競りへの出品準備
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
無事に仕上がったレイ製作の天体観測部屋のあるドールハウスは、運搬専門の担当者がわざわざ本部の細工部屋まで来てくれて、三人がかりでしっかりと大きな木箱に梱包して運び出してくれた。
大きな台車に載せて運んでくれた担当者の人を笑顔で見送ったレイだった。
出品物の届け先は、今回の寄付集めの夜会を主催しているマーシア夫人ところだ。
今までは、降誕祭前の寄付集めはマーシア夫人が、そしてこの年が明けてからの時期に行われる寄付集めの競りの行われる夜会は、先日亡くなられたグラディア様が主催となって行われていたのだ。
なので本来であればこの夜会は、亡くなられたグラディア様の後を引き継いだザヴィル伯爵家が主催するはずだったのだが、実は年明けからザヴィル伯爵家とその慈善事業を管理していた関係者達のところに、城の会計課から監察官が大勢入り強制的な財務調査が行われていて、既に関係者の中に逮捕者が出ている。
それ以外にも既にも多くの不正な資金の流れが指摘されていて、その関係でザヴィル家も大騒ぎになっている。
その結果、この状態のザヴィル家には今回の主催を任せられないと判断して、今年は急遽マーシア夫人がこの夜会も主催する事になり、ようやく降誕祭前の寄付金の処理が終わったこちらの関係者達も上を下への大騒ぎになっているのだ。
それを見た幾つもの大手の慈善事業の団体が後援という形で名乗りを上げてくれて、実際の夜会が始まるまでの、特に手間がかかる寄付された出品物の管理などの事前準備に参加してくれている。
まあ、その結果としてレイが出品する品物が何なのか、という情報がほぼ全て漏れているのだが、もう高値がつくのは確実だろうからまあ良いだろうと、ルーク達もそれに関しては見て見ぬふりをしている。
ロッカの工房にレイが個人的に依頼したあの小部屋シリーズのドールハウスも、もう全て仕上がっている。
昨日のうちにレイも仕上がった現物を確認したのだが、どれもとても綺麗に出来上がっていて大感激したのだった。
その際に、ロッカに言われてレイがあらかじめ作っておいた小さな椅子やミニテーブル、あるいは小さな本や粘土細工のお菓子などを、最低でもそれぞれの部屋に二つくらいは追加で入れてもらった。
これなら、確かにレイの名前で出品しても嘘ではないだろう。
それらも全て綺麗に梱包されて、すでに別途マーシア夫人のところへ送り届けられている。
レイは、彼が作ったドールハウス以外にも、組み紐細工で作った房飾りを全部で十個。それから、あの小さな人形用に追加で作った小さな裁縫箱を十個と、赤や紺色など綺麗な色の革を使ったトランクの大小セットを全部で五組用意して、全部まとめて一緒に届けてもらった。
競りの開始金額などは、主催者側で品物を見て設定するらしいので、金額に関してはレイは一切関わっていない。
ルークによると、この年明けの時期に行うこの寄付集めの夜会は各倶楽部からも多くの手作りの品々が出品されるらしく、降誕祭前の出品物よりも一品あたりの価格は高めのものが出る可能性が高いのだそうだ。
当然、そうなると多くの寄付が集まるわけで、レイも何か良さそうな物があれば競りに参加する気満々で楽しみにしている。
「さて、では無事に出品物の納品も済みましたので、参りましょうか」
部屋に戻ってきたところで満面の笑みのラスティにそう言われて、レイは情けない悲鳴を上げてソファーに倒れ込んでブルーの色のクッションに抱きついて顔を埋めた。
「うう、あの肖像画を思い出したら、もう恥ずかしくて頭から火が出そうです」
『それは大変だな。では、頭を凍らせておいてやるとするか』
情けない声でそう呟いたレイの声を聞いたブルーの使いのシルフが、笑いながらそう言ってレイの赤毛をそっと叩いた。
「ブルー、面白がってるでしょう! もう、本当に恥ずかしいんだからね!」
『大丈夫だよ。今回の披露目会の招待客は前回の屋敷のお披露目会よりはかなり人数も少ない。両公爵達を始め、いつも其方に良くしてくださっている方々だよ。それ以外は竜騎士隊の人達ばかりだからな』
からかうようなブルーの使いのシルフのその言葉に、大きなため息を吐いたレイは小さく頷いて顔を上げた。
「では、覚悟が決まったようですので、瑠璃の館へ参りましょう。今夜はあちらに泊まっていただきます」
笑顔のラスティの言葉に頷き、もう一回大きなため息を吐いてから立ち上がったレイだった。




