少女達の遊び
「きゃ〜〜〜なんですかそれ!」
「レイルズ、凄い!」
ティミーの案内で休憩室にやって来たジャスミンとニーカは、テーブルの上に並んだ小さなトランクを見るなり悲鳴のような甲高い歓声を上げ、レイ達男性陣が揃って飛び上がった。
「ねえ見て! これ開いて中に物が入れられるわ!」
タドラが先ほど見て、そのままテーブルの上に戻した開いた状態のトランクを見てニーカがまた歓声を上げる。
「きゃ〜〜〜凄い凄い! ほら、大きさもぴったりよ!」
目を輝かせたジャスミンが、抱きしめていたカゴをテーブルの上に置き、そこからドレスを着た人形と軍服を着た人形を取り出す。
「ううん、いい感じだわ。でもこうなると、執事役が欲しいわね」
「確かにそうね。じゃあ、私の人形を執事役にすればいいわ。ああ、でも服が違うわね」
ジャスミンがトランクの横に人形を並べて困ったようにそう言い、笑ったニーカが自分が持って来ていたカゴから男性の人形を取り出してトランクの横に置いてから、そう言って部屋の隅に控えている執事を見た。
「私も軍服しか持っていないから……ああ、そっか。別にこれでいいじゃない。ほら、この人は実はお忍びの竜騎士様で、控えているこの人は従卒さんなのよ。ええと……誰かしらね?」
そう言ってイタズラっぽそうに笑ったニーカが、ちらっとラスティ達従卒を見てからジャスミンを振り返った。
「あはは、ニーカ最高! じゃあそれでいきましょう。そうね。これは誰なのかしらね?」
手を打ったジャスミンも笑って頷き、二人は嬉々として人形を手に遊び始めた。
幼い頃はタガルノの農場で虐待されながら過ごし、竜の主となった途端に戦場へ放り出され、結果として竜と共に捕虜となりオルダムへ連行され、怪我が癒えるとすぐに出家して見習い巫女となったニーカは、当然だが人形遊びなどした事がなく、バルテン男爵から送ってもらった人形を貰ってもそもそもの遊び方が分からず、どうしたらいいのかすら分からなくて心底困り果てて戸惑っていたのだ。
そんなニーカを見て彼女の生い立ちを改めて思い出したジャスミンは、じゃあこれも勉強ね、と笑って、人形の扱い方に始まり、様々なごっこ遊びのやり方を懇切丁寧に教え始めたのだった。
今のニーカは、日々のお祈りや竜司祭としての勉強はあるが、今までとは全く違うここでの生活に馴染んでもらうのも重要な事だと考えられているので、それらの予定はかなりの余裕をもって組まれている。
その為、時には何の予定もない日も用意されていて、ジャスミンと一緒にのんびりとお茶やお菓子を楽しんだり、好きに読書をしたり、人形で遊ぶ時間を作る事だって可能なのだ。
今は、ジャスミンに教えてもらって初めてのドレスを縫っているところだ。まだまだ拙い出来ではあるが、間も無く仕上がるそれをジャスミンも楽しみにしている。
「へえ、どうやら楽しんでもらえたみたいだね。えっと、それは全部まとめて進呈するから、よければ遊んだ感想や、もっとここをこうして欲しいみたいな意見があれば……」
「「ええ! 貰っていいの!」」
二人揃ってもの凄い勢いで揃って振り向きながらそう言われて、話している途中だったレイがまた飛び上がる。
「うん、どうぞ。型紙は一通りあるから、また作るからね。まあ、もしも何か確認したい事があったりしたら、その時はちょっとだけ返してね」
「もちろん! そうね。私達が持っていたら、いつでも確認出来るものね!」
満面の笑みで頷いたジャスミンが、並んだトランクを見ながら嬉しそうに頷く。
「ねえニーカ、この大きなトランクは二つあるから分けっこしましょう。あとは同じ大きさが無いから一緒に使えばいいわね。じゃあ、ここにはこの前仕上がった膝掛けとクッション、それから敷布を入れておけばピクニックに行けるわ!」
「素敵! じゃあ私のトランクには、ええと……あ! この前届いた食器を入れておけば、ピクニックでお茶会が出来るわね」
「素敵! 是非やりましょう! ああ、手持ちに厚手の緑色の布があるから、あれを敷けば草原でのお茶会になるわね!」
嬉々としてどんな設定で遊ぶかの相談を始めたジャスミンとニーカを、レイ達はもう呆然としたまま見つめていたのだった。
そしてそんな彼女達の頭上では、呼びもしないのに勝手に集まって来たシルフ達が、嬉々として一緒になってごっこ遊びを始めていたのだった。




