瑠璃の館へ
「あれ、ラプトルじゃあなくて馬車で行くの?」
久しぶりにゼクスに乗れると思って楽しみにしていたレイは、本部を出たところで用意されていた馬車を見て、驚いたようにそう言いながらラスティを振り返った。
「はい、少々気温が下がっておりますし、今日は雪が降るかもしれないとの事ですので、馬車を用意させていただきました」
苦笑いするラスティの答えに、レイは思わず自分の右肩に座っていたブルーの使いのシルフを見た。
『まあ、雪が降ると言うても小雪がちらつく程度だが、それよりも今日は風が少々きついようだからな。あの屋敷のある辺りは特にこの時期は竜の鱗山から吹き下ろす風がきつい。悪い事は言わぬから馬車で行きなさい』
苦笑いしたブルーの使いのシルフの言葉に、レイも納得して頷く。
「そっか、確かにこの時期は竜の鱗山から吹き下ろす風がきついものね。分かりました。じゃあ瑠璃の館までは馬車で行くんだね」
笑ってそう言い、控えていた執事が開けてくれた扉から中に入って座る。
ラスティは、馬車の後ろに用意されている従者用の場所に立つ。
一応、簡単な覆いのようなものがあるので吹きさらしというわけではないが、馬車の中とは違ってかなり寒そうだ。
当然だが護衛のキルート達は、馬車の前後にラプトルに乗って控えている。
その彼らが身につけているのは、ほとんど厚みのない普通のマントだ。
以前、銀鱗の館のお披露目会に行く際に聞いた話を思い出した。
彼らは、確かお腹のところに温石、つまり温めた小さな石を入れているから少しは暖かいと言っていたが、この気温だとそれ一つだけでは寒さを凌ぐのがせいぜい程度だろう。
「えっと、火蜥蜴さん。普段僕にしてくれているみたいに、ラスティと護衛の人達を暖めてもらえるかな?」
少し考えたレイは、ふと思いついて自分の指輪に向かって小さな声でそう話しかけた。
『うんいいよ』
レイの指輪から出てきた火の守り役の火蜥蜴がまるで笑ったかのように目を細めてそう言うと、その周りに何匹もの火蜥蜴達が姿を現してレイを見て、揃って得意そうにうんうんと頷いてから消えていった。
その直後にラスティとキルート達の驚いたような声が馬車の中まで聞こえてきて、レイは満足そうに笑って閉じた扉の窓から外を見た。
見上げた空は、確かに今にも雪が降りそうなくらいの曇天になっていたのだった。
動き始めた馬車の中で座り直したレイは、置かれていた膝掛けを広げて足の上に掛けて大きなため息を一つ吐いた。
『どうした? そんな大きなため息を吐いて?』
少し心配そうなブルーの使いのシルフの言葉に、苦笑いしたレイがもう一度ため息を吐く。
「だって、あの肖像画を皆に見られると思うとさあ……もう、恥ずかしい以外の言葉が出てこないよ」
引き上げた膝掛けに顔を埋めたレイの言葉に、ブルーの使いのシルフは横を向いて吹き出した。
「ブルー、面白がっているでしょう」
口を尖らせたレイの言葉に、もう一度吹き出したブルーの使いのシルフは笑いながらふわりとレイの膝の上にかけられた膝掛けの上に移動した。
『まあそう言いたくなる気持ちは分かるが、これはもう屋敷を賜った時点で屋敷の当主として避けられぬ事だよ。諦めて楽しむくらいの余裕を持ちなさい』
「そんなの無理! はあ、消えて無くなりたい……うん、この膝掛け、ふわふわですっごく気持ち良いし暖かいね。綿兎の毛かな?」
もう一度大きなため息とともに膝掛けに顔を埋めたレイは、笑いながら顔を上げてそっと膝掛けを撫でた。
『うむ、そのひざ掛けは……おお、蒼の森の綿兎達の毛で作られたもののようだな。蒼の森の気配がする』
「ええ? そんなの分かるの?」
まさかのブルーの使いのシルフの言葉に驚いたレイがそう尋ねると、笑ったブルーの使いのシルフも手を伸ばして柔らかな膝掛けをそっと撫でた。
『ああ。何十年も使われているような古い物になるとさすがに分からぬが、これはかなり新しい物のようだからな。そこから蒼の森の気配がするのが分かるぞ。うむ、このひざ掛けはなかなかに良き物のようだな』
「へえ、そうなんだね。じゃあこれはタキスやニコス、ギードが集めてくれた綿兎の毛で作られているんだね。あ、もしかしたら僕も手伝ったかも」
嬉しそうなレイの言葉に、笑ったブルーの使いのシルフも頷いてくれたのだった。
「あ、そろそろ到着かな?」
ブルーと楽しく話をしている間に、馬車は見覚えのある円形交差点を通り過ぎて別の通りに入って行った。
『ああ、確かに到着のようだな』
笑顔のブルーの使いのシルフがそう言って頷いてすぐに、馬車が速度を落とし始めしばらくしてゆっくりと止まった。
出迎えに来てくれたアルベルトと笑顔で頷き合い、そのまま足早に屋敷へ入っていったのだった。
『さて、明日はレイの肖像画のお披露目会だな。皆の反応が楽しみだよ』
楽しそうにそう呟いたブルーの使いのシルフは、屋敷の中へ入っていくレイのあとを追いかけていったのだった。




