火蜥蜴達の働き
『レイ、其方の親友達がそろそろ到着するようだぞ』
書斎に置かれたソファーに座って夢中になって本を読んでいるレイの耳元に現れたブルーの使いのシルフは、そう言って軽くレイの耳たぶを引っ張った。
「はあい、もうそんな時間なんだね。本を読んでいると時間が経つのがあっという間だよ」
読んでいた本に栞を挟んで閉じたレイは、嬉しそうにそう言って腕を大きく伸ばした。
「ちょっと体が強張っているね。肩を回しますよ〜」
小さく笑って、腕を上げて肩を回して解すようにゆっくりと動かす。
『夢中になって、じっとしたまま全く動かずに読んでいたからな。そりゃあ体も強張るだろうさ』
笑ったブルーの使いのシルフにそう言われて、もう一度腕を上げて大きく伸びをしたレイだった。
「よし、じゃあお出迎えに行かないとね」
読みかけていた本をテーブルの上に置いたレイは、立ち上がってもう一度伸びをしてからそのまま書斎を出ていった。
「えっと、マークとキムの出迎えに行ってきます。後で続きを読むので、出してある本は片付けずにそのままにしておいてくださいね」
書斎を出たところに控えていた執事にそう声をかけておく。
こう言っておかないと、部屋を出ている間に全部片付けられてしまうからだ。
「かしこまりました」
笑顔で一礼する執事に手を上げたレイは、そのまま急いで玄関へ向かった。
「おや、いかがなさいましたか?」
ちょうど玄関前の廊下で控えていたアルベルトがいて、驚いてレイを見上げた。
「えっと、ブルーがそろそろマークとキムが来るよって教えてくれたから、せっかくなので出迎えに来ました」
「ああ、左様でございましたか。では、ご一緒させていただきましょう」
予定では、別の執事が玄関先の控え室に待機しているので、マークとキムの出迎えは彼にしてもらう予定だったのだが、レイの言葉を聞いたアルベルトがそのまま二人の出迎えをする為に、レイと一緒に外で出て行ったのだった。
「うわっ、寒い!」
しかし、今にも雪が降り出しそうな曇天の空の下、竜の鱗山から吹き下ろす風と相まって先ほどよりもさらに気温が下がっているように感じて、表に出たところで震え上がったレイは思わずそう言って両腕で自分の体を抱きしめるみたいに胸元で重ね合わせた。
「お寒いようでしたら出迎えは私がいたしますので、レイルズ様は中でお待ちください」
心配そうなアルベルトの言葉に、レイは笑顔で首を振った。
「大丈夫だよ。えっと、火蜥蜴さん、僕とアルベルトを暖めてもらえるかな」
右手の指輪に向かってそう話しかけると、さっきと同じように火の守り役の火蜥蜴が出てきて目を細めて笑ったみたいな顔でうんうんと頷いた。
すると、もう一匹小さな火蜥蜴が現れてアルベルトの胸元にするりと潜り込んだ。
それを見たレイの火の守り役の火蜥蜴も、いそいそとレイの胸元に潜り込んで行った。
直後に胸元が暖かくなり、アルベルトの驚く声が聞こえてレイは満面の笑みになった。
「あのね、暖かくなったでしょう? それは火蜥蜴がアルベルトの胸元に潜り込んで暖めてくれたんだよ。小さな可愛い子だったね」
得意そうなレイの説明に驚きに目を見開いていたアルベルトは、納得したように小さく頷くとそっと胸元に手を当てた。
「火蜥蜴様、私まで暖めてくださりありがとうございます。おかげで寒くなくなりました」
軽く頭を下げたアルベルトの言葉に、彼の胸元の服の合わせ目から先ほどの火蜥蜴が顔を出し、アルベルトの手に何度も頬ずりをしてからいそいそと服の中へ戻っていった。
「アルベルトも精霊達から大人気みたいだね」
その様子を見ていたレイは、嬉しそうにそう呟いて右肩に座っていたブルーの使いのシルフをそっと撫でた。
「あ、来てくれたみたいだね」
ちょうどその時、円形交差点を回った二頭のラプトルがこちらへ向かってゆっくりと進んでくるのを見て、レイは笑顔で手を振ったのだった。
「はあ、やっと到着だ。ありがとうな。おかげで寒くなかったよ」
「本当だな。おかげで寒くなかったよ」
円形交差点に入ったところでマークが小さなため息を吐いてそう言い、そっと胸元を撫でた。
キムも嬉しそうにそう言って同じように胸元を撫でる。
「あ、レイルズが出迎えに来てくれているぞ。寒いのに風邪でも引いたらどうするんだよ!」
瑠璃の館へ向かう道に入ったところで、少し先に見えた人物が誰かに気がついたマークが慌てたようにそう言ってラプトルを急がせる。
「うわっ、本当だ。こんなに寒いのに駄目だって」
キムも出てきているのが誰かに気がついて慌ててそう呟き、マークの後を追ってラプトルを急がせたのだった。




