ドールハウス選び
「ああ、レイルズはここにいたのか。ちょうどよかった。午後からマルティン商会が来るから、一緒に見るといいよ」
事務所でロベリオ達の事務作業を手伝っていると、書類の束を持ったルークが入ってきてレイの背中を軽く叩いてそう言ってから席についた。
「マルティン商会？ えっと……ああ、この前言っていたドールハウスを扱っている商会ですね」
聞き覚えのない商会の名前に一瞬考えたレイは、すぐに思い出して笑顔でそう言ってルークを振り返った。
それを聞いて、ニコスのシルフ達が笑顔で頷いている。
「おう、そうそう。言っていた通りに未完成のものも一通り持ってきてくれるらしいぞ。それから、ロッカとリムロスがドールハウスに詳しいから、今回は一緒に見てくれる事になったよ。まずは彼女達の分を一緒に選んでくれるか。それで、彼らから詳しい作り方なんかを聞くといいよ」
「そうなんですね。了解です。ううん、どんな風なんだろう。楽しみだなあ」
嬉しそうにそう言ったレイは、書き終えた書類をロベリオに渡して笑顔で大きく頷いたのだった。
一通りの事務仕事を片付けたレイは、ロベリオ達が書き終えた書類を片付けるのを待ってから、ルークも一緒に食堂へ向かった。
「今日は、ニーカ達は一緒じゃあないんですね」
階段を降りながらルークを見ると、その声に顔を上げたルークが笑ってタドラを指差した。
「ああ、今日は朝から本部の会議室に、神殿から指導役の神官様が来てくれているんだ。それで、今日は一日がかりで、一年間の年間を通じての行事予定の説明や、その際の竜司祭の役割について説明してくれているんだ。食事はその講義の合間に食べる事になるので休憩時間がちょっと分からないから、今回は部屋に食事を用意してもらっているよ。だから僕は朝、神官様と挨拶しただけで、今日は一日自分の事務仕事なんだ」
笑ったタドラの説明に、納得したレイも頷く。確かに、朝一番はタドラは何処かに行っていて事務所にはいなかった。
「彼女達も頑張ってるんだなあ。僕も頑張らないと」
小さくそう呟いてぐっと拳を握るレイを見て、ロベリオ達がにんまりと笑う。
「そうだな。しっかり頑張れ。言っておくけど、春までなんてあっという間だからなあ。いやあ、立派になったレイルズ君を見るのが楽しみだよ」
うんうんと頷き合う彼らの言葉に、レイは顔を覆って情けない悲鳴を上げたのだった。
いつものようにしっかりと食事を終えたレイは、マルティン商会が来るまで休憩室で食休みを兼ねて陣取り盤でルークに相手をしてもらって過ごし、執事が呼びに来てくれたところでルークとタドラと一緒にその部屋に向かった。
ちなみにロベリオ達とは廊下で別れ、彼らはまた事務所へ戻って行った。
「うわあ、凄い！ これがドールハウスなんですね！」
案内されたのは、本部にある会議室の一つでかなり大きな部屋だ。
部屋に入ったところで目に飛び込んできたその光景に、レイは思わず大きな声でそう言ってしまい慌てて自分の口を両手で塞いだ。
「ご指名いただきありがとうございます。マルティン商会のグラッセと申します」
レイ達を見たやや小柄な男性が、笑顔でそう言って深々と一礼する。
「本日はドールハウスをご覧になりたいとの事でしたので、一通り持って参りました。こちらの列が完成品でございます。どうぞお好きにご覧ください」
「よろしく。ああ、ロッカ達も、もう来てくれているんだね。じゃあ、まずは好きに見てみるといい」
ルークがグラッセに向かって笑顔で手を振り、ロッカとリムロスが彼らが来たのに気付いて駆け寄ってくるのを見てレイルズを二人の方へ押しやった。
「ロッカ、リムロスも、よろしくね。僕、ドールハウスを見るのは初めてなんです」
笑顔のレイの言葉に、ロッカ達だけでなくマルティン商会のグラッセも笑顔になった。
「こちらこそよろしくお願いいたします。ではまずは、ジャスミン様とニーカ様にお贈りするのを選ぶといたしましょう」
「おすすめはこの辺りの大きさの物になります。これらは、今お嬢様方の間で大人気のあの人形と、大きさがピッタリですからね」
「ああ、確かにそうだね。へえ、家具がちゃんと置いてあるし、道具や本まで小さいけどちゃんとあるんだね」
早速並んだドールハウスを覗き込みながらレイが感心したように呟く。
「そうです。家具などは当然作りますが、こういった細かい道具などをどこまで作るかも、ドールハウスの楽しみなんですわい。ほら、こっちは本や食器などは絵に描いてあるだけですからなあ」
笑ったロッカの言葉に別のドールハウスを覗くと、確かにそっちは棚の中などは細かく描かれた絵になっているだけだ。
「へえ、こういうのもありなんだね。でも、これはこれで綺麗だよ？」
「そうですな。飾るだけならこっちの方が綺麗に見えますなあ。ですが、ジャスミン様やニーカ様は人形で遊ばれるとの事ですから、出来ればこちらのように細かい部分まで作り込まれたものがよろしいかと」
ロッカの説明に納得して、細かい部分まで作り込まれたドールハウスを順番に見ていく。
笑顔で説明してくれるマルティン商会のグラッセだけでなく、時にロッカやリムロスも笑顔で嬉々として細かい部分の説明をしてくれるものだから、途中からはレイはもう選ぶのは皆に任せて珍しいドールハウスを堪能していたのだった。
