それぞれの制作開始
「へえ、これが聞いていた人形なんですね」
「面白い。手足だけじゃあなく首も動くのね」
「確かに、これは着せ替えをして遊びたくなるわね」
小さな人形を手にした僧侶達や巫女達は、嬉しそうにそう言って顔を見合わせて笑顔で頷き合った。
ジャスミンとニーカに頼まれ、人形用のレース編みの仕事を引き受けた僧侶達は、早速日々のお務めの合間を縫って嬉々として極細の絹糸を使ってレース編みを始めていた。
それだけでなく、噂を聞いて手の空いている僧侶や巫女達が先を争うようにして集まってきて、人形を見るなり作品作りに立候補して様々なドレスや小物を嬉々として作り始めたのだ。
ディレント公爵のおかげで、今の神殿ではレース糸や毛糸、またそれらを紡ぐための材料だけでなく様々な布やボタンなど、手芸の材料や道具も以前と違って数多くの在庫がある。
もちろん、それらの品々はきちんと管理されているので勝手に持ち出せるわけではない。
希望者は、何を作るのか、どれくらい必要なのかを先に申し込んで、材料を分けてもらう仕組みだ。
完璧に採寸された各人形のサイズ一覧が作業用に割り当てられた部屋の壁に張り出され、制作希望者達は張り切って、それぞれ作るものの型紙作りや製図作りから始めたのだった。
まずは試作を兼ねて簡単な作りのものから作り始め、出来上がったところで実際に着せ付けて不具合がないか確認する。
人間用のものと違って作るもの自体が小さいので、案外早く仕上がる。
もちろん、作っているのがそういった細かい作業に慣れている、熟練の僧侶達や巫女達だからこその早さなのだけれど。
極細のレースのリボンや、何着かのドレスが仕上がったところでクラウディアがジャスミンとシルフを通じて連絡を取り、試作が仕上がった事を知らせた。
もちろん、クラウディアも人形のドレスに使う極細のレース作りに参加している。
『ええもう仕上がったの?』
『もっとかかるかと思っていたのに!』
並んだシルフ達がジャスミンとニーカの言葉を届けてくれる。
「案外小さいからすぐに出来るのよ。皆も張り切って作ってくれているわ。三人がかりで制作中の総レース編みのドレスは間違いなく凄い作品になるわよ」
笑ったクラウディアの言葉に、ジャスミンとニーカが歓喜の悲鳴を上げるのを、律儀にシルフ達が仕草付きで伝えてくれる。
『それじゃあ総レース編みのドレスは仕上がるのを楽しみに待つ事にするわ』
『レースのリボンや試作のドレスもね!』
「じゃあ、もっと頑張ってリボンを編まないとね。今度ボビンレースでも作ってみようと思うから、期待していてね」
大はしゃぎする彼女達の言葉に、クラウディアも笑顔で胸を張ってそう言い、またしてもジャスミンとニーカは歓喜の悲鳴を上げたのだった。
「ううん、木工細工で椅子の修理や丸椅子くらいは作った事があったけど、これは全く違うね」
まずはドールハウスの材料一式を持ってロッカの工房横にある細工部屋に行ったレイが、ため息と共にそう呟く。
一通りの材料を購入した際に、マルティン商会からこれを参考にしてくださいと言われて渡されたドールハウス作りの説明書を読んでみたのだが、ここを接着する、とか、ここを組み合わせる、など、簡単な絵とごく簡単な説明しかない。
どうやら、初心者用とはいってもある程度のドールハウス制作の基礎知識がある事が前提のようだ。
まずは説明書を読んだレイは、これは一人では到底出来上がらない事に気がつき、しばらく無言で考えてから素直にブルーとニコスのシルフ達に助けを求めた。
『仕方がない。では手伝ってやるとしようか』
苦笑いしつつも頼られて嬉しそうなブルーの使いのシルフの言葉に、ニコスのシルフ達も笑顔になる。
『もちろん我らも作り方は知っていますから』
『喜んでお手伝いますよ』
『でも作り方は教えるけど』
『実際に作るのは主様だからね』
笑った彼女達の言葉にレイは小さく吹き出す。
「あはは、もちろん作るのは僕がするから、君達は詳しいやり方を教えてね。えっと、まず最初はどこからするんだっけ?」
説明書の最初のページに戻ったレイの呟きに、早速ニコスのシルフ達が張り切って教え始めたのだった。
レイが細工部屋に早速来ていると聞いて、作り方の説明に始まり教えるつもり満々で様子を見に来たロッカとリムロスは、全くの初心者のはずのレイが、既に一人でドールハウスの外側部分をほぼ仕上げているのを見て揃って驚きの声を上げる事になったのだった。




