意外な才能?
「無理を言ってごめんね。ラスティ。へえ、こんなに大きさが色々あるんだね」
台車で部屋に運び込まれた予想以上のトランクの数に苦笑いしながらそう言い、レイも台車からトランクを下ろすのを手伝った。
「この辺りが、一般的によく使われる大きさだそうです。旅行用ならばこの辺り。書類を運んだり、小さめの品物などを運ぶ際にはこちらの小さめのトランクがよく使われているそうです。旅行用と書類を運ぶトランクでは、内装が違っているそうですので、ご確認ください」
大きさ別にいくつかの山に分けたラスティの言葉に、レイも納得して頷く。
「了解。じゃあ、中までじっくり調べさせてもらうね。それにしても、これだけ大きさに種類があるのなら、作る際に人形との大きさを合わせるのは、あまり気にしなくてもよさそうだね」
目を輝かせたレイはそう言い、まずは大きめのトランクを一つ取り出して開き、隅から隅までどのような作りになっているのか、金具の大きさや持ち手の作り、ベルトの作りから中の様子まで、それはそれは真剣に観察し始めたのだった。
気が済むまで観察をしたあとは、また大きな紙を取り出して定規を手に型紙を作り始める。
時折実物を確認しながら黙々と作業を始めたレイを見て、トランクを運ぶのを手伝ってくれた執事と共に、ラスティは一礼して静かに部屋を後にしたのだった。
「ご苦労さん。どんな様子だ?」
ラスティが廊下に出たところで、ちょうど会議から帰ってきたルークがそう尋ねてきた。
「はい、トランクの見本をいくつかお届け致しました。それはそれは真剣なご様子でトランクを観察しておいででした。今は、型紙を作っておられます」
「よし、ちょっとどんな風なのか見てこよう」
「それなら俺も見たい見たい」
無事にお披露目会が終わり、すっかり通常勤務に戻って会議に参加していたカウリもラスティとルークの言葉を聞いて手にしていた書類の束を執事に預けた。
「あ、ルーク、カウリも。会議終わったんだね。お疲れ様です」
ノックの音に顔を上げたレイが、部屋に入ってきたルークとカウリを見て笑顔になる。
「俺達が面倒な会議に出ている間に、どこまで進んだんだ?」
「えっと、今トランクを作り始めたところだよ。一応こんな感じで、同じ作りの大小三つの大きさで作ってみようと思ってさ」
笑顔で見せたのはトランクの型紙で、確かにトレーごとに大きさが分けられていて三つある。
「これが本体で、こっちがベルト。これが持ち手の型紙だよ。トランクの中は縁の部分の革を二重にして補強するよ。ほら、小さな金具をたくさん作ってくれたから、遠慮なく思い切り使えるから、有り難いよね」
そう言って差し出したのは、両手を広げたくらいの大きさの平たくて浅い木箱で、中は幾つもの升目に区切られていて、何種類もの金具が綺麗に整頓して入っている。
「こっちは比較的大きな金具で、小さいのは無くさないように紙で包んで入れてあるんだよ」
笑ってもう一つ差し出したそこには、見慣れた粉薬の包みがびっしりと並べられている。
「あはは、入っているのは粉薬じゃあなくて小さな金具かよ」
それを見て笑ったカウリが包みを一つ取り出す。
裏と表の両面に、何が入っているか書かれていて、やや歪ながら金具の形も描かれている。
「へえ、こんなに小さな金具を作る職人さん達も凄いけど、これを使って自分で小物を作れるお前を尊敬するよ。俺には絶対無理!」
呆れたように笑ったカウリが、そう言って包みを元に戻す。
「あ、これは一応完成だよ。お裁縫箱です。まだ中は空だけどね」
そう言って、先ほど仕上がったばかりの裁縫箱を見せる。
「うわあ、小っせえ!」
笑ったカウリの叫びに、ルークも同じく驚きの声を上げる。
「ええ、今日から制作に入るんだって聞いていたのに、もう出来たのかよ!」
「だって、型紙さえ出来れば作るのは意外に簡単だったよ。小さな部品を貼り合わせるのはちょっと面倒だったけどね」
当然のようにそう言って笑うレイを見て、ルークは無言でその小さな裁縫箱の隣に立つブルーの使いのシルフを見た。
「ええと……手伝ったりは……」
『我は一切手伝っておらぬし、特に何か教えたりもしておらぬ。これは正真正銘レイが自分で考えて作ったものだよ』
「おお、すっげえ」
真顔のブルーの使いのシルフの言葉に、ルークとカウリが揃って感心したように声を上げる。
「最初のこれは、ジャスミンのところかなあ。だけどこの型紙があれば量産出来るから、モルトナかロッカのところで相談してみてもいいかもね」
笑ったレイの言葉にルークが真顔になる。
「それならこれ、型紙の写しをもらえるなら訓練所の子達に渡して作らせるよ。構わないか?」
「もちろんいいよ。じゃあ、この型紙は僕が手元に置いておきたいから、後で写しを渡すね」
当たり前のように笑って頷くレイに、ルークも笑顔になる。
「よろしくな。ううん、これはちょっと意外な才能だな」
笑ってそう呟くルークは、切り出されたトランクの部品に興味津々だ。
「へえ、すげえな。だけど、見ていても何がどうなってこれがトランクになるのか、俺には全く分からないぞ」
横からレイの手元を覗き込んだカウリは、そう言って首を傾げている。
「さすがにトランクはすぐには仕上がらないね。頑張って作るから、仕上がりを楽しみにしていてくださ〜い」
「おう、じゃあ仕上がりを楽しみに待つとするか」
「そうだな。邪魔者は退散するからしっかり頑張ってくれたまえ」
笑ったルークとカウリの言葉に、レイも笑顔で頷いたのだった。




