごもる。
「え? どうかした?」
驚いたレイが、心配そうにマークを見る。
「いや、確かラスティ様から聞いたんだけど、そもそも今回の集まりって……」
「ああ、そうか。確かにそうだなあ。書斎へ行く前に、まずはそっちだよな」
マークがそう言って隣に座るキムを見ると、納得したようにキムもうんうんと頷いてからレイを見た。
「だよなあ。せっかくなんだから、俺達も見たいよ」
「うん、俺も見たい。って事で、まずは今回の会の、本来の目的をお願いします!」
満面の笑みになった二人の答えに、レイは情けない悲鳴をあげて顔を覆った。
「うう、二人は絶対知らないと思っていたのに……」
「そんなはずないだろうが」
「で、何処にあるんだ?」
満面の笑みの二人にそう言われて、レイがもう一度悲鳴をあげる。
「うう、分かったよ。じゃあまずは……えっと、飾ったのって、あの廊下のところでいいんだよね?」
諦めのため息を吐いたレイは、顔を上げて控えていたアルベルトを振り返った。
「はい、すでに設置してありますので、どうぞ、ご一緒にご覧になってください」
これまた満面の笑みのアルベルトの答えに、もう一度情けない悲鳴をあげて顔を覆ったレイだった。
「ふっふ〜ん。楽しみだなあ」
「だよなあ。どんな風なのか、楽しみだよなあ」
アルベルトの案内で三人揃って廊下を歩いている間中、マークとキムに何度もそう言われて、もうレイは耳どころか首元まで見えるところは全部真っ赤になっている。
『そこまで恥ずかしがるような事でもあるまい。見事に仕上がったのだから、皆に見てもらわねばな』
その時、笑ったブルーの使いのシルフが現れてレイの肩に座り、そう言ってそっと真っ赤になった頬を叩いた。
「ブルーまで面白がってる。分かっていても、恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」
いっそ開き直ったその言葉に、マークとキムは揃って吹き出し遠慮なく大笑いしていたのだった。




