レイの好きな物
「よし、書斎はこれで完成だね。ううん、思ったよりも案外簡単に出来たね。これならもう少し大きくて、お部屋が区切られているドールハウスでも作れそうだね」
レイは満足そうにそう呟いて、立ち上がって前から横から仕上がったドールハウスを見て小さく拍手をしたのだった。
ここまで仕上げたドールハウスは建物の手前側の壁が無くて、そのまま中が見えるようになっている。
初作品とは思えないほどの見事な仕上がり具合だ。
吹き抜けになった一階の中央部分に真っ赤な絨毯を敷いた大きな階段があり、その左右に広いキッチンとリビングがある。
左側のキッチンには、小さなヤカンがかけられたかまどがあり、水場や食器棚なども置かれているし、奥の壁面には、石窯製のオーブンも作られている。
そのオーブンの中では、並べられた丸いケーキといくつかの丸パンが今まさに膨らみ始めているところだし、オーブン横の壁面には、ちゃんと取り出し用の網棚や木製のパドルも置かれている。
右側の広いリビングには、横長のソファーと一人用のソファーが奥の壁面に並んで置かれていて、追加で作った黄色と青のクッションが並べられている。
リビング中央にはやや楕円形の丸いテーブルが置かれていて、全部で六脚の椅子も並べられている。
そのテーブルの上には、お茶会の準備が完璧に整えられていて、大小のお皿やグラス、お茶用のカップやナプキン、カトラリーが綺麗に並べられている。
横に置かれた二台のワゴンには、ガラス製の小さなピッチャーと小瓶の中には様々なクッキーが種類別に入れて並べられている。
もう一台のワゴンには、マロンタルトとアップルパイが用意されている。
キッチンで仕込み中のケーキとパンが焼きあがれば、即座にここへ持って来られるのだろう。
また二階部分は全部で三つの部屋があり、ベッドルームと書斎になっている。
ようやく仕上がった書斎にも一人がけのソファーと小さなテーブルが置かれていて、そのテーブルの上にはレイが追加で作った革の表紙の植物図鑑が置かれている。
中には1ページに一種類だがごく小さな植物の絵が描かれていて、ちゃんと開いて見る事が出来るようになっているのだ。
これはニコスのシルフに作り方を教えてもらって作った物だが、植物の絵はさすがに描くのは無理だったので、マルティン商会に追加でお願いして用意してもらったものだ。
初めてこれを見た時、ロッカとリムロスはもう声も出ないくらいに驚いていた。
しかし、二階の残る一部屋だけは、まだ家具も物も何も置かれておらず、壁紙が貼られているだけだ。
ここは特に指定が無く、製作者の好きに作っていい部屋になっているのだ。
『他の部屋はもう仕上がったようだが、この最後の部屋がまだだな。さて何を置く?』
なにもない部屋に現れた面白がるようなブルーのシルフの言葉に、レイは真剣な顔で考え込む。
「ねえ、ちょっと教えて欲しいんだけど、この部屋に置ける大きさで天体望遠鏡って、作れるかな?」
『ほう、天体望遠鏡を置きたいのか?』
優しいブルーの言葉に、レイは少し恥ずかしそうに笑いつつ頷いた。
「えっと、これって仕上がったらニーカにあげようかと始めは思っていたんだけどさ。なかなか上手く出来た初作品だし、せっかくだから部屋に置いておこうかと思って。それなら、僕が好きな部屋にしようかなって思ったんだけど、無理かな?」
天体望遠鏡は、仕組みがかなり複雑だし細かな部品も多い。作ってみようかと考えたが、あれをそのまま作るのはかなり無理がありそうだ。
『ふむ、其方が持つあの天体望遠鏡をそのまま作るのはさすがに無理だが、仕組みを簡素化して見かけだけならばまあ作れるだろうさ。ほら、丸い棒を取ってきなさい』
笑ったブルーの使いのシルフの言葉に頷いたレイは、部屋の奥にある材料を置いた棚に向かった。
ここに置いてある材料は好きに使っていいとロッカから言われているのだ。
ブルーの使いのシルフとニコスのシルフ達に教えてもらいつつ、幾つかの材料を取ってきて作業台に戻る。
ドールハウスはゆっくりと動かして少し離れたところへ置いておく。
まずは中に置く家具や道具作りからだ。
「えっと、天球儀はさすがに無理かな……あ! それならあれが使えそう!」
目を輝かせたレイが、突然そう言って立ち上がる。
『何事だ?』
驚くブルーの使いのシルフの言葉に、我に返ったレイが恥ずかしそうに笑って座り直した。
「えっとね。この前降誕祭の贈り物選びをした時にさ、シャムのところに天球儀のミニチュアが幾つかあったんだよね。あれは単なる置き物だったんだけど、あれならここに置くのにぴったりかと思って」
『ああ、確かにあったな。良いではないか。其方の従卒に頼んで呼んで貰えばいい。もしかしたら天体望遠鏡のミニチュアもあるかもしれんぞ』
「あ、そうだね。じゃあそっちはミニチュアの在庫を確認してからにしようっと。じゃあ、まずは家具作りからかな。えっと、ソファーと小さめのテーブル。あとは望遠鏡を見る時に座る椅子くらいかなあ」
これも別に追加で頼んであった家具の材料のセットを確認しながら、どれを作ろうか楽しそうに選び始めたレイを、ブルーの使いのシルフは愛おしげにずっと見つめていたのだった。




