出品物の制作とこの後の予定
「ドールハウスがお気に召したとの事。大変嬉しゅうございます。今回は、比較的簡単に作れる組み合わせの物を多めにご用意いたしました。単品の小物の材料の用意もございますので、どうぞごゆっくりお選びください」
満面の笑みのマルティン商会のグラッセにそう言われて、レイも笑顔で挨拶をしてからテーブルに並べられた材料の数々を早速見始めたのだった。
ルークが言っていた寄付集め用の小物制作に取り掛かろうと考えたレイは、早速ラスティにお願いしてドールハウスを取り扱っているマルティン商会を呼んでもらった。
今回は、出品用の小物作りが目的なので、あまり時間がかかりそうな大きなドールハウスではなく、小さな箱の中に、庭や部屋の一角を再現した小さめの物を作る予定だ。
「でも、せっかくだからそれなりの物は作りたいよね」
笑顔で小さくそう呟いたレイは、早速並んださまざまな材料を手に取って選び始めたのだった。
「ううん、調子に乗って買っちゃったけど、こんなに作れるかなあ」
一部屋シリーズと名付けられた、文字通り一部屋をそのまま再現したシリーズは、キッチンやリビングだけでなくベッドルームやいかにも女の子達が喜びそうな可愛らしい部屋など、どれも可愛くてついつい目についたものを深く考えずに大量購入したレイは、用意された山積みになった材料を見て、困ったように笑っていたのだった。
『まあ、どれも大した手間ではない。心配せずとも其方ならすぐに出来上がるさ。きっと、出品すれば喜んでくれると思うぞ』
笑ったブルーの使いのシルフにそう言われて、ため息を吐いたレイも嬉しそうに大きく頷いた。
「じゃあ、今日は特に予定も無いし、これを持って早速ロッカのところにある細工部屋へ行こうかな」
大きな木箱に整理して入れられた材料の数々を見て、レイは嬉しそうにそう言って立ち上がった。
「それでしたら、このまま箱ごと細工部屋にお運びします」
控えていたラスティがそう言ってくれたので、運搬は重量物担当の執事達にお任せしておき、レイは一旦ラスティと一緒に部屋に戻った。
「ねえ、寄付集めの夜会への出品って、こういうのでも良いのかな?」
そう言って取り出したのは、レイがニコスのシルフ達に教えてもらってコツコツ作っていた組み紐で作った房飾りだ。
「ああ、もちろん大丈夫ですよ。これは素晴らしいですね。きっと喜ばれます」
レイが自分の剣にタキスが作ってくれた房飾りをつけるようになって以降、それまでは年配の人がたまにつけている程度だった組み紐製の房飾りは、若者達の間で密かな流行になっている。
大々的な流行になっていないのは、そもそも房飾りを作れる人が最近では少なくなってしまっている上に、紐だけよりも作る手間も時間もかなりかかるので、数が作れずなかなか手に入らないからだ。
レイやタドラの髪飾りを作っている工房でも、今では房飾りを専門に作る職人がいて必死になって注文に対応しているほどだ。
その辺りの事情を知るラスティは、レイが作った全部で十個の様々な色の房飾りを見て、これはまた大騒ぎになるだろうなと密かに感心していたのだった。
「ところでレイルズ様。一つご報告がありますので少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
もうこのまま細工部屋に行こうと思っていたレイは、少し改まった口調のラスティにそう言われて慌てて椅子に座り直した。
「はい、何でしょうか?」
居住まいを正して聞く体勢になる。
「ああ、難しい話ではありません。吉日の予定が決まりましたのでご報告です」
にっこり笑って取り出したのは、以前瑠璃の館のお披露目会をする時にも見た、神殿が発行している月割り表だ。
これは、ひと月ごとの星と月の運行に合わせて計算して割り出された良き日と忌み日などを記した表で、改まった行事を行う際には必ず使われるものだ。
「えっと、それは月割り表だよね。何が決まったの?」
確か、今月は特に大きな祭事の予定は無かったはずだが、急に何か決まったのだろうか?
首を傾げているレイを見て、にっこり笑ったラスティは月末に近い吉日を指差した。
「どうやらお忘れのようですが、この二の月の二十四日にレイルズ様の肖像画のお披露目会を行います。ルーク様から、その日に合わせて瑠璃の館にてここから五日間、本読みの会を開催するとの事です。ちょうど本読みの会が終わった翌日の夜に、寄付集めのための夜会が開催されます。ですので、お披露目会までの間に出品なさる品物はお作りいただくのが賢明かと思います」
肖像画のお披露目の事などもうすっかり忘れていたレイは、笑顔のラスティの言葉に顔を覆って情けない悲鳴を上げたのだった。




