ドールハウスの材料選び
「じゃあ、これとこれをジャスミンとニーカ用にすればいいな」
「かしこまりました。早急に手配いたします」
大きなドールハウスを指差しながらのルークの言葉に、マルティン商会のグラッセが満面の笑みでそう言って大きく頷いた。
「よろしくお願いします。じゃあ、あとはレイルズ用の未完成のドールハウスだな。そっちはどうなっているんだ?」
ルークがそう言って別の列を振り返る。
少し前から、レイルズがそっちへ行っているのに気が付いていたルークは、何やら真剣な顔で積み上がった木の板を手にしているレイを見て小さく吹き出した。
レイが手に取って見ているのは、ドールハウスの外壁にあたる部分で、もう外壁部分は細工がなされていてそのまま組み立てればいいようになっている。
「へえ、これが外壁部分で、こっちが屋根瓦。屋根瓦はもう作ってくれてあるものと、自分で瓦を一枚ずつ並べるものがある。ううん、ちょっと思っていたのよりもはるかに凄いよ。これ」
感心したようにそう呟き、レンガ模様が刻まれた外壁部分をそっと撫でた。
「レイルズ様、ここにあるのは初心者用の物ですから、このように外壁などはすでに作ってあります。ですが、本格的なものになれば外壁部分を自分で加工するところから始まりますぞ」
笑ったロッカの言葉にリムロスも苦笑いしつつ頷いている。
「私は、板を切るところから始めますよ」
「そんなの無理〜〜! 一生かかっても仕上がらないよ」
情けない悲鳴を上げるレイを見て、ロッカとリムロスが揃って吹き出していたのだった。
「えっと、じゃあ外壁はこのレンガ模様のにしよう。それで中の部屋は……一番簡単なのにします」
内装部分も様々で、大きなものになれば一部屋ずつ箱単位になっていて、それぞれに作って最後に組み立てるようになっている。
だが、初心者のレイがいきなりそれを作るのはかなり無理がある。
苦笑いしたレイが見たのは初心者用の内装で、屋敷の中は簡単な壁で区切られているが、ほぼ吹き抜けに近い状態になっていて、中央部分に大きな階段があり、一階にはキッチンとリビングが、二階には部屋が三つあるだけの簡単な仕様だ。
とは言っても、それぞれの部屋に置く家具や小物なども選べるようになっているので、かなり本格的なドールハウスが仕上がるようになっている。
「最初に作るものとしては、充分かと思いますぞ。大変でしょうが、まずは一つ仕上げてみればよろしいかと。そうすれば、様々な事が分かりますのでな」
笑顔のロッカの言葉にレイも笑顔で頷く。
「外壁は組み立てて作れるようになっているし、これなら何とかなりそう。もし分からなくなったら教えてください」
「もちろん、喜んで何でもお教えしますぞ。お作りになる際には、よければ工房にある細工部屋をお使いください。あそこなら、すぐに道具が手に入りますし、何か分からなければすぐに聞けますからな」
外壁部分を手にしたロッカが笑顔でそう言ってレイを見上げる。
「えっと、細工部屋ですか?」
初めて聞く言葉に、驚いたレイがロッカを振り返る。
「はい、工房には今回のレイルズ様のように少々大掛かりな物をお作りになる際にお使いいただく部屋がございます。部屋には、一応一通りの道具も揃っておりますので、この程度のドールハウスなら、すぐに始められますぞ」
部屋で作るつもりだったレイは、驚いたように目を見開き、無言で自分が選んだ材料を見た。
細工がなされた何枚もの外壁と内装用の板。中に入れる家具も簡単な細工や加工は既にしてくれてあるので、切り抜かれたそれらを自分で組み立てて、最後に塗装などをするようになっている。
椅子やベッドなどは、別に用意された布や綿も使って仕上げるみたいだ。
確かに、どれ一つとっても様々な道具が必要だろうし、作る事自体も簡単ではないだろう。
「そっか、確かに難しい加工部分は先にしてくれてあるとは言っても、これを作ろうと思ったら色んな道具が必要だもんね。うわあ、釘はこんなに小さいんだ」
納得してそう呟いたレイは、満面の笑みでロッカを振り返った。
「じゃあ、遠慮なくその細工部屋を使わせてもらいます。お仕事のお邪魔をしない範囲で教えてくださいね」
笑ったレイの言葉にロッカとリムロスも笑顔で頷き、グラッセとスタッフさんに選んだ材料を確認してもらったのだった。
『おやおや、これはまたずいぶんと大掛かりな物を選んだのだな。さて、無事に仕上がるよう応援してやるとしようか』
面白がるようなブルーの使いのシルフの言葉に、お手伝いする気満々なニコスのシルフ達は、揃って満面の笑みで何度も頷いていたのだった。




